06.02.2025
人とスペースは同時に守れない! ディフェンスの特性を逆手に取った、攻撃の組み立てトレーニング
サッカーの指導が学べる動画配信サービス「COACH UNITED ACADEMY」では、強豪チームや豊富な実績を持つ指導者によるトレーニング動画や、指導していく中で必見な理論や情報を配信中だ。
前回より「自陣エリアで前からプレスをかけられたときのボールの前進方法」をテーマに、鹿島アントラーズアカデミーで15年間の指導経験を持つ、蹴和サッカースクール代表の上田原剛コーチによるトレーニングを公開中だ。
「トレーニングの前に改めてそもそもサッカーとはどんなスポーツなのか?そこから考えて頂きたい。チャンスもピンチもスペースです」と上田原コーチは語る。
今回は「人とスペースは同時に守れない」というディフェンスの特性を逆手に取り、より実戦的な攻撃の組み立てにアプローチ。前編で学んだ「相手を引きつける技術」と「パス交換の原則」をベースに、より高度な戦術理解と実践的なプレー選択を身につけていく。(文・鈴木智之)
手前と奥の使い分けを意識する
後編最初のトレーニングでは「3対3+2サーバー」から「3対3+1ターゲット」を通じて、実戦に近い状況でのボール前進を目指す。
設定としては、攻撃と守備に分かれてゴールを目指すのだが、攻撃側の自陣後方に「無敵ゾーン」を設置。攻撃側が危険を感じた際の逃げ場を作ることで、段階的にプレッシャーに慣れさせていく。
守備はコートより前半分でボールを奪ったら5ポイント。サーバーはアンダー2タッチというルールだ。
攻撃の練習でも逆に守備にアプローチすることはよくある。今回であれば選手たちにコーチングによってボールを奪いに行かせるのではなく、選手たちが自ら自然と前から奪いに行くようにする仕掛けが大切だからである。
上田原コーチは前編で行った、ウォーミングアップを思い出すように声をかけ「どこを見てプレーするんだっけ? いつ奥を、手前を使うんだっけ?」と問いかける。
「前に行きたい時に、みんな前に行ってしまうけど、一旦、手前のスペースを使うから前に行けるんです」と説明し、「手前を使うから、相手が食いついてきて奥が空く」という駆け引きの重要性を強調していく。
さらに選手たちのプレーを見ながら、導き出したい現象を出すために、こまめにルールを変更していく。そのあたりの指導の様子も注視すると、トレーニングに取り入れる際の参考になるはずだ。

相手のラインを分断するポジショニング
続いてのトレーニングは「3ゾーンゲーム」。3つに分かれたゾーンで、2-2-1+GKのフォーメーションで実施。攻撃側は3つのゾーン間を自由に行き来できるが、守備側は初めからいるゾーンのみでしかプレーできないというルールだ。
上田原コーチは攻撃側に対し、「守備側のファーストラインとセカンドラインを分断する」ことの重要性を指導。攻撃側のセカンドラインの選手は、幅と高い位置をとることによって、相手の連動した守備を断ち切り、優位な状況を作り出すことを目指す。
また「相手を分断したいからピン止めしよう」「2対1のときは、守備の1人を越えよう」と具体的な声かけを行い、選手たちに常に次のプレーを意識させる指導を展開した。
最終段階では、5秒以内にシュートというタイムリミットを設定。守備側は前でボールを奪ったら5ポイント、中盤3ポイント、自陣1ポイントにし、守備のゾーン間移動を自由に変更。ここでも「一回、後ろを使うから前に行ける」と、これまでのトレーニングで行ってきたことを繰り返し、伝えていく。
また、ボールを持たない選手に対しても「あの選手がこう動くなら、ここが開く」という連動した動きを求め、「目の前の相手ではなく、奥の選手を見てプレーする」といった、チーム全体での攻撃意識の共有を図った。
実戦に活かす戦術理解の向上
トレーニング終了後、上田原コーチは「相手を引きつけることやパスの原則、相手を分断すること。スペースを作り、いつ手前を使い、いつ奥を使うのか。目の前ではなく、奥の選手を見てプレーするところをポイントにしました」と総括。
さらに「今回はやっていませんが、ハイプレスを受けた時にロングボールで前進していくことも大切な戦術アクションです」と付け加え、今回のトレーニングが戦術的な選択肢の一つであることを強調した。
前編・後編を通じて展開された上田原コーチのトレーニングは、現代サッカーに不可欠なハイプレス対応の具体的な方法論を、段階的かつ実践的に学べる貴重な内容となっている。ぜひこの動画をきっかけに「サッカーとはどんなスポーツなのか?」を考えるきっかけにして頂きたい。
詳細な指導内容については、ぜひ「COACH UNITED ACADEMY」の動画で、ご確認いただき、日々のトレーニングに役立てていただければと思う。
【講師】上田原剛/
15歳の時にジーコサッカーキャンプに参加、ジーコにスカウトされアントラーズユースへ入団、その後大学を経て指導者の道へ。CFZ(ブラジル)で指導者をスタート。2005年〜2021年までの15年間は鹿島アントラーズのアカデミーにて指導。茨城県トレセンU12、ナショナルトレセン(関東)U12担当。2021年4月に蹴和サッカースクールを立ち上げ現在は小中学生の指導にあたる。スクールのほか指導者育成活動(練習会や講義)を行い、2021年6月からスタートした「お父さんコーチ向け練習会」には既に150名以上の指導者が参加している。
取材・文 鈴木智之