11.14.2024
福祉と指導者。2つの仕事を両立する若きサッカーコーチの挑戦
サッカー指導者と別の仕事、2つのキャリアを両立しながら、自身の成長とサッカーの夢を追い続ける。そんな「デュアルキャリア」を実現するコーチを紹介する本企画。今回は、京都橘高校サッカー部の下部組織「Wizards Football Club」のU-13監督を務める松本岳大さん(24歳)にお話を伺った。
迷ったら進め!で指導者の道へ
---- 指導のスタートは大宮アルディージャだったのですね?
「大学4年で就活を考えてた頃、高校の同級生が大宮アルディージャのマネージャーをやっていたんです。お前指導者やりたかったよな?くるか?と誘ってくれたことで火がつき、迷ったら進め!で決めました。正直、親の反対もあったんですけどね(笑)。大宮で2年間スクールコーチを担当させていただき、チームの育成に関わりたいという思いから、Wizardsと契約させていただきました。」
---- 指導では、どんなことを大切にしていますか?
「選手のインテリジェンスを大事に考えています。なぜそこに立つの?そこに出すの?と考えてプレーすることを求めます。考えのないプレーは次につながりません。最初はプレーが遅くなるかもしれませんが、大事にプレーすることを選手に求めています。こうした指導は大宮で学んだ経験も生きていると思います。」
---- 指導者のやりがいはなんでしょう?
「自分で考えてチームをつくれる、チャレンジできる部分がやりがいですね。いろいろ試してうまくいけばうれしいし、いかなければ原因を探る。このプロセスが好きなんです。Wizardsは、選手もパフォーマンスが高ければ高校のカテゴリでどんどん試合に出していきます。そうしたチャレンジできる環境も自分にあっていると思います。」
2つのキャリアを両立する日々
---- チームとは別のお仕事もされているそうですね。どんな仕事ですか?
「株式会社アドナースという福祉系の会社で正社員として働いています。僕は児童発達支援や放課後デイサービスで子どもたちの送迎や、食事の支援、音楽や楽器を使った療育などを担当しています。」
---- どういうきっかけで今の仕事に就かれたのですか?
「チームと契約する際、空いた時間に働ける環境を用意してくれていました。今の会社の社長がサッカー好きで縁があり、人手不足で困っているから助けてくれないか?と相談をうけたのがきっかけだったそうです。」
---- 2つの仕事をどんなスケジュールで両立しているのですか?
「朝9時から13時までアドナースで仕事をし、移動時間を使ってトレーニングなどをプランニングします。17時から18時半までスクールを指導、そこから20時までジュニアユースを指導するといった毎日です。社長は指導者の活動も認めてくださっており、周りの先輩方も応援してくれているので非常にありがたい環境だなと思っています。」
福祉の仕事から学んだこと
---- アドナースでの仕事のやりがいはどんなところですか?
「もともと小さい子どもを指導していたので、子どもの対応には慣れていましたが、ここでは病気や障がいを抱えた子どもも通っていますので、それぞれ対応が違ってきます。同じことを話しても伝わらなかったり、反応する子、しない子とさまざまです。正直、戸惑いはありましたが、まずは子ども一人ひとりのことを知るということを心がけてきました。少しずつですが、できなかったことができるようになったり、できてニコッとしてくれた時は本当にやりがいを感じますね。」
---- 福祉とサッカーの指導、つながる部分はあるのでしょうか?
「はい。指導している選手は中学生なので非常にデリケートな年代です。相手を理解し感情をコントロールするという部分は非常に共通していると思います。感情を把握しながら、いま経験させてあげるのか?いまはやめるのか?そうしたことも考えながら指導しています。よい状態の時は、高校生の試合に出してあげたり、きっかけやチャンスを与える。アドナースでの経験はこうした部分にも生きていると思います。」
---- でも、やっぱり二つの仕事を両立するって大変ですよね?
「うまくいかないことは山ほどあります(笑)でも、それは解決方法のレパートリーが少ない僕自身に原因があるからです。苦戦はしますが、大変だと思ったことはありません。午前はアットホームで暖かく迎えてくれてる職場があり、夕方からは自分がやりたいサッカーの育成に携われる。まだまだ頑張りたいという気持ちです。」
デュアルキャリアのメリットと今後の目標
---- 素晴らしいです!デュアルキャリアのメリットはどんなところでしょう?
「コーチは単年契約も多いです。収入面がネックでやめていく若いコーチもたくさんいます。ですから、自分のように仕事をかけもちできる環境は必要だと思います。2つの仕事を持つことで経済的にも安定しますし、指導者としても長期的にキャリアを考えられるようになります。世の中の働き方が広がれば、指導者のチャンスも増えるのではないかなと思います。」
---- 最後に、今後の目標やキャリアについて教えてください
「子どもたちのコーチとしては、勝つことも大事ですけど、人間的な成長と、サッカーIQを育ててあげられる指導者になりたいです。そして、いずれはトップのカテゴリで監督をやりたい。そのためにも今をしっかり見据えて目の前の階段を一段一段登っていきたいと思います。」
取材・文 COACH UNITED編集部