09.17.2024
なぜ肉離れや捻挫は起こる? Jリーグで長く指導した、谷真一郎コーチが語る、サッカーに多い怪我の理由とメカニズム
サッカーの指導が学べる動画配信サービス「COACH UNITED ACADEMY」では、強豪チームや豊富な実績を持つ指導者によるトレーニング動画や、指導していく中で必見な理論や情報を配信中だ。
前回より、ヴァンフォーレ甲府のフィットネスダイレクターを務める、谷真一郎氏による「動きの質を高めて、育成年代の怪我のリスクを軽減する方法」についての動画を配信している。
育成年代の指導者にとって、知っておきたい怪我の種類と原因。前編ではオスグッド、シーバー、グローインペイン、ジョーンズ骨折といった怪我について触れたが、後編では、より一般的な怪我である肉離れ、捻挫、そしてサッカー特有のスライディング時の怪我に焦点を当てて説明していく。(文・鈴木智之)
太もも裏の肉離れの原因
サッカー選手に多いのが、太ももの裏、いわゆる「ハムストリング」と呼ばれる部位の肉離れだ。そのメカニズムを、谷コーチは次のように説明する。
「人の本能として、動き出す時に、前に行きたいので、上半身を倒して進もうとします。その時に上半身を倒すと不安定になるので、片方の足が支えに入ります。その際に、かかとから足を地面に着いて、出ていこうとするのですが、実は太ももの裏をストレッチする時の動きと同じなのです」
ストレッチの動きイコール、筋肉が一番伸びやすい状態でもある。その体勢で、走り出すために急に力を入れると、過剰な力が加わる。その際にハムストリングが引っ張られ、肉離れをしてしまうケースが多いという。
この問題に対する改善策として、谷コーチは次のような方法を提案する。
「速いと言われるトップレベルの選手たちの動き出しの一歩目、二歩目は、決しておへそから折りたたんだ状態ではありません。スタートする時には、体が一本の棒のようになった状態で地面を押して進んでいきます。ブレーキをかけず、自分の足に乗り込んで地面に接地していきます」
ポイントは、足を体の前に着くのではなく、真下に着くこと。横に動くときも同様に、進行方向とは反対側の足で地面を踏み、地面から力をもらって、ブレーキをかけないように、進行方向の足に体重を乗せて動いていくことで、足に負担がかからず、スピードに乗っていくことができる。
COACH UNITED ACADEMY動画では、谷コーチが実演しているので、ぜひ動画を参考にしてほしい。
サッカー特有の怪我
ふくらはぎの肉離れについても同様に、リスクの高い動きと改善策を説明している。特に、気をつけたいのが、後方から前に出る時の動きだ。
「走るときに、地面を過剰に蹴る動きが繰り返されると、どうしても負担がかかってしまいます。一番負担がかかるのが、後方に下がっていて前に出る時に、つま先を正面にして出ようとした時です。下がっていて、前に行こうとした時に、そのまま足を出すときに、怪我をすることが多いです」
谷コーチはこれらの改善に務めることが、怪我のリスクを減らすだけでなく、パフォーマンスの向上にもつながると指摘する。
「スピードを上げる、ターンを速くするということは、体を効率的に使っていることなので、怪我のリスクも減ることに繋がります」
この考え方は、怪我予防とパフォーマンス向上の両立が可能であることを示唆しており、選手やコーチにとって非常に重要な視点である。
動きの改善には継続的なトレーニングが不可欠
谷コーチは、動きの改善には継続的なトレーニングが不可欠だと強調する。
「動きのトレーニングを継続していくと、ゲームの中で本能的な動きが出てしまうところを、そうならないで、負担を減らす動きが出るようになります。何よりも憂慮すべきは、ジュニア年代、ジュニアユース年代で怪我に苦しんでプレーできない、あるいは一つの怪我が今後のサッカー人生に影響することです」
今回の動画では、怪我の理由にフォーカスしたが、過去の動画では、動きを改善するトレーニングを紹介している。そちらも合わせて視聴していただくと、理論と実践の両方が理解できるはずだ。
「過去の動画では、実際にどのようなトレーニングをすればいいのか。一つひとつの動きに対して、どこに気をつけたらいいのかを解説しています。シンプルでどこでもできるトレーニングなので、汎用性が高く、様々なタイミングでトレーニングすることができます」
「COACH UNITED ACADEMY」の動画内では、捻挫やサッカー特有のスライディング時の怪我にも触れているので、ぜひ最後まで視聴して、選手を守るため、そして成長スピードを上げるための参考にしていただければと思う。
【講師】谷真一郎/
柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FC、ヴァンフォーレ甲府とJリーグのアカデミーからトップまで約30年にわたりフィジカルコーチを歴任。パフォーマンスアップとケガ予防(コンディショニング)の観点から、育成年代のグラスルーツから日本代表クラスまで「動きの質」の改善をテーマに多くの選手を指導してきた。
取材・文 鈴木智之