12.28.2020
育成年代だから技術が大事?指導者は「こうあるべき」ではなく目的を考える【特別対談:山本佳司/野洲高校元監督×前田高孝/近江高校監督】
COACH UNITED ACADEMYでは、会員限定企画として、野洲高校元監督の山本佳司氏(現・甲南高校教頭)と今年、近江高校を選手権初出場に導いた前田高孝監督によるオンライン対談を実施。
前編では選手権優勝経験を持つ山本氏が行うチーム作りの考え方や、選手の育て方について紹介したが、後編では山本氏が感じる今の指導者についての話などが飛び出した。(文・森田将義)
選手の判断を奪うことが良い選手を普通の選手にする
---「普通の選手をそれなりの選手にできる指導者はいっぱいいるけど、良い選手を普通の選手にしてしまう指導者もいっぱいいる」というお話がありました。良い選手が普通の選手になってしまうのは、なぜですか?
山本:監督のやりたいサッカーが強すぎるからだと思う。選手が仕掛けたいのに、「ワンタッチでクロスを入れなさい」と指示したり、チームの駒として使われていけば、選手は面白くない。サッカーの醍醐味は自分で考えて、相手の逆をとって困らせたりすることなのに、指導者のやりたいことを押し付けると選手が楽しめず考えないようになり、普通の選手になっていく。
前田:近江に来るまで大学生を見ていたのですが、彼らは指導者が提示しても自分の判断が正しいと思えば、聞かない時がありました。ただ、高校生は指導者が言ったことを必ずやろうとする。指導者の色に染めやすい年代だと思いました。
でも、今年はいらないことを言わないでおこうと思いました。「選手はこうあるべきだ!」と押し付けるのを全て止めたんです。「サッカーとはこうあるべきだ」と抽象的に伝え、具体的には選手が考えるようにさせました。「ワンタッチでクロスを上げろ」、「蹴っておけ」みたいに具体的な指示をすれば、判断を奪ってしまう。
山本:3種年代、4種年代を含めてなんだけど、手段が目的化しているように思う。技術が大事とか、育成年代だからこのテクニックの習得が必要だとなりがちだけど、僕は違うと思う。サッカーの目的といえば、楽しむこと。楽しむためには、勝つことも大事。能力が高いJのアカデミーに勝つため、ヨーロッパで活躍するために技術が必要と考えるべきなのに、技術がつけば負けても良いと考える人が多い気がする。
小学生、中学生は技術を身につけるのが目的だからと言って、勝敗を度外視するなんて、海外ではあり得ない。勝ち負けにはやたら煩いし、負けず嫌いが多い。負けたくないから技術をつけたいし、自分が上のステージに進むための糧として技術を身につけていく。指導者は、目的が何かブレてはいけないと思っている。
前田:山本先生が、監督時代の野洲と対戦した際に衝撃を受けました。近江が勝ったのですが、野洲の子たちが凄く悔しそうだったんです。これだけ勝負に拘っていたんだと感じましたし、キャプテンの江口稜馬君が僕の所に来て、「次も頑張ってください」と言ってくれたんです。僕が逆の立場なら、彼のような立ち振る舞いはできない。彼を見て、野洲はサッカーを通じて男にしているんだと思いました。
チームの個性をどのように考えるか
---ドリブルなど一つの技術に特化したチームについては、どのように思われますか?
山本:子どもたちは勝ちたいと思っているでしょうし、指導者も勝たせてあげたいと思う。勝つための方法として、ロングボールを選択するチームがあれば、ドリブルを選択するチームもあるというだけ。どの道を選んでも良いと思う。
僕はドリブルを徹底するから、勝負を捨てて育成だけを考えているとは思わない。迷わずドリブルを仕掛けてくるチームはなかなか対戦できないタイプなので、相手からすれば厄介なはず。また、それがチームの個性になっていく。例えば、Jのスカウトが中盤の選手が欲しいと考えた際に、野洲や静岡学園を一度見てみようと思うはず。小嶺忠敏先生も奪ったボールを素早く前線に入れるから、FWのボールに触る回数が多く、平山相太みたいな選手が育ち、スカウトも見に行こうとなる。
前田:チームの個性という意味で、山本先生がうまいと思うのは、野洲というイメージを確立されたこと。「野洲っぽい選手」とかセクシーフットボールとか、野洲を表現する言葉があり、選手はチームとしてのイメージが湧きやすい。そうしたブランディングは、いつから意識していたんですか?
山本:僕は基本的に、かっこよくなければ選手が来てくれないと考えている。かっこいいというのはプレー面だけでなく、人間的な部分やルックスの部分も含めたこと。ただ、前田君も含めた高校サッカー指導者第7世代はみんな、メディアを使ったり、ブランディング作りが上手いと思う。あと、今日の企画も含め、前田君は色んな人の良い所を盗もうとする意欲を感じる。
学び続ける指導者の姿は、子どもたちにも伝わっていく
山本:僕自身も、全国優勝した監督とかに色んな話を聞いたり、アドバイスを貰ったりした。よく覚えているのは、優勝した年の10月に聞いた鹿児島実業高校の松澤隆司先生の話。「選手権に向けて、どうすれば良いですか?」と尋ねたら、「野洲は凄く良い。これでシュートが早くなれば、全国で勝てるよ」と教えてもらった。それまではシュートシーンで逆をとったり、GKをかわしたりしていたから、そこからワンタッチの条件をつけたシュートゲームを毎日した。
東福岡の志波芳則先生には、松田保先生(守山高校、びわこ成蹊スポーツ大学元監督)から聞いた「国立には魔物が住む」という言葉の意味を聞いた。当時の国立は、地下から上がってピッチに出るから、いきなり4万人の観客が目に入り、動揺すると教えてもらった。ベテランの指導者でも浮足立つとも聞いたので、試合前に選手を連れてピッチに上がる練習や喜び方まで確認した。結局、みんなが興奮して何一つできなかったけど、そうしたアドバイスが凄く参考になった。
今日の短い時間で、何が伝わるかは分からないけど、学び続ける指導者の姿は、きっと子どもたちにも伝わっていくと思う。
前田:山本先生以外の方にも色々、話を聞かせてもらいますけど、繋がる部分があるんです。そのまま言葉を受け入れるのではなく、自分なりにアレンジしたり、色んな指導者の話を繋ぎ合わせたりするんだろうなって感じました。これまで僕は、自分が言いたいことを言ってきましたが、今年は「今は言うべきじゃない。置いておこう」と思えるようになりました。学んだから、すぐ選手に伝えるのはダメなんだろうなって気付けたのは、良かったです。
1時間に及ぶ対談後には、参加者による質問コーナーも実施。一つひとつの質問を丁寧に答える二人の姿が印象的だった。COACH UNITED ACADEMYでは、今後もこうした会員限定のイベントを実施していくので、気になった人はぜひチェックしてみて欲しい。
取材・文 森田将義 写真 森田将義