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【女子W杯コラム】澤穂希選手はなぜ世界一の選手になれたのか?

大会2連覇という目標を掲げ、女子ワールドカップ・カナダ2015(以下、カナダ女子W杯)に挑んでいるなでしこジャパン。そのメンバーに名を連ねる岩清水梓や大儀見優季など、数々の代表選手を育ててきた日テレ・メニーナの寺谷真弓監督に、彼女たちの"秘話"を語っていただくインタビューシリーズ第2回は、澤穂希選手をクローズアップ。「澤選手はなぜ世界一の選手になれたのか?」に迫る。(取材・文/小須田泰二 写真/金子悟)

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■"大人"扱いされることで"大人"顔負けのプレーを披露

いまから22年前。日テレ・メニーナの寺谷真弓監督は日テレ・ベレーザ(当時・読売ベレーザ)にGKとして入団したとき、まだあどけない表情を見せるひとりの少女が堂々とチームの中心選手として活躍していた。その少女が、当時15歳になったばかりの澤穂希だった。

「当時から澤は素晴らしい選手でした。私が代表監督だったとしても、今回のW杯メンバーに澤を選んでいたと思います。それほど彼女の経験がチームにもたらすものは大きい。彼女以上のキャリアを持った選手は、これからもう出てくることはないでしょうね」

澤が現在のなでしこリーグにあたるL・リーグに出場するようになったのは、さらに遡ること2年前の1991年、中学1年生の夏のことである。

通常ならばメニーナでキャリアを積んで、段階を踏んでからトップチームへと昇格させるが、澤の才能があまりにも飛び抜けていたため、当時の監督であった竹本一彦(現・東京ヴェルディGM)の判断で、異例の飛び級昇格を果たした。メニーナ入団から1ヶ月後のことだったという。

「年齢に関係なく良い選手にはチャンスを与える」というクラブの気風は、いまも昔も変わらない。それから半年も経たずにL・リーグの舞台に立つと、デビューから3試合目で初ゴールを決めてしまったのも驚くばかりだが、女子チームに入ったばかりの中学1年の少女に対し、「周りの人間がほかの大人の選手と同じように扱ってきたからこそ成長できたのだろう」と寺谷監督は回顧する。

「当時から周りの人たちは澤のことを"大人"扱いしていましたし、澤も"大人"顔負けのプレーをしていました。何かを"与えられる"ということもしていませんでしたし、特別扱いされなかったのが良かったのではないでしょうか。13歳からトップリーグに出場して、15歳のときにはすでに代表チームに招集されて、W杯とオリンピックの舞台を経験するようになっています。澤が誰よりも素晴らしい経験を持っているのは、まだ女子サッカーが不毛の時代だったからということも理由にあると思います」

生まれ持った「才能」とアマチュア時代に出現したという「運」、そしてトップレベルの舞台で重ねていった「努力」。この3つの要素が重なり合って、名実ともに世界を代表する『レジェンド』が生まれたのではないか――というのが、寺谷監督が考える"澤穂希誕生論"である。

「澤が10代だった頃と比べて、もちろん日本の女子サッカー自体のレベルが上がっていますし、育成レベルの環境も整備されてきています。澤がいまメニーナに入ってきても、なでしこリーグには出られなかったと思います。時代が良かったとしか言いようがありません。その意味で、澤のような選手はもう出てこないと思います...」

■探究心なくして成長なし 与えない子のほうが伸びる!

「それに最近は...」と前置きしたうえで、寺谷監督はこう続ける。

「最近は...確かにサッカーの上手な子が増えましたが、サッカーを教わるものだと思っている子が多いのです。サッカーというのは本来、自分自身で楽しむものであって、自ら追求していくもの。本当にサッカーが好きだったら、与えられるものを待っているのではなく、自分からどんどん探していって吸収していく姿勢が大切なんです」

ではどうすれば、子どもたちにサッカーへの探究心を植え付けることができるのか。「良い練習をすれば良い選手が育つとも限らない」というのは、寺谷監督にとって永遠のテーマだという。打てば響く――指導者と選手の関係はそれが理想だろう。しかし、実際には創意工夫しながらメニューを与えたり、ヒントとなる言葉を伝えたりしているものの、それに比例して子どもたちが順調に成長してくれるとは限らないというのだ。

