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『サッカーを分析するために重要な4つの視点』 マルセル・ルーカセン氏(ドイツサッカー協会所属テクニックコーチ)講習会レポート後編

COACH UNITED編集部です。去る8月10日、World Football Academy JAPAN主宰の「サッカーのテクニックトレーニング ベーシックコースin横浜」が行われました。レポートの後編では、『サッカーを分析する4つの視点』を中心に講習会のレポートをお届けします。(取材・文・写真/鈴木智之)

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ドイツ代表の『コーチを教えるコーチ』として、ブラジルW杯優勝に貢献したオランダ人のマルセル・ルーカセン氏。現在はドイツ代表のほかに、ブンデスリーガのドルトムント、シャルケ、ボルシアMG、オランダのPSV、VVVフェンロ、イングランドのトッテナムにおいても、コーチを指導する立場にいる。世界のサッカーシーンの先端を走るルーカセン氏は、選手のプレー向上において「サッカーとはどんなスポーツで、どのように行われているかを分析することが大切」と話す。

「たとえば、選手がトラップをミスしたとき。"あの選手は集中していないからミスをするんだ"と考えるのは主観的な見方です。そうではなく、コーチはなぜその選手がミスしてしまったのか、どのように指導をすれば改善できるのかを、常に自問自答し続ける必要があります」

ルーカセン氏は例をあげる。選手がトラップをミスしたとき。選手が棒立ちだったから、足に当たったボールが跳ね返ってしまいミスをしたのか。ひざをほどよく曲げて準備をしておけば、ミスをしなかったのではないか。プレーの判断と身体の使い方(プレーの実行)という2つの視点から、客観的に分析し、サッカーの言葉を使って具体的にアドバイスをすることが、指導者のすべきことだという。

■サッカーを分析するための4つの視点

ルーカセン氏は講習会中、何度も「分析する」という言葉を使った。サッカーのプレーをどうやって分析するのか。世界でもトップクラスの分析家であるルーカセン氏は、4つのポイントをあげる。

「1つ目がピッチのどこで行われているか。2つ目がいつ行われたか。3つ目がどの方向へプレーしたか。4つ目がどんなスピードで行われたか。この4つの視点でサッカーのアクションを分析します」

パスを例にとると、ピッチのどの位置から、どのタイミングで、どの方向へ、どのようなスピードのボールを蹴ったのかを見る。そこで大切なのが『プレーの判断とプレーの実行を分けて分析すること』だという。

「パスであれば、パスを出すポジションは正しいのか、タイミングは? パスの方向は? パススピードは適切だったか? と分析していきます。もし、パスが相手にカットされてしまったのであれば、その原因が判断のミスなのか、実行のミスなのかを分けて分析すること。そもそも、敵の方が有利な状態にいたのに、味方にパスを出してしまったのであれば、それは判断のミスです。一方で、足の振り方やキックの正確性といった、プレーの実行が良くなかった場合もあります。そこを見極めて指導をすることが重要なのです」

ルーカセン氏の言葉を聞いて思い出したのが、ドラガン・ストイコビッチの幼少期のエピソードだ。彼は身体が小さかったので、キックの飛距離が出なかった。しかし、当時のコーチはストイコビッチがどこへパスを出そうとしたのかという『判断』の部分を見て、「いまのはボールが届かなかったけど、いい判断だった」と繰り返し誉めたという。その後、ストイコビッチは身体が大きくなるにつれて実行のレベルが上がっていき、判断と実行が高いレベルに到達した結果、世界でも有数の選手にまで成長することができたのだ。もし、幼少期の指導者がストイコビッチの判断を正しく評価できない人物であれば、彼のクリエイティブなプレースタイルはなかったかもしれない。

選手のプレーを分析するためには指針が必要だ。そのもとになるのが『チームとしてどうサッカーをしたいか』というコンセプトである。ルーカセン氏は言う。

「チームとして、こうプレーしたいというイメージがあって、そのために必要なプレーはなにか、チームがめざすスタイルを実行するために、選手はどんなプレーをしなければいけないかを選手に伝えることが、コーチの仕事です」

たとえば、ピッチを広く使って攻撃をするサッカーを志向するとき。サイドバックからウイング、FWとパスをつないでゴールをするために、どうやってボールをつなげばいいか。またボールに関わっていない選手はどう動くのかを、選手に伝えること。それこそがコーチの役割だ。

「サッカーの指導で大切なのは、プレーモデルを掲げること。どんなサッカーをしたいのか、そのためには選手にどう動いてほしいのかを選手に伝えます。もちろん、すぐにできるものではないので、トレーニングを積む中で階段を登っていきます。選手に伝える時は、フィジカルやメンタルなど抽象的な言葉ではなく、ディテールをともなった言葉を使って伝えてあげてください」

ルーカセン氏のメッセージはシンプルだ。指導者がプレーモデルを掲げて、そのためにプレーを分析し、ディテールを突き詰めて指導していく。しかし、こと現場において、このプロセスを完璧に実行できる指導者はそれほど多くはないだろう。当たり前のことを高いレベルで行い、積み重ねていく。簡単なようで実に難しい、それらを継続していった結果が、ドイツ代表の24年ぶりのW杯優勝だったのだ。


取材協力/ワールドフットボールアカデミー・ジャパン
フース・ヒディンクがアンバサダーを務め、世界各地のコーチ、スタッフ、選手に対して、サッカーにかかわるあらゆる専門知識を育成、共有 する機会を提供している。