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Jクラブの課題は「個の育成」だけにあらず。フットパスが問題視した「属人的な指導」と「指導者の育成計画」とは?

2015年からスタートした日本サッカーの育成面についての改善を進めるためにJFA/Jリーグ協働プログラム(JJP)が開始された。その一環として設けられたのが、『フットパス』だ。1つのクラブの「育成」を多角的に評価、数値化していく仕組みで、ドイツ・ブンデスリーガにて広く採用されたことから有名になった育成評価システムである。

前編では、このシステムの概要について解説したが、後編ではフットパスを通して具体的にどのような課題が指摘されたのか詳しく解説したい。(文・川端 暁彦)

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■フットパスが強く戒める「属人的な指導」

前編の記事でも触れたが、Jクラブの育成は属人的であると言う。そもそも日本の育成年代の指導全般が属人的な傾向を持つとも言えるし、アマチュアの街クラブや部活動の延長線上のような位置付けにJクラブが立ってしまっているという言い方もできるのかもしれない。

フットパスを通じて総じて指摘されたのは、指導者個人に委ねられる裁量の幅が大きく、「クラブとしてどういうチームを目指すのか」「どういう選手を育てたいのか」の共有が曖昧であること。

そのためのコーチングの手法を現場に委ねすぎている点が問題視された。監督が代わればサッカーも変わる、個人に対する評価やアプローチも変わるといったことを「当たり前」にすべきではないということだ。

■人が代わっても変わらない強固なクラブへ

時に現場の指導者は、チームや個人に関する情報を自分にしか分からないブラックボックスにしてしまいがちだが、フットパスはこれを強く戒める。人が代わっても変わらない、人に頼らない強固なクラブであれと、指導法の言語化と共通化、そして情報や方針の共有を強く求めている。

日本だと「指導者の個性を尊重する」という考えをポジティブに解釈しがちだ。だが、たとえば毎年来日するFCバルセロナのU-12チームを観ていても分かるように、欧州のクラブにおいて指導者は悪く言えば個性を消されており、まずはクラブのフィロソフィーを押し出していることが分かる。

JJPを通じてベルギー・アンデルレヒトへ指導者として派遣されている横浜F・マリノスの坪倉進弥氏が現地で驚いたのは、日本で言う小学生年代のカテゴリーの指導者が3カ月に1度「シャッフルされる」ことだと言う。チーム作りの継続性などが保ちづらくなりそうだが、チームが一人の指導者の色に染められるようなこともなくなる。

指導者全員が別カテゴリーにどういう選手がいるのか把握するようになり、「あいつはこっちのポジションのほうが生きるんじゃないか?」なんて議論が異なるカテゴリーの指導者同士で自然と成立するようになるという効果も感じたと言う。

■指導者の「個の育成」も必要

フットパスがJクラブの指導に関して疑問視したのは、「IDP(インディビジュアル・ディベロップメント・プラン)がない」ということだった。Aという選手がいたときに彼個人のどこをどう強化し、心理的にどう導いて、最終的にどういう選手にしていくのか(場合によっては、そしてどう売るのか)という計画がそもそもない。

そして、チーム全体の練習が重視されるなか、個別的なトレーニングがなされていないということだった。あえて分かりやすく言ってしまうと、ハイクロスが弱点のGKとビルドアップを苦手とするGKがいるなかで、両方が同じ練習をこなしているだけでいいのかということだ。

11の評価項目のうち、全クラブの平均で最低評価が「個の育成」であったのはこのためと言っていい。

実は「IDPがない」と指摘されたのは指導者についても同じなのだそうだ。つまり、指導者の育成計画。その指導者はどういう部分に強みがあって何を苦手としていて、これからどう育てていくべきなのか。そうした個別的なファイルや計画がない点についてもフットパスでは疑問が示されたと言う。

それは指導者の査定に関する基準がなく、ここもまた「属人的」であることにも繋がる。偉い人が何となく判断して、何となく決める。それでは強固な組織にはなり得ない。もちろん「偉い人」が有能であれば機能する可能性もあるが、その人がいなくなったときどうなるかと言えば......。

ベルギーからやって来た「黒船」たるフットパスは、Jクラブの現場にさまざまな示唆を与えている。その指摘に迎合する気はないと強気なクラブが出てくるなら、それはそれでも面白いチャレンジになるかもしれない。いずれにせよ、各クラブアカデミーの刺激になっていることは確かで、今後出てくる改善策についても期待したいところだ。

特に「個の育成」に関しては、選手全員を一律に扱い、全員で同じ練習をすることを「良し」とする指導が増えている中で、強く一石を投じる指摘となりそうだ。

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