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風間八宏はなぜ「背中を取れ」という言葉を使ったのか? 森保広島・風間川崎の攻防を読み解く(1)

図表・文/五百蔵 容(いほろい・ただし)

■第一回:川崎フロンターレの分析

 プロサッカーの試合には、様々な情報が詰め込まれています。一定のレギュレーションによる公式試合が毎週組まれ、そこでの結果がチームに関わる人々の人生に大きな影響を持つプロサッカーでは、試合の勝敗そのものがビジネスの、そしてまた将来の展望を支える最重要の原資です。そのため、できるだけ確度が高いと信じられる情報、準備、構想をもって試合に当たらなければなりません。そこでは、現在と過去の情報を等しく検討し、将来の展望へつなげるというプロセスが欠かせないものとなります。
 
 よって、プロサッカーにおける1試合単位ではない、試合から試合へ向かうプロセスに連なる情報を読み取っていくことは、サッカーの大きな一側面を深く考えることにつながると思われます。

 今回は、2014年現在Jリーグにおいて極めて興味深い対戦となっているカード――サンフレッチェ広島と川崎フロンターレのシーズンをまたいだ二度の対戦を詳細に見ていくことで、この2チームが1試合単位では収まらないどのような差し合いを演じ、そして発展しているのか、四回に分け読み取っていきたいと思います。

 第一回目は、風間八宏監督によって作り上げられている現在の川崎フロンターレの特徴について概観してみます。森保一監督のサンフレッチェ広島の特徴については、以前の考察をご覧下さい。

■守備者の背中を取るパスプレー

 J2から二度目の昇格を果し躍進を遂げた関塚・高畠両監督時代、ハードな対人守備からのカウンターサッカーで一時代を築いた川崎ですが、近年はポゼッションを重視し、ショートパスによる崩しを意図したサッカーに志向を転換。相馬直樹監督の後を受けて就任した風間八宏監督の手腕によってその志向はより徹底され、年々質を上げています。
 
 メディアで喧伝されている風間監督の言葉づかいはかなり独特なもので、ともすれば扇情的に扱われるきらいがあります。けれども、川崎のパスワークのしくみを子細に検討してみると、その方法論は一種偏ってはいるものの、非常にシンプルで実際的なものである事がわかります。図を交えて見てみましょう。

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 これらの約束事を繰り返して、川崎はボールを前に運んでいきます。こういった動きそのものは珍しいものではなく、小学生レベルでも指導可能なものだと思われます。風間川崎の特異な点は、こういった基本的で平易な動きを連鎖させることでボールをバイタルエリアに運ぶことを徹底しており、さらに最終ラインの攻略......いわゆる「裏を取る」狙いまでを同じ動きのうちに含み、実際に機能させている点にあります。

 「相手の背中を取れ」とは実際に風間監督がチームに投げかけ、浸透させている言葉だそうですが、「裏」ではなく「背中」という言葉の置き換えの中には、曖昧な用語を避け、明快な指針となる用語を用いてコーチングすべきという考えがあります。そしてさらに重要なことがあります。この用語変換の中にこそ、中盤でのボール運びと最終ラインの攻略を連結し、相手の脅威となる攻撃を実現するしくみが潜んでいるのです。

■守備者の「背中」とはなにか

 サッカーで語られる「裏」という言葉には、通常は二つの意味があります。
 ひとつは、ゴール前スペースを指す用語としての「裏」。

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 ゴールを陥れるには、なんらかの形で相手の最終ラインを崩し、このスペースを攻略する必要があります。ゴールを決めることこそがサッカーというゲームの目的ですから、ルールが変わらない以上、この「裏」には具体的で絶対的な意味があります。

 もう一つは相手の裏をかく、という意味での「裏」。この「裏」とは相手の意図の逆をつく、という意味ですから、その内実は相手の動き、ポジショニング、戦術の意図によって変わってきます。言葉としてはシンプルですが、意味的にはよく言えば多義的、悪く言えば曖昧で焦点の定まらないものだと言えます。

