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ライフキネティックは脳を動かす、サッカー上達法 前編

リフティングをしながら足し算や掛け算をする。リフティングをしながら跳んだり、しゃがんだり、さらには前後で手を叩いたり。ボールを使わなくても、片足で立ちながらもう片方の足は前後に揺らし、首を左右上下に振ったりなど、簡単だけれども異なる動作をすることで脳のパフォーマンスを向上させる。『ライフキネティック』と呼ばれるこのトレーニング法は、6月に開催されたブラジルW杯で優勝したドイツ代表も取り入れているメソッドです。コーチユナイテッドでも取り上げてきたこのライフキネティック、皆さんはしっかりと理解されていますか? ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)を持つ中野吉之伴氏が、そのコンセプトを分かりやすく解説します。(文/中野吉之伴 photo by himanisdas

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■脳を鍛えることが、その目的

「サッカーのトレーニングで技術・戦術・コンディションに関してはほぼすべて考えつくされている。違いをもたらし、さらに鍛えるとしたらメンタルや動体視力、判断力といった部分だ」

これは2010年、当時SCフライブルク監督を務めていたロビン・ドゥットの言葉です。ドイツプロコーチライセンス(日本サッカー協会S級ライセンスに相当)の育成が行われ、ユルゲン・クロップ(ドルトムント監督)、トーマス・トゥヒェル(元マインツ監督)、クリスティアン・シュトライヒ(フライブルク監督)、マルクス・ヴァインツィール(アウグスブルク監督)といった数々の若い優秀な指導者を育て上げたヘネス・バイスバイラーアカデミー。ここでモダンサッカーや最新のスポーツ理論を学び、好成績で卒業したドゥットもまた新しいものの導入に積極的でした。ドイツで少しずつ知られだしていた新しいトレーニング理論『ライフキネティックトレーニング』はそんなドゥットの好奇心をくすぐったようです。週に1回1時間のスケジュールが組まれ、馴染みのないトレーニングに最初は選手も戸惑いながらも、興味津々に取り組んでいました。当時SCフライブルク所属だった矢野貴章選手も「ほかのことをやっていて気づくこともあるし、いいと思います。いろんなことをやるというのは気分転換にもなるし、悪いことではないと思いますね。その練習がすぐに効果が出るかは分からないけど、こつこつやり続けていたら成果に出るかも」と好意的に捉えていました。

最近では前述のクロップ監督がTV局のインタビューでライフキネティックトレーニングを絶賛するコメントをしたり、様々なメディアで取り上げられることでドイツだけではなく、ヨーロッパの様々なところで注目されています。ドイツ代表でもヨアヒム・レーヴ監督が「新しい刺激、新しいもの、新しい練習。さらに一歩先に踏み出すのにいいものだ」と、ここ数シーズンで取り入れたり、ブンデスリーガのクラブではニュルンベルク、シュツットガルト、ヴォルフスブルク、ブラウンシュバイクなど多くのクラブが興味を示し、育成層のトレーニングにも活用しているようです。日本でも「ライフキネティックトレーニング」という言葉を目や耳にすることも増えてきました。しかしまだそのコンセプトや内容がしっかりと浸透しているかとなると疑問が残ります。

そこでまず、ライフキネティック理論について、できるだけ分かりやすく説明したいと思います。トレーニングとして行われることは「見たり、聞いたりして取り入れた情報を、与えられた課題に応じて素早く頭のなかで処理し、すぐに体の動きに連動させる」こと。そしてその目的は「脳を刺激することで脳内処理キャパシティと処理スピードを上げること」。状況認識能力、集中力、状況判断スピード自体の能力を上げ、その結果としてパフォーマンス全体の向上が期待できる、という図式になります。この部分がよく誤解されているようです。

つまり「要求される動きをこなす(=繰り返してマスターする)ことでパフォーマンスのレベルを上げる」というわけではなく、「急に要求された動きに対応しようと刺激を脳に与えることで、脳内能力を高める」ことが大切なのです。求められる動きをスムーズに行うことに注視すると、動きの正確性とスピードが目的となり、コーディネーショントレーニング(定まった動きに対する神経到達スピードと動きの正確性)の範ちゅうに入るとされます。ここはしっかりと分けて考えなければならないところです。

