09.25.2023
土のグラウンド、少人数でも実践できる!U-10からビルドアップに必要な基本技術を習得するトレーニング
セレクションを実施しない街クラブながら、昨年の全日本U-12選手権神奈川県大会で準優勝を果たした中野島FC。チームを率いるのが、川崎フロンターレのアカデミーで育ち、桐蔭横浜大学から東南アジアのカンボジアでプロサッカー選手としてプレーをした岡本一輝氏だ。
2019年に監督に就任すると、2022年には『アイリスオーヤマ第7回プレミアリーグチャンピオンシップ』で全国優勝を果たすなど、確かな指導手腕を持つ岡本監督(現:U-10担当)に「数的優位を作り出しながら相手の陣形を崩すビルトアップトレーニング」を実践してもらった。
「選手個々がアイデアを持ち、攻守に渡って関わり続ける、クリエイティブなサッカー」を目指す中野島FCでは、どのようなトレーニングを通じて、主導権を握るサッカーを展開していくのだろうか?(文・鈴木智之)
ボールの受け方、出し方、タイミングなど、細部にこだわりを持たせる
動画前編のテーマは「ビルドアップに必要な基本動作の確認」。岡本監督は「このトレーニングで大切なのは、チームとしてゴールを奪うために、選手各々が選択し、正確に実行することです」と話し、こう続ける。
「サッカーにはミスがつきものです。認知・判断・実行の3つの中にミスの原因があります。ミスが起きた際、原因を分析して伝えることで、考える習慣がつきます。できる限り、選手自らが答えを導き出せるよう、オープンクエスチョンを意識したコーチングも重要です」
最初のトレーニングは「スクエアパス×4種類」。12m四方のグリッドの四隅にコーンを置いてパス&コントロールを実施し、ルールは以下のとおり。
(1)パスを出した方向のコーンへ移動
(2)対角へのパスを出す動き
(3)リターンパス
(4)対角へのパス
(5)上記のパスをミックスして行う
岡本監督は「前足にしっかりパスを出してあげよう」「ボールが来る前に周りを観るよ」「自分が次に出したい方向を観ながら」「観るために体の向きをしっかりと作ろう」「パスにメッセージを込めよう」「ボールのどこを蹴る?」といったアドバイスを、プレーにシンクロしながら行っていく。
続いて、パスの出し手がボールを止めたタイミングで、受け手はコーンから離れるプレーを実演。「出し手と受け手のタイミングを合わせよう」と話し、相手(コーン)から離れる瞬間にスピードを上げることにも言及していった。
選手たちは、コントロールが難しい、砂混じりの硬いコートながら、スムーズなコントロールからのパスができている。日頃のトレーニングの成果がうかがえる場面だ。
(2)の「対角へのパスを出す動き」では、対角への選択肢も持ちつつ、前方にいる選手へパスをする動きを繰り返す。
(3)のリターンパスでは、コーンを相手に見立てて、コーンからずれた位置でボールを受けることを強調。「相手の正面には立たない」とアドバイスし、ボールを受けるための適切な位置を意識付けしていく。
(4)の対角へのパスでは、コーンを相手に見立て、コーンの前に出てボール受ける動きにトライ。対角にいるパスの受け手は、出し手がワンタッチするタイミングで前に出てボールを受ける。また、できる選手はマークを外す動きをして、コーンの背後に下がり、前へ出てボールを受ける動きをうながしていった。
ここでは、ボールに対してどう向かって行くと、パスがスムーズに出せるかをデモンストレーション。「アングルを作るとパスを出しやすいし、落としの味方もパスを出しやすい」と説明。
さらに「ボールを持っていない選手は、ボールを持っている選手に対して、選択肢を与える動き、関わり方をしよう」と声をかけ、実際の試合に近づけていく。
最後はボールの持ち方、受け方で相手を騙す動きを織り交ぜていった。
どのエリアからもゴールを意識させることで、判断のスピードが向上する
2つ目のトレーニングは「2対1+1対2+2サーバー」。縦24m×横12mのグリッドで3人2チームに別れ、隣り合うグリッドに攻撃1人、守備2人を配置。
進行方向のラインにフリーマンを1名ずつ置き、ライン突破を目指す。ひとつのグリッド内に、味方は最大2名まで入ることができるというルールだ。
ここでは、最初のトレーニングで実施した、相手の正面から外れてボールを受けることや自陣ライン前ではボールを失わないことが最優先などの原理原則を伝えていく。
ほかにも「攻撃時は前方にサーバーがいるので、サーバーと攻撃の選手の2つの選択肢を作れるように」「守備では縦のパスコースを切りながら、サイドの選手にボールが出る瞬間に素早く寄せる」など、認知・判断にアプローチしていく。
フリーの選手に対しては「自分で相手をやっつけることを考えよう」とアドバイス。パスを出すふりをしてドリブルをすることや、ドリブルをすると見せかけてパスをすることの重要性を、実演を交えながら伝えていった。
前編のトレーニングはここまで。岡本監督は次のように振り返った。
「1つ目のトレーニングのポイントは、ボールの受け方、出し方、タイミングなど、細部にこだわりを持たせることです。質の高いプレーを具体的に褒めることで、プレーの基準が明確になります。ドリルトレーニングをするときは、選手のモチベーションを高く保ち、継続的に実施することでプレーの向上が期待できます」
2つ目の「2対1+1対2+2サーバー」では、「数的優位を活かすボールの持ち方、運び方、出し方、受け方を具体的に提示することが重要です。どのエリアからもゴールを意識させることで、観ておく場所が明確になり、判断スピードの向上が期待できます」と話し、トレーニングを締めくくった。
2つのトレーニングとも、グリッド、人数ともに多くを必要としないので、どのようなトレーニング環境でも実施しやすい内容になっている。
プレーの原理原則を身につけるために有効なトレーニングなので、岡本監督のコーチングを参考にしながら、日々の活動に取り入れていただければと思う。
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【講師】岡本一輝/
1996年1月28日生まれ。日本サッカー協会公認B級ライセンス保持。中野島FC、川崎フロンターレU-15、川崎フロンターレU-18、桐蔭横浜大学、Angkor Tiger FC(カンボジアプロ1部リーグ)でプレーし、2019年から中野島FCの監督に就任し指導者としてのキャリアをスタート。2022年夏に行われた「アイリスオーヤマ第7回プレミアリーグチャンピオンシップ」でクラブ初となる全国大会優勝を達成した。
取材・文 鈴木智之