「やはり一流選手として成長していく選手というのは、自分たちで生み出す力があります。10与えて10吸収する子がいれば、10与えても1しか吸収しない子もいるし、与えても芽が出ない子もいれば、与えなくても伸びていく子もいる。その吸収力というものが、いわゆる一流選手に共通している"資質"というものになるんでしょう。澤に限らず、大儀見や永里なんかを見ても、あんまりこちらから与えていない選手のほうが伸びていますから(苦笑)」

たとえば、試合に勝てなかったらなぜ勝てなかったのか? たとえば、ポゼッションできなかったらどうしてボールを持てなかったのか? たとえば、サイドのスペースを使いたかったのになぜ使えなかったのか? つねに自問自答しながらプレーしていれば自ら考える力が身に付くはずなのに、「なぜ?」という気持ちを持ってプレーしていない子が多いという。

「私の問いかけに対して、答えを聞いてくる子もいます。そういう子はやっぱり伸び悩んでいます。繰り返しになりますが、探究心というのは、高いレベルでプレーするためには絶対に必要な資質だと思います。探究心があれば向上心も芽生える。先ほど澤は時代が良かったと言いましたが、いまの子どもたちには澤のあくなき探究心を見習ってほしいですね」

澤は1995年大会に初出場し、前回大会では日本の初優勝に貢献するとともに、MVPと得点王を獲得した。今回のカナダ女子W杯で、男女を通じて世界初となる6大会連続でのW杯出場を果たし、グループリーグ初戦のスイス戦で前人未到の代表200試合出場という大記録も達成した。

どうすれば上手くなれるのか。どうすれば勝てるのか。どうすればメダルを獲れるのか。そして、どうすれば澤のような世界一のプレーヤーになれるのか――。

「澤が"最後の大会"と言っていますが、日本の子どもたちにはぜひ、彼女が最後のW杯でどんなプレーをするのかしっかりと見て、自分たちでその答えを見つけてほしいですね」

■カナダ女子W杯 なでしこジャパンスケジュール

<グループリーグ>

6月9日 vsスイス ○1-0

6月13日 vsカメルーン

6月17日 vsエクアドル

<決勝トーナメント>

6月21or22or24日 1回戦

6月27or28日 準々決勝

7月1or2日 準決勝

7月5日 3位決定戦

7月6日 決勝

■カナダ女子W杯 なでしこジャパンメンバー

▽GK

1 福元美穂(岡山湯郷)

18 海堀あゆみ(INAC)

21 山根恵里奈(千葉)

▽DF

2 近賀ゆかり(INAC)

12 上尾野辺めぐみ(新潟)

3 岩清水梓(日テレ)

5 鮫島彩(INAC)

19 有吉佐織(日テレ)

23 北原佳奈(新潟)

20 川村優理(仙台)

4 熊谷紗希(リヨン)

▽MF

10 澤穂希(INAC)

7 安藤梢(フランクフルト)

8 宮間あや(岡山湯郷)

9 川澄奈穂美(INAC)

6 阪口夢穂(日テレ)

14 田中明日菜(INAC)

13 宇津木瑠美(モンペリエ)

22 永里亜紗乃(ポツダム)

▽FW

11 大野忍(INAC)

17 大儀見優季(ボルフスブルク)

15 菅澤優衣香(千葉)

16 岩渕真奈(バイエルン)

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寺谷真弓(てらたに・まゆみ)
1971年11月24日生まれ。東京都出身。現役時代は読売クラブ・ベレーザ(現日テレ・ベレーザ)、鈴与清水ラブリーレディースでGKとしてプレー。1999年から指導者の道へ進み、日テレ・メニーナ監督、日テレ・ベレーザ監督を歴任。岩清水梓、大儀見優季をはじめ、多数のなでしこ選手を育て上げた。日本サッカー協会公認A級コーチライセンス取得。現在は東京ヴェルディ・女子グループテクニカルダイレクターと日テレ・メニーナ監督を兼務する。