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技術と状況判断を同時に向上させる。ヴィッセル神戸U-12のサイドの幅を使って相手陣に進入するトレーニング

ジュニア年代の強豪として知られる、ヴィッセル神戸U-12。2022年の『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ』では、FCバルセロナに勝利するなど、個と組織が融合したスタイルで勝利と育成を追求している。

ヴィッセル神戸のアカデミーには「ボールを保持しながら、選手が連動してプレーする」というプレーモデルがあり、それに基づいたトレーニングを積み重ねている。

COACH UNITED ACADEMYでは前回より、ヴィッセル神戸U-12の坪内秀介監督による「ボールを失わずに、サイドの幅を使いながら、相手陣に進入するトレーニング」を公開中だ。

後編のテーマは「数的優位を作る戦術練習とグループ戦術を強化する、実戦的な練習法」。実戦形式のトレーニングを通じて、技術と状況判断を同時に向上させる様子を紹介したい。(文・鈴木智之)

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1人で守備2人を引き付けて、サイドの選手をフリーにさせる

「数的優位を作る戦術練習とグループ戦術を強化する、実戦的な練習法」をテーマに行うトレーニング。最初は「2対2+2」を実施。

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設定としては、長方形のグリッドを8つに区切り、「同じスペースに選手が2人入ることはできない」「同じ高さでプレーすることはできない」という制約のもとでプレーする。

フリーマン2人はグリッド内へ入ってもよく、攻撃方向のフリーマンにパスが3回(1往復半)渡ったら、ゴールを目指していいというルールだ。

坪内監督は、選手たちのプレーを観察した後、守備にアプローチ。「守備2人の間にパスを通されたけど、どうすればいい?」と投げかけ、守備の選手に対して「中のフリーマンへのコースを気にしながら、中のコースを切りながらやろう」とアドバイスを送る。

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さらに「守備はまず真ん中を割られないように。それに対して攻撃は、幅や深さを調整して、スペースの使い方を考えよう」と、状況を観て適切なプレーを選択するための考え方を提示していった。

続いて、サイドの選手とフリーマンのポジショニングに言及。フリーマンがドリブルで前進して、守備の意識を引き付けることで、DFはフリーマンとサイドの選手の両方を観なければいけなくなる。

坪内監督は「DFは2人を観なければいけなくなり、選択が難しくなるので、そういうプレーをどんどんやろう」と、相手と駆け引きをしながら、優位な状況を作ることを強調していった。

ほかにも「サイドから中央へドリブルで侵入し、1人で守備2人を引き付けることで、サイドの選手がフリーになる。そこへパスを出すと、味方が前に侵入しやすくなる」といった原則も紹介しているので、詳細は動画で確認してほしい。

人数を増やし、グリッドを広くする工夫で幅を取る意識を重要視させる

続いてのトレーニングは「3+3対3+3」。ピッチ左右の中央部分に、攻撃側が1人だけプレー可能な「制限ゾーン」を設け、そのゾーンに左右2回ボールを運んだらゴールを目指すことができる。

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また、中央に2つあるゲートのうち、どちらかをドリブルで通過しても、ゴールへ向かうことができるというルールだ。

ここでは「幅を取り、オープンにボールを止めてサイドを使う」という流れを説明。先程のトレーニングと狙いは同じだが、人数が増えてグリッドが広くなるので、より幅を取る意識が重要になる。

ルールや設定といったオーガナイズにより、狙いとする現象を起こし、向上させたいプレーにフォーカスする組み立て方は秀逸だ。

坪内監督は1つ前のトレーニング同様、「相手がサイドを切ったら中が空く。もしくはドリブルで相手に向かって行くことで2対1ができる。どこで2対1を作るか。どこでリスクを冒してボールを運ぶかを意識してやろう」と声をかけ、実戦形式の中で判断を磨いてく。

他にも「DFラインが幅を取るのか、中盤が幅を取るかで状況が変わるよ」「ゲートをドリブルで突破できそうであれば、味方が素早くサイドに開いて数的優位を作る」など、ボールの移動中に周囲を観て、予測のもとにポジションを取ることの重要性を伝えていった。

最後はGKを含む7対7のゲームで締めくくり。ここでも、状況に応じたポジショニングをコーチングし、幅と深さを常に意識させ、局面で相手と駆け引きをしながら、数的優位を作ることに言及していく。

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最後のゲームでは、トレーニングでフォーカスした現象が出るとともに、選手たちの技術、判断力の高さを見ることができる。トレーニングからゲームの流れに加えて、選手のクオリティにも注目してほしい。

坪内監督はトレーニング終了後、COACH UNITED ACADEMY読者に向けてメッセージをくれた。

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「ヴィッセル神戸U-12では、ボールや守備の動き、仲間との関係性の中で問題を解決する能力を持たせることや、数的同数、数的優位、数的不利など、基本的なシチュエーションを理解することを目的に一貫指導しています。今回のトレーニングを、ぜひ日々の活動の参考にしてみてください」

前回同様、今回の動画も、日本トップクラスのジュニアチームが、日々実践するトレーニングを見ることができる、貴重なものになっている。普段、なかなか見ることができない映像なので、興味のある方は、これを機にぜひチェックしてみてほしい。

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【講師】坪内秀介/
前橋育英高等学校を経て、2002年にヴィッセル神戸に入団。その後、コンサドーレ札幌、大分トリニータ、大宮アルディージャ、アルビレックス新潟、ジュビロ磐田、ザスパクサツ群馬でプレー。
現役を引退した2019年からは、ヴィッセル神戸スクールコーチに就任。現在は、ヴィッセル神戸U-12で監督を務めている。