11.25.2024
サッカーコーチの夢と家族を両立させるために。ベテランが伝えたい若い指導者へのメッセージ
サッカー指導者と別の仕事、2つのキャリアを両立しながら、自身の成長とサッカーの夢を追い続ける。そんな「デュアルキャリア」を実現するコーチを紹介する本企画。今回は、神奈川県厚木市のFC厚木ドリームズでジュニアユースを指導する入倉広太郎さん(37歳)にお話を伺った。
14歳で指導者デビュー。指導を続ける理由とは
---- 指導キャリアは20年以上とのことですが、はじめたきっかけは?
「最初に指導したのは14歳の時でした。卒業した少年団に顔を出した際「中学でやってるトレーニングやってみろ」と言われたのがきっかけでした。その時にコーチが指導者とは?みたいな話をされていて、コーチも楽しいな!と思うようになったのがきっかけです」
---- 今でも指導を続けているのはどうしてですか?
「純粋に好きだから(笑)そして、「チャンスを与えられる指導者になりたい」という強い思いがあるからだと思います。僕は小学生の頃、ほとんど試合に出してもらえない選手でした。だから努力をあきらめていた。そんな僕に中学時代のコーチが「これまでのスタメン、トレセンは関係ない」という話をしてくれて再びサッカーに向き合うチャンスをくれました。そういう原体験が今も生きています」
デュアルキャリアが家族と夢を両立させる道
---- なぜ指導者一本ではなく、デュアルキャリアを選択したのですか?
「実は、指導者一本で働いていた時期もありました。三重県のクラブで働いていた頃です。そこでの経験もかけがえのないものでしたが、結婚して子どもができてからは、収入面も家族との時間も大切にしたいと思うようになりました。周囲からも「会社員と指導を両立するほうが良いのでは」というアドバイスもありましたし、結果として二足のわらじを履く今のスタイルに落ち着きました」
---- 家族との時間も作れるようになったのは意外でした
「指導者としてフルタイム雇用だと、子どものイベントも休めません。今のクラブは代表がとても理解のある人なので、家族がいるコーチは運動会や家族の旅行なども尊重してくれます。代表も昔は苦労されたみたいで、よく俺みたいになるなとおっしゃってます(笑)。そうしたクラブの理解もあり、この選択をして、本当によかったと思っています」
会社員の経験がもたらした指導者としての成長
---- 会社員として社会に出て変わったことはありますか?
「日中は会社員、夜と週末はドリームズで指導を行っています。会社員をしながら指導を続けてきて感じるのは、保護者との信頼関係が築きやすくなったことです。サッカーだけに身を置いていると、一般的な社会や組織の感覚がうとくなってしまう部分があります。また、指導者という立場上、自分の立場を勘違いする人もいますし、若い頃の自分ももしかしたらそうだったかもしれません。別の社会に出ることで、自然と謙虚な姿勢を持つことができるようになったと感じています」
---- 仕事との両立で大変さを感じることはありませんか?
「僕は主にトラックやバスなどのフレーム製造を行う自動車系企業で働いています。仕事の繁忙期やスケジュールの制約など、そうした難しさはありますが、思われるほど大変さは感じていません。いつも練習場に向かうのが「楽しみ」でしょうがないんです。日中別の仕事をすることで、指導に向き合う心構えも自然と整いますし「指導が自分にとってのご褒美だ」という感覚ですね」
---- 逆に指導できることのありがたみが増したんですね
「そうですね。特に、指導者一本で生活しているコーチが愚痴をこぼしている姿を見ると「こんなに素晴らしい時間を過ごしているのに、不満なんて言わないでほしい」「好きなことをさせてもらっているありがたみを感じてほしい」と思いますね。サッカーの指導を仕事として続けていけることは、決して当たり前ではないんです」
「仕事と指導を両立する選択肢がある」ことを伝えたい
---- 最近は、若い指導者の育成も考えられているそうですね
「実は、僕はスクールも運営していて三足のわらじなんです(笑)。手伝ってくれている大学生コーチがいるのですが、彼らの中から将来も指導を続けてくれる子が増えるとうれしいなと思います。若い世代が育っていくことは、サッカー界全体の活性化にもつながるので、後進の育成も意識しています。そのためにも「仕事と指導を両立する選択肢がある」ことも伝えていきたいですね。指導者一本で生活をするのはもちろん素晴らしいことですが、いろいろな道があることを知ってもらうことも大事です」
---- 指導者としての今後の目標を教えてください
「FC厚木ドリームズは、僕のような兼業コーチや、大学生コーチなど多様なバックグラウンドを持つコーチが集まるクラブです。代表の安藤さんは、指導者一人ひとりが持ってる得意なものを指導にいかしていくことを大切にしている方なので、自分自身が大切にしている「止める、蹴る、運ぶ」といった基礎的な技術をしっかり身につけられるコーチになりたいと思っています。「運動能力やサイズに頼るといつか追いつかれる」それを痛いほど見てきたので、子どもたちが将来どんなチームに進んでも自信を持ってプレーできるようにしてあげたいですね。それによって、ドリームズがよりよいクラブになっていければうれしいです」
取材・文 COACH UNITED編集部