06.21.2021
プレーモデル作成後の練習の組み方とポイント/プレーモデルの必要性とトレーニングの実践方法
UEFA PRO Coaching Diploma(ヨーロッパサッカー連盟公認プロコーチライセンス)を取得し、SVホルン(オーストリア・ブンデスリーグ2部)の監督を務めた経歴を持つ、九州産業大学監督の濵吉正則氏。
COACH UNITED ACADEMYでは「プレーモデルの教科書」を出版した濵吉氏による「プレーモデルの必要性と実際のトレーニング方法」を公開中だ。後編ではプレーモデル作成後のトレーニングの仕方について、実際のトレーニングをもとに解説してもらった。(文・鈴木智之)
プレーモデルを身に付けるためには「積み上げる」という視点を持つ
濵吉氏は講義を始めるにあたり、「プレーモデルに従ったトレーニングとは何でしょうか? みなさんはどのようなトレーニングを行っていますか?」と問いかける。
「たとえば今日は1対1をして、4対2のロンドをして、5対5のダブルボックスのゲーム形式をやって、次の日はサーキットトレーニング、ポゼッション、紅白戦という構成ではプレーモデルを身につけることはできません。トレーニングを『プレーの改善』のために行うのではなく、『プレーモデルを積み上げる』という視点で行うことが、プレーモデルを身につけるために必要なことなのです」
トレーニングサイクルのひとつに「MTM」がある。試合→トレーニング→試合というサイクルのもと、試合で出た課題をトレーニングで改善し、試合に臨むという考え方である。
濵吉氏は「MTM」ではなく「PTM」の考え方を提案する。それがプレーモデル→トレーニング→試合→プレーモデル→トレーニングというサイクルだ。プレーの改善ではなく、プレーモデルを積み上げることに重点を置いた考え方といえるだろう。
「ジュニアやジュニアユース年代の指導者から『うちのクラブにはトップチームがないので、プレーモデルを設定しても意味がない』という意見を聞きますが、学習期の選手たちこそ、将来、良い選手になるために、現代サッカーで必要とされるプレーモデルを参考にプレー原則を学び、積み上げていくことが大切なのです」
プレーモデルを積み上げるには「発見・誘導型のトレーニング」を行う
ここからは「プレーモデルに従った、トレーニングの原則」に移っていく。これも、プレーの改善ではなく「プレーモデルを積み上げる」という視点でトレーニングを構築していくことがポイントだ。
「たとえばパスをテーマにトレーニングする場合、プレーの優先順位、プレーの原則、フィールドごとの目的など、プレーモデルに基づき、『我々のプレーモデルはこういうものだ』と、選手が理解できるようなトレーニングをしていきます」
濵吉氏はトレーニングの分類を大きく分けて、下記の5つに分類している。「どのようなトレーニングをすべきか」を、下記の5つに分類している。
・ダイナミックテクニック、シチュエーションテクニック(技術系のトレーニング)
・ポジショナルプレー形式(ゴールあり、なし)
・サッカーのアクション形式の組み合わせ(1対1、2対2、3対2、4対4など)
・ゲーム形式(5対5、7対7、8対8など)
・試合形式(11対11)
プレーモデルを身につけるためのトレーニングにおける注意点は「極端にフォーカスすること」だという。
「プレー原則を身につけるためには、試合やトレーニングで極端にフォーカスしていきます。たとえば『攻撃時に斜めのパスを入れる』というプレー原則を身につけるのであれば、斜めのパスを入れて、ミスをした選手がいても『長いボールを入れろ』『バックパスをしろ』などとは言わず、プレー原則に従っていればOKと考えます」
その際に意識したいのが「発見・誘導型のトレーニングをする」ということ。具体的には「トレーニングの設定やルール自体がプレー原則になっていること」「意図的に作り出したい状況を設定する」といった考えのもと、トレーニングを構築していく。
「たとえば『8対8+フリーマン、2タッチ』という練習の中で、『どこへパスを出すか』をルール化することで、選手に身につけさせていく方法があります。3人目の動きを身につけたいのであれば、リターンパスなし、2タッチの次は1タッチなどのルールを設定することで、選手たちから、自然と身につけるべきプレーが出るように導いていきます」
トレーニングを通じて、選手自身が答えを導き出す状況を生み出すことが、発見誘導型のトレーニングの考え方である。
「コーチングのポイントは、最初から答えを言わないこと。そして選手が答えを導き出すまで待つこと。コーチの仕事は段取りが重要です。そこがうまく行けば、その都度コーチングをしなくても、選手は自発的に動いていきます」
動画では九州産業大学で行っている「4色2人ずつに分かれたポゼッショントレーニング」や、「12対12のゲーム」など、映像を使ってトレーニングの様子を公開している。
さらには1週間のトレーニングサイクル、ダイナミックテクニックのトレーニング方法、ゲーム形式のトレーニングなどが余すことなく伝えられているので、ゲームモデルに基づいたトレーニング方法はもとより、大学サッカーでどのようなトレーニングが行われているのかという観点からも、非常に参考になるだろう。
【講師】濵吉正則/
九州産業大学サッカー部監督。UEFA PRO Coaching Diploma(ヨーロッパサッカー連盟公認プロコーチライセンス)。スロベニアサッカー協会公認 プロコーチライセンス。中学・高等学校1種 保健体育教諭免許。スロベニアでコーチングライセンスを取得し、柏レイソルU18監督、名古屋グランパストップチームコーチ、U15監督、徳島ヴォルティスユース監督、トップチームコーチ、ギラヴァンツ北九州コーチ、大宮アルディージャテクニカルアシスタント、監督通訳などを経て、2016年にSVホルン(オーストリア・ブンデスリーグ2部)の監督に就任。その後、S Vホルンの育成センター・アカデミーアドバイザーを経て、2018年より現職。
取材・文 鈴木智之