 このように「裏」という用語は少なくとも二つ以上の、またそれぞれ性質の異なる別個の事態を指しており、用語としては意味の混濁が見られます。これを「背中」という用語に置き換えパスプレーからゴールに向かう一貫した道筋を描き出すことで、風間川崎はチームの価値観を明確化し、意思統一された動きを実現しています。

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 守備者は、攻撃者のもつボールの方向を向き、そのボールの状態を注視することによって守備を行います。これは、守備側が意図通りの守備――相手ボールホルダーに一番近いファーストディフェンダーがその動きを規制することでその後の守備の焦点を定める――を行うために必要とする原則です。
 
 ファーストディフェンダー、その次にボールに近い者、その次と遠ざかるに従って他の相手選手もつかまえる(見ておく)バランスがチームのやり方によって変わりますが、この原則が変わることは基本的にありません。

 川崎は、この原則を攻撃側の有利に利用しようとします。守備者がボールに視野を向けなければならないという事象を逆用、攻撃側がボールを保持しているというだけでその視野を限定し、ボールの持ち方によって守備者の視野、ボディアングルをコントロールしようというのです。
 
 その際、一定以上の高い技術を持つことがボール保持者には求められますが、複雑な技巧は必要ありません。自分の足下のボールを見ている守備者の背後を味方の選手が常に動いています。彼と意図を合わせ、「背中を取った」タイミングでパスを出せれば良い。その動向は、冒頭の図で説明したとおりです。

■守備者の「背中」が攻撃側をゴール前にみちびく

 風間川崎の構想上では、守備者の「背中」を取りながら首尾良くボールを動かせるならば、もうひとつの決定的な「原則」が彼らの味方をしてくれます。

 守備者がボールの方向を向き、そのことでボールの動きを規制しなければならないのは何故か。ボールをゴールに向かわせないためです。ですから、守備者はゴールとボール間を遮断するようポジショニングします。つまり、彼の視野はボールの方を向いていますが、その背中はゴールの方を向いています。相手守備者の視野、アングルを自分たちがボールを保持することでコントロールし、自分たちの意図的な動きでその背中を取っていく、その動きを連続させることができるならば、その先には自然にゴールがあるわけです。

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 そこまで行ってきたのと同じように最終ラインの守備者の背中を取ることができれば、あとはGKを出し抜いてゴールを決める作業が残っているだけです。

 このように、風間川崎においては相手の「背中」を意識し、陥れることが中盤でのボール運びのみならず、最終ラインを攻略すること、ゴールを陥れることに直結しています。おそらくトレーニングを通じ、そのように連続した思考としてチームに落とし込まれているはずです。そこでは局面を打開するための個人戦術が全体戦術に無理なく統合されており、試合を重ねる毎に洗練され、次第によどみない攻撃が展開されるようになっています。
 
 このチームの問題は、変幻自在なるも論理的で復元的な効果を期待できる攻撃戦術を持ちながら、攻→守のトランジションを組織的に整備する意識が希薄なため、その攻撃理論から期待されるほどゲームを主導的にコントロールすることができず、得点は多いが失点も多いという点です。風間川崎が、非常に魅力的な攻撃サッカーを展開するチームからタイトルホルダーへ飛躍するには、この問題点をなんらかの仕方で克服する必要があるでしょう。

 ともあれ、相手チームが川崎のサッカーに対峙する場合、この攻撃のしくみを捉えることが非常に重要です。でなければ、有効な守備を行うことができません。実際、森保広島は2013年シーズンではこのしくみを有効に押えることができずボールを回されましたが、2014年では川崎の攻撃をほぼ機能不全にさせることに成功しています。

 次回から、実際の試合を通じてその差し合いを読み解いていきたいと思います。

五百蔵容(いほろい・ただし)
株式会社セガにてゲームプランナー、シナリオライター、ディレクターを経て独立。現在、企画・シナリオ会社(有)スタジオモナド代表取締役社長。「物事の仕組み」を解きほぐし思考するゲームプランナー、シナリオライターの視点から、実際の試合や歴史的経緯の分析を通し「サッカーの仕組み」を考察していきたいと思います。Twitter:500zoo

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