01.11.2023
技術と判断力、自主性を大切に。毎年Jクラブへ選手を輩出する全国3位に輝いた街クラブの育成法
2022年末に鹿児島で開催された『JFA 第46回全日本U-12サッカー選手権大会』。ベスト4に進出したのが、滋賀県代表のA.Z.R(アッズーロ)だ。
チームを県勢最高位に導いた古荘隆徳監督に、U-12年代の指導で大切にしていることを聞いた。(取材・文:鈴木智之/写真:渡邉健雄)
(グループI、1次ラウンド第3節。ヴェルフェ矢板(白)vs アッズーロ(青))
「試合中のポジションチェンジは選手たちが決めました」(古荘監督)
グループリーグ最終戦。引き分け以上で決勝トーナメント進出が決まる試合で、アッズーロは劣勢に立たされていた。固い守備から素早い攻撃でチャンスを作る、栃木県代表のヴェルフェ矢板に先制されると、1点ビハインドのまま後半に突入した。
同点に追いつきたいアッズーロだが、古荘監督が「ちょっと縦に急ぎすぎましたね」と振り返るとおり、ゴールを取りたい気持ちが強く、強引な攻撃が目立った。
すると後半の途中から、センターバックの選手が前線にポジションを取ると、一気に攻撃のギアを上げる。35分に2点目を許したが、その2分後に1点を返した。意地を見せたアッズーロは敗れはしたが、得失点差によって決勝トーナメント進出が決定した。
試合後、古荘監督は、試合中のポジションチェンジが選手たちのアイデアだったことを明かした。
「うちのコンセプトは、選手個々が判断してやること。この試合の終盤に、センターバックの選手を前に上げたのも、彼らの判断です。僕としては得失点差も考えて、これ以上の失点は避けたかったのですが、彼らの勝ちたい気持ちを尊重して、自由にやらせました」
さらに、こう続ける。
「カウンターを受けて、3点目を取られる可能性もありましたが、そこは我慢というか、それで決勝トーナメントに行けなかったとしても、子どもたちの経験になると考えました。もちろんチームとしては、全国大会で実績を残したいですけど、このような大きな舞台で、自分たちで判断して決断した選手たちは素晴らしかったと思います」
(グループリーグ最終戦のヴェルフェ矢板戦後、インタビューを受ける古荘監督)
アッズーロでは、練習も試合前の準備も、子どもたちが主体となって決めているという。
「上のカテゴリー(ジュニアユース)に行ったときに大切なのは、自分で考えて、いま何をするべきかを決めること。練習のときから、コーチが言ったことを理解して、どうすべきかを行動に移すことができるようにトレーニングをしているつもりです」
低学年では「技術」を、高学年では「自主性」を求めた育成を実施
卒団後、選手たちはセレッソ大阪や京都サンガ、MIOびわこ滋賀などのジュニアユースに進むという。古荘監督は「どんなチームに行ったとしても、対応できる選手を育てたい」と話す。
「低学年のうちは技術に重点を置いたトレーニングをして、5、6年生になると自主性を求めていきます。やはり、技術がないとサッカーはできませんから。自主性を育むことを通じて、選手に考えてプレーすることを求め、『どういう場面で、その技術を発揮するか』という部分を大事にしています」
COACH UNITED ACADEMY動画では、「相手の逆を突いて攻める」をテーマに実演してもらったが、相手を見て攻撃するためにも、技術をどこで発揮するかが重要になる。
大会を通じて「うちらしい攻撃が出せた」と古荘監督が振り返るとおり、選手たちが伸び伸びとプレーする姿は、強い印象を残した。
準々決勝では、激戦区の神奈川を勝ち抜いたSCHフットボールクラブにPK戦の末に勝利。強烈な攻撃陣を前に体を張った守備を見せ、無失点に抑え込んだ。優勝候補を前にしても臆さずチャレンジする姿からは、選手全員がサッカーを楽しんでいる様子が伝わってきた。
毎年のように、複数の選手をJクラブに送り込むアッズーロ。古荘監督に「ジュニアユースのクラブに評価される選手」の特徴を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「まずは技術面です。基本がしっかりできているところに加えて、僕らが大事にしている、技術の活かし方も見られています。あとはオフザボールも含めた、ボールを受ける前の準備も大切です。良い準備をして、技術をどこでどう発揮するか。そこがポイントです」
古荘監督はCOACH UNITED ACADEMY動画の中で「試合中、いま何をすべきなのか(攻撃or守備、パスorドリブルorシュート)を、相手がいる状況でもしっかりと判断できるように指導しています」と話しているが、技術を身につけることに加えて、状況にあったプレーができるような判断力にも働きかけている。
ジュニア年代で身につけたい基礎技術と判断力、さらには自主性を育むことの大切さを、大舞台で見せたくれたアッズーロの選手たち。全国大会での経験を糧に、これからの飛躍に期待したい。
取材・文 鈴木智之