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ドリル練習よりもスキルの上達スピードが期待できる!欧州で注目される理論に基づいたトレーニングの実践法

2023年、トレーニング方法に関して、センセーショナルな書籍が発表された。早稲田大学のスポーツ科学研究科を経て、欧州の名門・ポルト大学大学院でトレーニング学を学んだ植田文也氏による「エコロジカル・アプローチ」だ。

エコロジカル・アプローチとは「トレーニングの設計、制約によって技術が身につき、定着するようにデザインする」という指導法で、欧米では広く知られ、実践されている。

COACH UNITED ACADEMYでは、植田氏による「エコロジカル・アプローチに学ぶ、個人スキルとチーム戦術の学習に有効な指導理論」の動画を公開中。

後編では「エコロジカル・アプローチに基づいた、トレーニングの考え方と実践法」について、どのようなトレーニングが効果的なのか? を深掘りしていく。(文・鈴木智之)

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トレーニングは、適宜に新しい制約に変えることが望ましい

エコロジカル・アプローチでは「練習環境が試合環境を再現できているか?」を重視しており、トレーニングは『タスクの分解』ではなく『タスクを単純化せよ』という方針を掲げている。

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「タスクの分解とは、一つのスキルを取り出して反復練習し、試合に差し戻したら、できるようになるという考え方です。タスクを分解するので、敵がいなかったり、ルールの一部がなかったり、試合で生じる判断や意思決定がスキップされたトレーニングになりやすいとされています」

一方、前編で紹介した、テニスのバックハンドのスキルドリルのように、センターラインをずらしたゲームは、ゲームの全体性を維持しながら、バックハンドという『向上させたいスキル』が誇張されるトレーニング設定になっている。これを『タスクの単純化』と表現している。

サッカーのトレーニングでは、コートの広さや人数を変えたり、2タッチアンダーからフリータッチなど、ボールタッチに制約を設けたり、リターンパスは禁止など、ルールを変えながらトレーニングすることが一般的だ。

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「それを制約操作と言います。ある一つの練習環境、制約下でトレーニングしていると慣れてしまい、学習効果が低くなるので、適宜、新しい制約に変えることが望ましいとされています」

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ルールにバリエーションを持たせると、さらなる能力の向上が期待できる

植田氏の著書「エコロジカル・アプローチ」には、「スモールサイドゲームの制約を対象とする、規定組織化グループ(伝統的アプローチ)と、自己組織化グループ(エコロジカル・アプローチ)の比較」というデータがある。

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エコロジカル・アプローチでは「トレーニングの設定やルールにバリエーションを持たせることで、さらなる能力の向上に寄与することができる」としており、スモールサイドゲームを例にあげると、伝統的アプローチでは「数的同位(同じ人数)」「選手数の進行(少ないから多い)」「フィールド(正方形から長方形)」「ボール(大中小のサッカーボール)」といった設定でのトレーニングが多い。

エコロジカル・アプローチでは、人数を3対3や4対5、4対3など同数、劣位、優位と次々に変えていったり、フィールドも正方形、長方形だけでなく、三角形や円、ダイヤモンドなど、様々な形で実施する。

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サッカーボール以外にもテニスボールやラグビーボール、テクダマのように不規則に動くボールを使ったトレーニングや、プレーエリアを限定したり、異なるスキルを発揮した場合はボーナスポイントを与えるなど、プレーや判断のバリエーションが出るような制約を与えている。

「制約を操作することで、慣れさせないようにします。様々な種類のボールを使うことで、動作のバリエーション、キックのバリエーション、ドリブルやパス&コントロールのバリエーションを増やしていくようなやり方です」

さらに、こう続ける。

「エコロジカル・アプローチでは、コーチが好む運動や戦術的な動きを教えず、制約によってコントロールするのですが、実験したところ、伝統的アプローチよりもスキル習得が高く、チームとしての連動性も高いという結果が出ました」

よくあるトレーニング設定の場合、ある程度のレベルになると、苦もなくできてしまう。エコロジカル・アプローチでは、制約操作によって、常に刺激を与え、異なる環境に適応する過程で能力を高めていくという方法をとっている。

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「サッカーのトレーニングの場合、コートがダイヤモンド型で、数的劣位かつ特殊なゴールで、ルールが次々に変わると、いままで感じたことのない刺激を受け、『このゲームに勝つためには、どうしたらいいんだろう』と必死で考えます。そのようにして、選手を慣れさせないよう、新しい刺激を与え続けることが大切なのです」

スキルの上達を早めるのに有効なのが「スモールサイドゲーム」

エコロジカル・アプローチでは「制約操作」の観点から、スモールサイドゲームを推奨している。

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「コーチの役割は適宜、制約操作を行っていくことです。球技全体を対象に、分解的なスキルドリルvsスモールサイドゲーム(制約主導アプローチ)を実施し、どちらが早く上達するかを実験したところ、スモールサイドゲームを行ったグループの方が、良いパフォーマンスを発揮できるという結果が出ました」

初心者にいきなりスモールサイドゲームを行わせるのは、難易度が高いと思われるかもしれないが、「タスクの単純化がされていて、本人のレベルに合ったものであれば、良い学習効果が期待できます」と述べる。

COACH UNITED ACADEMY動画では、エコロジカル・アプローチの説明が多岐に渡っており、「ブラジルからタレントが生まれる理由」「クリエイティブな選手ほど、よく遊んでいる」「様々なスポーツをすることの重要性」「ボールマスタリーのトレーニングをする際は、繰り返す数を減らし、次々にメニューを変える」「動作に制約を加えることで技術習得につながる」といったトピックが紹介されている。

どれもコーチとして知っておきたい内容なので、ぜひ動画をご覧いただければと思う。きっと視聴後のトレーニングでは、新たな取り組みにチャレンジする気持ちが沸き上がってくるはずだ。

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【講師】植田文也/
1985年生まれ。札幌市出身。サッカーコーチ/ガレオ玉島アドバイザー/パーソナルトレーナー。証券会社勤務時代にインストラクターにツメられ過ぎてコーチングに興味を持つ。ポルトガル留学中にエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、ディファレンシャル・ラーニングなどのスキル習得理論に出会い、帰国後は日本に広めるための活動を展開中。footballistaにて「メニューで学ぶエコロジカル・アプローチ実践編」を連載中。著書に「エコロジカル・アプローチ」(ソル・メディア)がある。スポーツ科学博士(早稲田大学)。