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日本のGKの課題とは?/世界で活躍するGKを育ててきたペイコヴィッチ氏が語るトレーニング理論

ヨーロッパで活躍するゴールキーパー像から学ぶ、育成年代のトレーニング理論。後編のテーマは「スロヴェニアのGK育成事情とペイコヴィッチ氏から見た日本のGK」について。スロヴェニア代表のGKコーチとして、サミール・ハンダノヴィッチ(インテル)、ジャン・オブラック(アトレティコ・マドリード)を指導し、現在はイラク代表のGKコーチを務めるペイコヴィッチ氏に、トレーニングの組み立て方や日本のGKの課題などを解説してもらった。(文・鈴木智之)

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14歳まではGKに必要な技術や戦術を教える時期で練習をメインとしない

動画の前半パートでは、指導者が選手を教える際の心構えを、ペイコヴィッチ氏がレクチャーする。

「まず、選手に対して何を、いつ、どのように教えるのかを整理します。選手には『学習期』と『トレーニング期』があり、この二つは違うことを理解することが重要です。私は14歳までを学習期、15歳からをトレーニング期と位置づけています」

ペイコヴィッチ氏によると、14歳まではGKに必要な技術や戦術を教える時期であり、学習80%、トレーニング20%の割合で指導していくという。そして15歳から18歳頃までは70%ほどがトレーニング、残りの30%が、学習してきた中で足りないことを身につけていく時期。18歳以上になると、大人がするようなトレーニングをメインとした時期になるという。

学習期では、主にプレーの習得を指導していく。ここではデモンストレーションを中心に、「見て覚える」ことに重点を置き、GKとしてのスキルに加えて、運動能力の向上も重要なテーマになる。

「デモンストレーションをする時は、全員に見せることもあれば、個人に一対一の状況で見せること、映像を使ってレクチャーすることもあります。年齢に応じて、簡単なものから難しいものへとステップアップしていき、必要な技術の優先度を見極め、段階を経て取り組むことが大切です」

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ペイコヴィッチ氏は学習期におけるデモンストレーションの重要性を説き、「目で見て真似をするのが一番簡単なので、まずは指導者が正しい動きをやって見せること」とアドバイスを送る。

ここからは、ペイコヴィッチ氏が考える、学習メソッドについて話が進んでいく。

「学習法には、全習法と分習法があります。全習法とは、動き全体を学ばせること。分習法は、動きの一部分を取り出してトレーニングをすることです。どちらかに偏るのではなく、全習法と分習法を組み合わせてトレーニングをすることがポイントです」

動画では学習法を踏まえて、トレーニング形態、トレーニングメソッド、年齢を考慮に入れたトレーニングの選択、GKスキルの学習、 構え方の技術、ボールへのアタックの考え方などが詳細に語られているので、ぜひ確認してほしい。

日本のGKはボールに対して非効率な後方よりのプレーが多い

動画の終盤は「ペイコヴィッチ氏から見た、日本のGKについて」というテーマで解説が行われた。ペイコヴィッチ氏は、SVホルンのGKコーチ時代に権田修一選手を指導し、今回の来日では日本の大学生と小学生を対象としてクリニックを行った。日本のGKを指導して気になったのが「ボールに対して、後方でアクションを起こすこと」だと言う。

「日本のGKは、ボールに対してできるだけ前方でアプローチするのではなく、後方でアクションを起こすことが多いのが印象に残っています。我々は『ボールに対してできるだけ前で、最短距離でアクションを起こす』という考え方のもとに指導をしているので、驚きでした」

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さらに「日本の選手はヨーロッパの選手と比べて身長が低いので、形態的な違いがあるのかもしれませんが」と前置きをした上で、次のように続ける。

「ボールに対して前方にアタックしてセーブするのではなく、後方寄りで処理することが多いので、ダイビングなどで地面に倒れたときに、ゴールに背を向けた状態で起き上がろうとする選手が多くいました。これは、効率的な動きとは言えません。ボールへの対応は、まず前方でボールを止めて押さえること。ボールに向かって行くようにセーブすれば、体の前で対応することができますし、ボールに到達する時間も短くて済みます」

ヨーロッパではGKは受け身ではなく、ボールに対してアタックしていく姿勢で挑むのが一般的だという。これが日本のGKとの一番の違いだと感じたようだ。さらには、トレーニングの設定についても言及していく。

「トレーニングのインテンシティ(強度)も違いを感じました。あるデータによると、試合中、GKが連続して動く時間は最大で7秒だと言われています。7秒間で起こすアクションは多くて4つ程度です。そのため私はトレーニングのときに、ひとつの動きを4回繰り返すようにします。キャッチングであれば、4球受けて交代という形です。トレーニングの強度を考えても、それがベストだと思います」

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ペイコヴィッチ氏は豊富な経験に基づき、様々な知見を提供してくれた。GKのトレーニングや育成の考え方の情報は、フィールドプレイヤーに比べて少なく、貴重な資料になっている。ぜひ全貌を動画で確認してほしい。GKの指導について、新たな考えを知ることができるはずだ。

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【講師】ニハド・ペイコヴィッチ/
サミール・ハンダノヴィッチ(インテル)とジャン・オブラック(アトレティコ・マドリード)を10代の頃から直接指導。日本人選手では、権田修一がSVホルン時代に指導を受けた。
2007年から2017年まで、スロヴェニア代表のGKコーチを歴任し、2010年の南アフリカW杯出場に貢献2017年から2018年にスロヴェニア育成年代の代表コーチを務めた後、2018年よりイラク代表のGKコーチに就任。