09.23.2020
実戦形式で幅と深さを取り攻める方法/センアーノ神戸の数的優位を作り出すオフ・ザ・ボールのトレーニング
「ボールも人も動く」をコンセプトにしたサッカーを展開する、センアーノ神戸。過去5年間で、数々の全国大会の優勝に輝いた強豪街クラブでは、どのようなトレーニングをもとに「常に数的優位を作るアクションを起こせる選手」の育成を行っているのだろうか?
「数的優位を作りフィニッシュまで持ち込む動きのトレーニング」というテーマで行われた後編では、より実践に近い状況設定での練習の様子をお届けしたい。(文・木之下潤)
数的優位の状況を作り出すのに大切なのは「幅と深さ」をとること
前編では、「数的優位を作るために必要なパス&コントロール」と題し、受け手と出し手が状況を把握した上で適切なアクションをとれることにフォーカスしたトレーニングを行った。後編では、攻守に人数を増やし、より実践に近い環境設定がなされ、担当してくれたU11の大木宏之監督の指導も徐々に熱を帯びていった。
最初のトレーニング1は「3vs3+サーバー」。
後方にあるゴールエリアには、味方のサーバーが立つ。攻撃がうまくいかない場合は、後ろのサーバーにパスを出してゲームの作り直すことが可能。サーバーはボールを受けるとワンタッチでプレーエリアに侵入し、パスを出した選手がサーバーとしてサポート役に回る。得点はゴールエリアでパスを受け取るか、あるいはワンタッチでゴールエリアに侵入するか。ツータッチ以上のドリブル突破はノーゴールとなる。
前編からの流れでより実践に近づき、守備側のマークが激しさを増す。攻撃側が一人ひとりマークにつかれた状況で「前に進みあぐねている」状態が続くと、大木監督の笛が鳴った。
「今のこの状況、後ろにパスを受ける選手が二人いるよね? もしボールを持っている選手に対してこのサーバーが的確なポジションをとれたら、もう1人の選手は攻められない? じゃあ、サーバーがここでサポートしたらも一人はどこにポジションをとる?」
大木監督がチーム全体にたずねるといろいろな答えが挙がった。その中で「前に部屋(スペース)が空いている」との答えが返ってきた。
大木監督「そう。そうすると、あの部屋を使うためには縦パスを出さなきゃいけない。だったら、縦パスを出すためには何が必要になる?」
選手「幅をとる」
大木監督「どうして幅をとるの?」
選手「3人のディフェンスの間が広がるから」
大木監督「そう。後ろにサーバーがいるのだから、グリッド内の3人はサポートする必要がないし、前の部屋(スペース)を見つけてランニングしないとチーム全体が機能しないよね」
そのように説明すると、選手たちをどんどんプレーさせながら「サッカーには、幅と深さの関係が大切なこと」を認識させていった。
続けて、監督はサーバーに対して効果的なサポート方法を教えるため、相手の守備陣が横並びの対応をとったときに具体的な一つのプレーを提示した。
「今、攻撃陣が横並びになっていて、守備陣も横並びになって対応している。攻撃の手段がなくなっているよね。このときに後ろにいるサーバーはどこでサポートするのがいいんだろう? たとえば、ボールを持っている選手に対して真後ろにいるけど、どう?」
この言葉を投げかけられた選手たちは戸惑っていた。日本のジュニアサッカーで数多く見かけられるシチュエーションだが、サポートする選手は、「ただボールを持っている選手の後ろに構えていたらいい」とアリバイプレーをする子がたくさんいる。
「真後ろの選手がボールをもらってもディフェンスは迷わないよ。この状況で前に進んでも、パスを出した選手に付いていたマークがそのままプレッシャーをかけたら済むんだから」
そうしてサーバーをボール保持者から斜め後ろに移動させた。
「たとえば、この位置だったらどう? この二人のディフェンスの間にポジションをとる。そこでバックパスを受けてボールをワンタッチで前に運んだら、守備陣はどうなる? この二人のうち、どっちがプレッシャーをかけるか迷うよね。もし一人の選手がマークを外してプレッシャーをかけてきたら、『ほら、剥がせる』よね。そうすると、フリーになった選手は縦のその部屋(スペース)を狙える」
実践形式でボールを受ける時は「DFの背中に隠れること」を意識する
次のトレーニングは「4vs4のゲーム」。得点はゾーンゴール内でパスを受けた場合、あるいはワンタッチでゾーンゴールに侵入した場合のみ。ゴールラインがオフサイドラインになるため、待ち受けた状態でボールをもらったらオフサイドの判定になる。
この段階になると、ほぼサッカーの実践に近いため、どの選手が幅をとり、どの選手が深さを作るのかを自ら判断してアクションしなければならない。このジュニア世代によくあるシーンだが、ゲームに熱中し始めるとボールに近寄って「幅と深さ」がとれない状況になる。
大木監督は、パスを受ける選手に対して「ディフェンスの背中に隠れる」ことをアドバイスし、選手たちが「自然に幅と深さをとること」を意識できるような具体的な指示を行っていた。
最後のトレーニングは「4vs4+GK(2ゾーン)のゲーム」。攻撃ゾーンと守備ゾーンの2つのエリアがあり、ボールが攻撃ゾーンに入ったら攻撃側は後ろの選手が1人加わることができるルール。つまり、相手GKを含めて3対3の状況でプレーできる状況で、フィールド上は実質的に3対2の数的優位の状況になる。
その状況に選手たちがプレーに慣れてきたら「プレスバックOK」という条件を付け足し、より試合に近い状況にしながらここまで指導してきたことを声に出し、ボールを持っていない選手の質を高めていた。
センアーノ神戸では、ボールを持っていない選手に対して、まず「受け手がどこのスペースを使ってゴールを狙うか」という意識付けを行っていた。ジュニア世代では、どうしてもボールフィーリングを高めること、ボール保持者目線でのトレーニング指導に目が向きがちだが、サッカーは「ボールのない選手の動き」の質を高めないとチームとして機能しない。
後編も、日本のジュニアのトップレベルの選手たちを育成しているトレーニングが確認できる映像となっている。ぜひ前編と後編を通して動画をチェックしていただけたらと思う。
【講師】大木宏之/
1970年10月1日生まれ、兵庫県出身。小中学校時代は神戸FCでプレー。葺合高校を卒業後に実父が監督を務めていた「神戸NKクラブ」で指導者となり、20代後半からは監督と代表を務める。2001年からは神戸NKクラブの強化クラブとして、現在の「センアーノ神戸」を設立。2005年にはNPO法人を設立し地域のクラブチームとして現在に至る。
取材・文 木之下潤