01.15.2024
セレクションなしもJクラブのアカデミーに勝って優勝!「練習していないことを試合で発揮できる」異端のチームが取り組む育成とは
大阪のJグリーン堺を拠点に活動する「AC.gloria girls U15(グローリアガールズ)」というチームをご存じでしょうか?
創部6年で3度の全国大会出場。2023年度の関西大会では、町クラブながらセレッソ大阪ヤンマーガールズU-15に勝ち、初優勝を決めました。
グローリアガールズはセレクションなし。平日練習は2回、練習場はフットサルコートという環境ながら、OGは全国の強豪校へ進み、高校女子サッカーの聖地でもあるノエビアスタジアムで行われた高校サッカー決勝に3名が出場しています。
決して恵まれているとは言い難いチームが、なぜこれだけの成果を出すことができるのでしょうか? 監督で「テクダマ」の監修者でもある三木利章さんに話を聞きました。(取材・文:鈴木智之、撮影:南伸一郎)
※この記事はサカイクからの転載記事です
■サッカーが上手くなるために必要な「動く身体創り」
グローリアガールズの育成の特徴。それが「自由自在に動く身体創り」と「自由自在なボール扱い」です。
三木さんは「ドリスク」というドリブルを中心としたスクールを主催し、グローリアガールズの選手たちも、ドリブルやリフティングなど技術と身体操作のトレーニングに力を入れています。
「グローリアガールズの練習は平日2時間ですが、そのうちの30分から40分を、リフティングやドリブルの練習に当てています。それはサッカーが上手くなるために必要だからです」
さらに、こう続けます。
「『自由自在に動く身体創り』を具体的に言うと、人間の体で曲がる部分である足首、膝、股関節の内旋・外旋。肩甲骨や捻る動作の使い方、上半身のリラックス、掌の向き、姿勢などにフォーカスしたトレーニングです。それらの要素を含んだボールタッチ、コーンドリブル、リフティングを行い、自由自在に動く身体創りに取り組んでいます」
スムーズに、滑らかに、ひっかからず、自由自在に動く身体があってこそ、様々な部分の可動域や動きの幅も大きくなり、自由自在なボール扱いのクオリティが高まります。
また、それらの回路が繋がることで、サッカーの成長にも繋がっていくと考えているそうです。
■選手が持っている能力を出し切れる状況をつくる
「現代は外遊びの環境が激減し、子どもたちの運動能力や体力が低下しています。そのような状況も踏まえて、海外の名門サッカークラブでは、サッカー以外のスポーツを取り入れて活動しているという話を聞きました。サッカーを上達させるために、他のスポーツ環境を創出しているわけです」
グローリアガールズの場合、それに当てはまるのが、ドリブルやリフティングを始め、身体操作能力向上のための練習です。
「グローリアガールズでは、トレーニング前に倒立や手押し車、おんぶ、ブリッジなど、日常生活の中ではあまりしない運動や色々なボール遊びを行っています。毎回行うリフティングやコーンドリブルにコーディネーショントレーニングの要素を組み込み、脳と神経系に刺激を入れることを狙いとしています」
三木さんが指導をする上で大切にしている要素の1つが、身体操作能力を高めること。いわゆるコーディネーション能力です。
「小学生時代の評価は、その時点での身体能力やサッカーの技量でしかありません。私はコーディネーション能力の低さから、その選手の持っている100の能力に対して、発揮できている率が低いんじゃないか? と考えます。いま80あるものを100にすることを目指すのも大切ですが、まずはいまある80という力をすべて出せる様にする事が先決であり、大切であるという考え方です」
■練習していない事を、試合でできる選手たち
2023年度の関西大会では、ペナルティエリア外からのカットインの後、逆サイドに決めたスーパーゴールが生まれました。ほかにも、30メートルほどの距離からのフリーキックを2発決めました。
対戦したチームの監督に「(普段フットサル場で練習している)グローリアガールズの選手は、なんであんなにキックが蹴れるんですか?」と質問されたほどです。
「このような質問、疑問の背景には『キックやシュートは、蹴る練習をたくさんすれば上手くなる』という観点があるのではと推測します。しかし我々はフットサル場で練習をしていて、サッカー用のゴールがあるわけではないので、試合に近い状況でのシュート練習は、したくてもできません。当然、フリーキックの練習もしていません」
「練習した事しか、試合ではできない」という言葉がありますが、極端に言うと、グローリアガールズは「練習していない事を、試合でしなければいけない」のです。
■メッシも行っていた「せざるを得ないトレーニング」
「FCバルセロナのトレーニング映像を観たことがあるのですが、メッシ選手は、正規ゴールの中に少年用ゴールを入れて、正規ゴールと少年用ゴールの隙間を狙ったシュート練習をしていました。ゴールの置き方によって、コースを狙わなければ入らない環境を作っていたわけです」
他にも「5分間で多くゴールを決めた方が勝ちというルールを設定するだけで、コースを狙おうとする意識は間違いなく上がると思う」と話します。
そのような環境やルール、制限を設定することで、技術面や心理的な要素も含めた工夫を創出。ドリブルやリフティングの他に、様々な状況やルール設定を加えたトレーニングをすることで、そのプレーを「せざるを得ない」状況を作り出しています。
それを三木さんは「せざるを得ないトレーニング」と称しています。
「そのようなトレーニングを行う事で、脳力、感覚、イメージ、変換力などを鍛えることに繋がり、練習していないことが試合でできるという現象を生み出すきっかけになっているのではないでしょうか。その根底には『自由自在に動く身体』と『自由自在なボール扱い』があることは言うまでもありません」
12月9日に開幕する「高円宮妃杯 JFA第28回全日本U-15女子サッカー選手権大会」。グローリアガールズの選手たちは、どのようなプレーを見せてくれるのでしょうか? テクニカルなサッカーで、勝利をおさめることはできるのか? 大いに注目です!
<<関連記事>>
●できない子に簡単なトレーニングは逆効果。運動経験が乏しい現代の子ども達に必要な育成>>
●10代無名の選手が20代でプロになる「逆転現象」はなぜ起こる?早熟のエリートが伸び悩む理由>>
三木 利章/
プロサッカーコーチ。AC.gloria girls U15(大阪)で監督をつとめ、創部6年で3度の全国出場に導く。スクール主催や全国の強豪チーム、高校などでも外部コーチとして精力的に活動。 「動きづくり」をテーマに育成年代で一番大切な『個』の技術・戦術の向上を目指し、実践で生かせる個人スキルを身につける指導を行っている。2023年12月11日に『「個」を磨くことで、「強い組織」が作られる 弱者の闘い方』を上梓