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ボールを保持する個人スキルの習得。ヴィッセル神戸U-12のボールを前に運ぶ連動性を高める基本トレーニング

ジュニアの強豪ひしめく兵庫県を制し、3年連続で全日本U-12選手権大会に出場中のヴィッセル神戸U-12。2022年の『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ』では、FCバルセロナに勝利するなど、近年の躍進は目覚ましいものがある。

ヴィッセル神戸のアカデミーには「ボールを保持しながら、選手が連動してプレーする」というプレーモデルがあり、それに基づいたトレーニングを積み重ねることで、選手を成長へと導いている。

そこで今回は、ヴィッセル神戸U-12のプレーモデルを実行する上で重要な「ボールを失わずに、サイドの幅を使いながら、相手陣に進入するトレーニング」を実施してもらった。

前編のテーマは「個人のスキルを強化する練習法」。全国トップレベルのJクラブのアカデミーは、ジュニア年代の選手に対して、どのような指導をしているのだろうか? 他ではなかなか見ることのできない、貴重なトレーニングの様子を紹介したい。(文・鈴木智之)

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個のスキルやチームの連携を強化する7コマの練習メニュー

ヴィッセル神戸U-12の監督を務めるのが、OBの坪内秀介氏だ。2002年にヴィッセル神戸加入後、札幌、大分、大宮、新潟、磐田、群馬でプロとして17年間プレー。引退後の2019年にヴィッセル神戸のスクールコーチに就任し、2022年からU-12の監督を務めている。

坪内監督はチームが目指すスタイルについて、次のように説明する。

「ヴィッセル神戸にはゲームモデルがあります。攻撃では、連携してプレーすることで、相手の守備ライン間でボールを受けられるポジション的優位や数的優位を見つけ、可能な限り優位な状況でフィニッシュゾーンに到達することを目的としています」

それを実現する上で重要な「ボールを失わずに、サイドの幅を使いながら、相手陣に進入するトレーニング」をテーマに、普段から行っている7コマの練習メニューを実施してもらった。

1:動きづくりの全般・コーディネーション
2:指導者がコーチングせず、子どもたちが自発的にのびのびとテーマに沿って
  プレーする応用ゲーム
3:様々なコンテンツがあるロンド
4:かわすドリブル・運ぶドリブル、プロテクション、パス、コントロール、
  タックル、シュートなどの専門コーディネーション
5:ポジションを問わない個人戦術
6:試合で起こるシチュエーションを学ぶ、グループ戦術
7:ゲーム

前編では、個人に特化した、1~4を紹介していく。

パスを受けやすいタイミング、幅と深さ、距離を確認する

最初のトレーニングは「鬼ごっこ」。鬼にタッチされたら手をつなぎ、鬼が2人になり、逃げている人を捕まえに行く。

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3人目にタッチされた人は、鬼が持っているビブスを投げるので、それを拾いに行く。その瞬間に2人組は解消され、個人で鬼ごっこがスタート。時間で区切り、以降は同じ流れを繰り返す。

続いては「2対2(マーク外しシュート)」。コーチからの配球で2対2がスタート。対角に立つ選手同士が仲間になり、攻撃はパスを最低1本つなげば、どちらのゴールにシュートを打っても良い。

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守備側がボールを奪えば攻撃側に切り替わる。ゴールが決まるかボールがシュートアウトするか、GKがキャッチしたら交代。チーム戦で得点を競う。

坪内監督は「マークを外せる場所はどこ?」「どういうときに動き出したらもらいやすい?」と、判断にフォーカスしたコーチングを実施。

ここでは、パスを受けやすいタイミングを意識することや、細かく、爆発的な方向変換をすること、フェイントを使ってパスラインを作り出すことなど、周囲を観て判断し、関わることがポイントになる。

3つ目のトレーニングは「ナンバーロンド」。ボール保持は7人、守備1人でパス回しを行う。

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ルールは「1タッチであらかじめ決められた番号順にパスを出すこと」。守備がボールを奪ったら、誰に出してもよく、出された人の順番からパス回しがスタートする。

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ポイントとしては、誰からボールを受けて、誰にボールを出すのかが決まっているので、次にパスを受ける仲間を予測し、パスを受ける仲間とボール保持者が同一視できる体の向きをあらかじめ作っておくこと。

また、パスラインを相手に予測されないように、同じ場所にとどまるのではなく、深さや幅、距離を調整し続けることも重要だ。

坪内監督は「いつ動き出すの? 2個、3個前のプレーから予測してよ」と声をかけ「ボールを受ける際に、少しでも自分の時間を作ることが大事」とデモンストレーション。

「ボールが自分の懐にある時間を多くして、判断を変えられるように」とアドバイスを送っていった。

パス&コントロールの練習で、体の使い方やパスコースの作り方を学ぶ

前編最後のトレーニングは「サッカー特有の動作を専門的に学ぶコーディネーション」。

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六角形にコーンと選手を配置し、パス&コントロールを行う。流れとしては、後方からのパスに対して、身体を素早く反転させてボールを受けて前を向き、前方の選手にパスをする。その後、パスを出した選手は前方へ移動するという動きを、ボール2球を使って同時進行で行う。

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坪内監督は「クルッと回る」「自分の懐にボールが来るように」「試合と同じ、生きたボールを出そう」「相手につつかれないように、自分でスペースを確保して」とアドバイス。

さらに、監督自らボールを止める場所をデモンストレーション。ボールをコントロールして懐に引き込むことによって、パスコースを作り出す動きを提示していった。このあたりの具体的な動き方は、動画を参考にしてほしい。

続いて、コントロールして前を向き、オープンにボールを止めて、1人飛ばして縦の位置にいる味方へパスを出すというルールにチェンジ。

「外に出すふりをしてFWにクサビのパスを入れるイメージ」「パスは強いボール」「胸は外を向いて、内転筋を使って縦にパスを出す」などの声掛けで、選手のプレーを導いていった。

全体的に坪内監督のコーチングはシンプルでわかりやすく、選手たちの技術レベルが高いので、トレーニングはテンポよく進んでいく。

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練習メニューやコーチングの内容だけでなく、日本トップレベルの子どもたちのクオリティがどのようなものかを知る上でも、有益な動画と言えるだろう。

後編では、前編でトレーニングした内容を、実戦へとつなげていくトレーニングを行っていく。

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【講師】坪内秀介/
前橋育英高等学校を経て、2002年にヴィッセル神戸に入団。その後、コンサドーレ札幌、大分トリニータ、大宮アルディージャ、アルビレックス新潟、ジュビロ磐田、ザスパクサツ群馬でプレー。
現役を引退した2019年からは、ヴィッセル神戸スクールコーチに就任。現在は、ヴィッセル神戸U-12で監督を務めている。