■楽しく行い、子どものコミュニケーション能力も育む

ライフキネティックトレーニングは「ミスをしてもいいトレーニング」となります。極端に言えば、「ミスをすればするほど良いトレーニング」とも言えるかもしれません。ライフキネティック理論創始者ホルスト・ルッツによると、効果的な学習・トレーニングが出来るときとは、脳内で「ドーパミン」という物質が多く放出されている状態だそうです。ドーパミンとは中枢神経系に存在する神経伝達物質。そしてそのドーパミンが出るときというのは、目の前に実現可能だと思われる「クリアしたい!」という目標があるとき、そして笑顔で楽しんでいるときなのです。ライフキネティックトレーニングの大きな特徴の一つにみんなが笑いながら楽しくできるというのが挙げられます。私も一度セミナーに参加したことがありますが、初めて会ったほかの参加者とすぐに打ち解け、大笑いしながらトレーニングをしました。

「ただ笑って楽しくやったらいいんだよ」といってもふざけてしまっては練習になりません。ただ、そこにちょっと頑張ればできそうな、それでいてなかなかできない目標があると、みんな一生懸命に取り組もうとします。今度こそはとチャレンジする。できた、できないと盛り上がる。だれもが子供の頃にみんなで遊びながらそうした思い出があるのではないでしょうか。あのときのような感覚が大切なのです。

ちなみに優秀なアスリートだからと特別な練習メニューがあるわけではありません。実際にドルトムントで行われているライフキネティックトレーニングは一般人向けのトレーニングとほぼ一緒です。ルッツによると、むしろプロ選手にまでなっている選手ほどなかなかできないことを受け入れられないそうです。「これができないだなんてそんなはずはない。できるまでやる!」と動きのマスターに固執してしまいがちだとか。W杯優勝メンバーのマッツ・フンメルスもTV番組のインタビューに「一つ一つのおおまかな動きはやったことがあるし、知っているからできると思っていたけど。実際にデモンストレーションされた動きと自分たちの動きを比べると全然ダメだね」と笑って答えていました。

もう一点注意すべき点が「ライフキネティックトレーニングには即効性はない」ということです。お話してきたようにライフキネティックトレーニングは脳を鍛えるためのトレーニングです。常に負荷を与え続けたら頭だって疲弊しきってしまうのは当然です。ルッツは「1週間に1時間が最適。あるいは1週間に2、3回各15~20分ずつが望ましい。結果は6~8週間やり続ければ出てきます。我慢強く、あせらずに取り組んでください」と説明していました。ただチームスポーツのコーチは限られた時間の中であらゆることをやろうとするので、即効性ばかりを気にし、そうでないものは懐疑的に見てしまう傾向があります。あるいはこの理論を使ってすべての練習を構築しようとします。「アップのついでにやるのだから、できたらサッカーの技術アップに特化したものはありませんか」という質問も聞きます。しかし欲張りすぎは結局損になってしまいます。目的がぼやけてしまい、何を鍛えているのかわからなくなってしまうからです。

私自身、トレーニングにこの理論を取り入れていますが、ライフキネティックトレーニングを冒頭に行った日の方が、その後の練習への集中力が違うという実感を得ています。みんなでひとしきり楽しんだ後ですっとその日の課題に取り組んでいけます。

ライフキネティック重役の一人は「ライフキネティックは子どもたちにもできるもの。だから学校にも合っている。学校とは将来社会に出てから必要なことを学ぶ場所。そこでは人格形成をよりサポートすることが必要なんだ。実際に落ち着きのなかったとされる子どもに集中力や落ち着きが出てくるという結果も出ている」と語ってくれたことがありました。みんなでわいわい言いながら笑い合ってできるから、お互いの信頼関係を築く素晴らしいコミニュケーションツールでもあると言えるでしょう。チームワークを築く一助になるのではないでしょうか。次回はライフキネティックの実践法をご紹介いたします。

後編>>

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育成改革によりEURO2000の惨敗からたった10年で復活を遂げたドイツ。個の強さにテクニックと創造性を備え、全員が走ってパスをつなぐ最強の「モダンフットボール」へと進化しました。名門1. FC ケルンの育成部長も務め、多くのブンデスリーガを育てたクラウス・パブストがその最先端トレーニングを伝授。U-12指導者向け教材『モダンフットボール【MODERNER FUSSBALL】』
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中野吉之伴
秋田県出身。1977年7月27日生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督、翌年にはU16/U18総監督を務める。2013/14シーズンはドイツU19・3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、練習全般の指揮を執る。底辺層に至るまで充実したドイツサッカー環境を、どう日本の現場に還元すべきかをテーマにしている。

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