07.06.2015
日本が目指すべき「ひとつ上の」技術レベル/JAPANの現在地
7月のCOACH UNITED ACADEMYは「JAPANの現在地」をテーマに、海外を舞台に戦う指導者から見た日本の現状を検証する。前半は「ベトナムから見たJAPANの座標」と題し、アジアの新興国で代表チームを率いるという難しいミッションに挑みながら、着実に結果を残しているベトナム代表監督の三浦俊也氏と、「チームビルディング」の第一人者である福富信也氏の対談をお届けする。今回は本編の中から、三浦監督がアジアの上位国と戦って勝つために、ベトナム代表のどこを改善すべきと考えて何に取り組んだのか、ピッチ内でのアプローチについてご紹介する。(取材・文/鈴木智之)
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■アジアで"世界基準"を身に付させる方法
ベトナム代表監督を務める三浦俊也氏と、東京電機大学サッカー部監督・福富信也氏による特別対談。さまざまな話題が進行する中、福富氏が「具体的なトレーニングで、実際にピッチ上で取り組んだ部分はどのあたりでしょうか?」と尋ねると、ある課題が三浦氏の口をついて出てきた。「ASEANの選手は身体が小さいので、ぶつかり合いを嫌うんですね。レフェリーもすぐファウルをとりますから、選手は少し接触するとすぐに倒れます。それと、身体の大きな外国人選手にはあまりぶつかりに行きません。そこを改めないと絶対に勝てないので、練習から意識して取り組んでいます」
ぶつかり合いを嫌うという弱みは、日本サッカーにも通じるところがある。球際の弱さはハリルホジッチ日本代表監督が就任後、真っ先に指摘した部分でもある。日本もベトナム同様、それほど身体的に優れている国民ではなく、相対的に体重も軽い。その条件下で相手を怖がらずにどれだけ戦うことができるのか。これはフル代表だけでなく、育成年代から意識したいテーマでもある。
福富氏は大学で教員を務める傍らサッカー部を指導しており、オン・ザ・ピッチでどのような練習をしているのかについて、監督の視点でも突っ込んだ質問をしていく。
福富:課題となる「球際の強さ」を、具体的にどのような練習を通じて選手たちに身に付けさせているのでしょうか?
三浦:まず、実践形式の練習で選手同士が接触をしても、ファウルをとらずに「立ちなさい」と言っています。ベトナムに日本人のレフェリーが来ると、そう簡単にはファウルの笛を吹きません。このような意識付けを通じて、世界基準とは何かを教えています。あとはそもそもチーム編成の段階で、球際の激しさやりぶつかり合いを厭わない選手を集めていますし、ハイボールに強い選手も評価の対象にしていますね。
福富:ぶつかり合いを嫌う、ハイボールが苦手というのは、日本の育成年代にも同じ傾向があると考えています。日本はイングランドやスペインの"憧れのプレー"をいつでも見られる環境にいるので、足技やテクニックを身に付けることは盛んに行なわれていますが、激しさやたくましさについてはあまり言及されてきませんでした。日本の育成年代も、そのあたりに早く取り組む必要があると思います。
三浦:リオデジャネイロ五輪のアジア一次予選でU-22日本代表と対戦しましたが、日本の選手は大型化していますし1対1に対する意識もすごく高い。それでも、アジアなら韓国はさらにその上を行きます。確かに、憧れのプレーを見て真似ることで技術は伸びたかもしれませんが、現実として日本人選手はスペインやイングランドでは成功していません。その辺が海外の指導者から指摘される部分なんですね。技術は十分にある。ただシンプルにプレーしなかったり、ぶつかり合いを避けたり、個人戦術も含めてその点がネックになっている。そういった要素もサッカーのひとつであることを理解して、激しいコンタクトの中で使える技術を磨かなければいけないと感じます。
福富:育成年代から、プレー強度の高い中で発揮できる技術を求めていく必要がありますよね。
三浦:そうですね。それはベトナムだけでなく、ASEANも似ている状況にあると思います。
■攻守における課題の見立てと打ち手
サッカーは攻守がめまぐるしく移り変わるスポーツだ。攻撃と守備が分離しているのではなく、常に表裏一体で行なわれている。激しい守備をかわすためにはより精度の高い技術が必要になり、逆もまたしかりで、攻撃力を高めるためには守備の整備も必要になる。福富:先ほどの話につながる部分で言うと、ベトナムも日本と同じ農耕民族ですよね。そのアドバンテージを生かしていくと、守備の整備は手を着けやすいのではないですか?
三浦:そうですね。ひとりよがりのプレーというのは、それほどありません。守備は組織でやるのでしっかりやらせて、ぶつかり合いや1対1、セカンドボールへの意識と技術を高めることを中心に取り組んでいます。
福富:攻撃面はいかがでしょうか? 日本や世界のトップレベルと違うと感じることはありますか?
三浦:ベトナムサッカーの傾向として、観客が喜ぶようなプレーが好まれるんですね。たとえば2人、3人をドリブルで抜いて、仮にそこでボールを取られても観客は沸きます。しかし私の考えでは、それは効果的なプレーとは言えません。ですからベトナム代表では、トレーニングのときはタッチ数を制限するなどして、コンビネーションプレーを多くしています。そのせいか、攻撃は相当速くなったと言われますね。
その国によって、好まれるプレーとそうでないプレーがある。それらを見極めた上で、やるべきこと・やってはいけないことを整理し、トレーニングに落としこんでいく。文化の異なる国で監督を務める者にとっては、これも大切な仕事のひとつである。また、サッカー強国とそれ以外の国――ベトナムをはじめとするアジア諸国を比べると、プレー強度も含めてまだまだ向上の余地がある部分が残されている。次回の更新では、「ベトナムと日本」の差から見る「日本と世界のトップ」の距離感について、三浦監督の見解を紹介したい。
三浦俊也(みうら・としや)
1963年7月16日生まれ。釜石南高、駒澤大卒。指導者を目指してドイツにコーチ留学し、ドイツA級ライセンスを取得。帰国後に日本のS級ライセンスも取得した。JFL時代の仙台、水戸を皮切りに、J2の大宮アルディージャ、コンサドーレ札幌で指揮を執り、組織的なサッカーでJ1への昇格に貢献。その後もJ1のヴィッセル神戸やヴァンフォーレ甲府で監督を歴任した後、2014年5月からベトナム代表監督に就任、12月の東南アジア選手権(SUZUKI CUP)ではチームをベスト4へと導いた。リオデジャネイロ五輪を目指すU-22代表監督も兼任する。
福富信也(ふくとみ・しんや)
1980年3月23日生まれ。信州大学大学院教育学研修科修了。横浜F・マリノス育成コーチを経て東京電機大学理工学部へ。専任教員として教鞭を執る傍ら、サッカー部監督として指導の現場に立つ。JFA公認指導者S級ライセンスで講義を担当している他、Jリーグから育成年代まで幅広く指導するチームビルディング指導の第一人者。サッカーのみならず、スポーツ全般、幼~高までの教育分野、社会人などへの講演、研修、セミナーなど多数。著書に『『個』を生かすチームビルディング』がある。2015年5月、組織論を主とした指導、研修、講演や執筆などの事業を行なう株式会社Humanergyを設立。7月18日には、講演「困難を乗り越えたチームが強くなる!」を主催。申し込みはこちらから。
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三浦俊也氏×福富信也氏の対談を含む
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取材・文 鈴木智之