10.20.2025
「賢い選手を育成する」エコノメソッド流、ゲーム分析からトレーニングプランを組み立てる方法
サッカーの指導が学べる動画配信サービス「COACH UNITED ACADEMY」では、強豪チームや豊富な実績を持つ指導者によるトレーニング動画、指導していく中で必見な理論や情報を配信中だ。
前回より「賢い選手の育成」でおなじみエコノメソッドを採用する、アメージングアカデミー山梨監督のパウ・ガルナチェ氏による講義を公開中。
前編ではエコノメソッドに基づくゲーム分析により、オフェンシブトランジションにおける課題を抽出した。後編では、分析結果を1週間のトレーニングプランに落とし込むための考え方を紹介する。(文・鈴木智之)
ボールホルダーの状況を理解し、サポートする
後編のテーマは「1週間のプランニング作成」。パウ監督は「オフェンシブトランジション」をテーマに、設定すべきタスクについて説明する。
クローズドリカバリー(ボールを奪い返した後、周辺に多くの相手選手がいて、ボール保持者にあまり時間がない状況)で大事なコンセプトは、緊急時のサポートとして、明確にパスコースを作ること。そしてボールを奪った場所から素早く、広いスペースにボールを逃がすことだ。
「ボール周辺の選手に求められるのは、味方がボールを奪った瞬間の状況を的確に認知し、その状態に応じて自分たちがどのようなサポートをすべきかを判断することです」
パウ監督は続ける。
「ボールを奪った場所から逃がすというのは、前方のスペースになるかもしれないし、後ろのスペース、あるいはボールから一番離れたスペースになるかもしれません。それはボールの状況によって変わってきます」
オープンリカバリーの状況では、ボールホルダーに時間とスペースがある。この場合の優先順位は明確だ。一つ目のアイデアは、ボールを前進させるために前へのプレーを意識すること。ただし、ボールを前進させる中で、ボールを失わないことも大切になる。

3つのレーンを埋める
二つ目のコンセプトが、継続のサポートと前進のサポートを行うこと。そして、ボールを持っていない選手は、左右中央という「3つのレーン」を埋めることも必要だ。
「前回のゲームでは、ボールを奪った瞬間にウィングの選手たちが中央付近に向かって走り出してしまい、効果的にカウンターをするチャンスがあるにも関わらず、あまりカウンターができませんでした」
さらに、ボールよりも背後にいる選手たちにも必要なサポートがある。特にサイドバックやインサイドハーフの選手たちは、可能であれば攻撃に参加することが大切だ。
また、攻撃に参加する可能性の低いセンターバックや、ボールとは逆サイドのサイドバックの選手たちも、ラインを押し上げることが重要になる。
ポイントを最終的に統合する
パウ監督は、これらのコンセプトを一度に教えるのではなく、優先順位をつけて段階的に落とし込むことを推奨する。
「重要な数々のコンセプトを1日でやるとなると、かなりの情報量になってしまい、深く理解することができません。また、2つを同時にやってしまうと、オープンなのかクローズなのかという判断はできても、その下にある重要なコンセプトを理解できず、チームとして表現することができなくなってしまいます」
そこで提案するのが、別々のトレーニングに落とし込み、最終的に選手がどちらの状況でもプレーできる、理解できる状況を作っていく方法だ。
例えばオープンとクローズの2つが同時に起こる状況というよりは、どちらかが起こる状況を先に設定し、別々で伝える。最後のゲーム形式のトレーニングで、それが同時に起こるような状況を設定し、「今はどっちだった?」というふうに落とし込んでいく方法が、選手は理解しやすい。
大切なのは、ゲームを分析して何ができていなかったのか、そこからどのように改善していくのかを導き出し、トレーニングにつなげること。選手が成長できるように、何が大事なのかを考えながらプランニングすることだ。
詳細は「COACH UNITED ACADEMY」の動画をご覧いただければと思うが、認知タスクから始まり、段階的にチーム戦術へと発展させていくプロセスは、どの年代でも応用可能な手法と言えるだろう。
ぜひ動画を最後まで観て、ゲーム分析とプランニングの流れを学び、選手の成長に役立てていただければと思う。
【講師】パウ・ガルナチェ/
1995年生まれ。2019年から2021年までFA THAILANDにてチーフアナリストとして活動。2021年にはVILLARREAL ACADEMY SYDNEYにて監督をつとめる。その後REALRACING CLUB DE SANTANDERでチーフアナリスト、2023年にPAFOS FCでは監督及びメソッド部門部長を経験して現在に至る。
取材・文 鈴木智之