08.13.2019
スロヴェニアのGKの育成方法とは?/世界で活躍するGKを育ててきたペイコヴィッチ氏が語るトレーニング理論
COACH UNITED ACADEMY、今回の講師はイラク代表のGKコーチを務める、ニハド・ペイコヴィッチ氏。スロヴェニア代表のGKコーチとして、サミール・ハンダノヴィッチ(インテル)、ジャン・オブラック(アトレティコ・マドリード)というワールドクラスのGKを指導し、2010年の南アフリカW杯出場に貢献した人物だ。ペイコヴィッチ氏に「ヨーロッパで活躍するGK像から学ぶ、育成年代のトレーニング理論」と題し、スロヴェニアのGKの育成事情と実践方法について解説してもらった。(文・鈴木智之)
「ボールへ最短距離でアプローチすること」がGKには求められている
まずはスロヴェニアのGKの育成における基本哲学から。ペイコヴィッチ氏は「GKのプレーで大事なのは、ボールへ最短距離でアタックすること。『ボールへのアタック』という基本原則をもとに、GKを始めた幼少期から、その考えに基づいて指導をしていきます」と語る。
その上で、次の6つの側面から、GKに必要な能力を定義していくという。
【GKの育成における、6つの領域】
1:運動能力、運動スキル
2:技術・コーディネーション能力とスキル
3:生理学的、形態的特徴
4:メンタル面の特徴と能力
5:戦術的認知能力とスキル
6:社会性の特徴と能力
「6つの領域を説明すると、サッカー以外のスポーツもできるような、動きのテクニックがあること。身体の動かし方や技術を速く覚えて、実行できること。戦術的な認知能力。身長や手の長さ、体重などの形態的特徴。怖がらないメンタルを持ち、周りとコミュニケーションをとり、良い関係を構築できること。さらには、チームに対してどのような影響力を与えられるのかという"社会性"も大切な要素になります」
ペイコヴィッチ氏は「かつてGKというと、少々変わり者のイメージがありましたが、現代サッカーのGKに求められる要素は多岐に渡っており、選手のキャラクターも変化してきた」と感想を述べ、スロベニアが生んだ2人の偉大なGKを例に上げる。
「スロヴェニアの育成の中から、サミール・ハンダノヴィッチ(インテル)とジャン・オブラック(アトレティコ・マドリード)という二人が出てきました。 彼らを見るとわかる通り、形態的に足の長さが胴体よりも長く、爆発力(瞬発力)を持ち、ジャンプ、スピード、運動スキルが高い、いわゆるスポーツ万能タイプです。そのような選手が、将来的に成功していきます」
【GKに求められる特徴的な要素】
・爆発力や瞬発力
・コーディネーション、スタートダッシュ、スピード
・インテリジェンス、勇気、感情のコントロール
・ゴール前でのポジショニングとスペースの感覚
・教育された技術、戦術能力
これらに加えて、フィールドプレイヤーと協力してプレーするという足元の技術も含めた、総合的な能力を持ったGKが求められているという。
「GKに必要な要素を、段階的なトレーニングで身につけていきます。最初に学ぶのはボールとのコンタクトです。ファーストステップとしてグラウンダーのボールなど、地面に近い位置のボールに対応する技術から始めます」
スロヴェニアでは8~10歳頃から、GKのトレーニングを始めている
ここからは、具体的なGKのプレーについて解説してもらった。まずはボールへのキャッチングから。
「キャッチングはGKの基礎です。まずは横たわった状態からスタートし、次に膝をついた状態、片膝をついた状態、そして通常の構えへと段階的に指導をしていきます。ダイビングでは、静止状態から片足のワンステップダイビング、そして動きのあるステップからダイビングへと移行していきます」
スロヴェニアでは8~10歳頃から、GKのトレーニングを始めるという。当然のことながら、この年代ではGKのプレーだけでなく、フィールドプレイヤーのトレーニングもしていく。
「最初はボールとのコンタクトに対して、恐怖心を持たないことを教えていきます。そして、ただサッカーの技術だけを学ぶのではなく、集団やグループの中でどうプレーをするか、プレーの中で主導権を持つことなど、試合を通してGKの技術や役割を学んでいきます。試合で使うのは、ミニサッカーやフットサルのゴールです。その中でキャッチングやボールを弾くこと、セーブすることなどを学んでいきます」
動画では10歳から12歳までの指導、12歳から14歳までの指導についても説明している。どのような段階を経て、GKを育成していくのか。興味がある人は、ぜひ動画で確認してほしい。
【講師】ニハド・ペイコヴィッチ/
サミール・ハンダノヴィッチ(インテル)とジャン・オブラック(アトレティコ・マドリード)を10代の頃から直接指導。日本人選手では、権田修一がSVホルン時代に指導を受けた。
2007年から2017年まで、スロヴェニア代表のGKコーチを歴任し、2010年の南アフリカW杯出場に貢献2017年から2018年にスロヴェニア育成年代の代表コーチを務めた後、2018年よりイラク代表のGKコーチに就任。
取材・文 鈴木智之