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コーチが練習メニューに悩むのはなぜか?正しいM-T-Mの実践法 / ゲーム分析からトレーニング作成までのプロセス

COACH UNITED ACADEMYの人気連載、『The Soccer Analytics』でもお馴染み、オランダの名門アヤックスで活躍する白井裕之氏は、オランダと日本ではトレーニングに対する取り組みや概念、トレーニングの立案に対するとらえ方が大きく違うと言う。

現在公開中のCOACH UNITED ACADEMYでは、オランダと日本のトレーニングの違い、オランダのM-T-Mの考え方とは? そして分析の専門家である白井氏がなぜいま、トレーニングに言及するのかなどが詳しく語られている。このコラムでは、分析とトレーニングの相関性、関連づけることの重要性にフォーカスして内容を一部ご紹介する(取材・文 大塚一樹)

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■オランダと日本の「分析対象」の違い

「日本でも試合をしてそこで見つかったサッカーの問題を元にトレーニングを行う"M-T-M"という考え方が浸透してきました。しかし、オランダでは、M(マッチ)とT(トレーニング)の間にもう一手間加わるんです」

そう力説するのはアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活躍している白井裕之氏。

昨年9月、白井氏がオランダ代表U-13、U-14、U-15の専属アナリストとしてオランダサッカー協会(KNVB)と正式契約を結んだというニュースが話題を呼んだ。日本人である白井氏がオランダのナショナルチームに関わることに驚きを持った人も多いかもしれない。白井氏の肩書きはもちろんアナリスト。常設チームを設けているとはいえ、発掘・育成が主目的になりそうな13歳から15歳までの年代で「果たしてアナリストが必要なのだろうか?」と考える指導者も少なくないと思う。ここが白井氏の指摘するオランダと日本の決定的な違いと言ってもいい。

日本でアナリスト、分析担当というと、真っ先に思い浮かぶのが「相手チームのスカウティング」だろう。データ分析の重要性が言われるようになってからだいぶ変わってきたとはいえ、日本では依然として「分析=相手チームのスカウティング」というイメージが根強い。オランダでももちろん相手チームのスカウティングは行うが、それはアナリストの仕事のごく一部でしかない。

「スカウティングは相手の目的や原則がわからない状態で行います。アナリストとしてピッチで起きている現象を正確に把握して分析することはできますが、相手のチームがどうしたかったのか?どんな意図を持ってプレーしているのかは予測するしかありませんよね。そういう意味では、相手チームのスカウティングは分析としては数十パーセントの足りない部分があることになるんです」

白井氏は、相手チームの設定している目的や原則がわからないまま行うスカウティングは予想の部分も出てくるので完璧とは言えないと指摘する。ピッチで起きている状況がどうして起きたのか?なぜ具現化しているのか?を把握することは大切だが、その理由は「相手が弱いからかもしれないし、主力選手がケガをしていたからかもしれない。そこは想像するしかない」と言うのだ。

正しいスカウティングの作法については、またの機会に譲るとして、オランダでアナリストの仕事と言えば、不確定要素の大きい相手のスカウティングよりも、自チームの分析、トレーニングモデル構築のサポートが占める割合が圧倒的に大きい。

■M-"A"-T-Mの「A」とは?

「いま日本でも取り組みが進んでいますよね。クラブのメソッド部門がクラブの戦略に基づいてトレーニングモデルを構築するやり方です。こうしたトレーニングモデルを策定していく中で分析はとても重要な役割を占めているんです」

冒頭の白井氏の投げかけ、M-T-MのMとTの間にあるものの謎解きを先にしておくと、オランダでは、MとTの間、つまり試合の後には必ず"A"にあたる分析(Analytics)が介在する。試合をしたらその試合の分析に基づいてトレーニングを最適化する。その枠組みを作ることがチームのパフォーマンス、選手個々のパフォーマンスを高める方法になる。

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「M-A-T-Mということですよね。これを言葉にしたのは私ですが、オランダの指導者は当たり前にこのサイクルを回して指導をしています。分析論という概念が前提にあるので自然とそうなるんです」
 
分析のないM-T-Mはどうなるか?試合での問題点や成長点を正確に把握しないままトレーニングを立案するのは、ノープランでなんとなくトレーニングを課すことになりかねない。優れた指導者はそれを経験や知識の積み重ね、究極の主観で成立させているが、選手への説得力や指導者間の共有と言ったコミュニケーションの問題を考えれば、「共通化、一般化できるサッカーの言葉で語れた方がより効果が高い」(白井氏)のは間違いない。

指導者の主観に基づいたトレーニングではなく、統一された分析基準に基づいてサッカーの問題と成長を把握するのが"A"の一手間というわけだ。

■「ゲーム分析」からトレーニング作成までの手順

クラブチームに比べ試合数が少なく、トレーニングの重要性が成長に直結する13歳から15歳の年代のナショナルチームに専属アナリストとしてオランダ随一の育成クラブ、アヤックスで活躍するアナリストが抜擢された。この事実は、オランダという国が自チームの分析、試合から得た成果と課題をトレーニングに接続することをいかに大切に考えているかの証拠と言えるかもしれない。
「オランダのトレーニングは肉体的なパフォーマンスを上げていくためのコンディショニング、最近世界的にも定着してきたピリオダイゼーションに基づいて行われています。それと同じくらい特徴的なのが、すべてのトレーニングに目的と原則があることでしょう」

目的と原則の詳細については、COACH UNITED ACADEMY本編や、白井氏の連載を参照して理解を深めてもらう必要があるかもしれないが、オランダで行われるトレーニングはたとえ休み明けの軽いトレーニングでも、サッカーの目的とチームの原則が設定されている。

「たとえばアヤックスでは、サッカーのアクションではないパス回しでも『3人目の動きを作り出す』『スペースを作り出す』という原則に基づいてトレーニングを行います。この原則と前の試合の分析があることによって、指導者は適切なトレーニングを設定できるのです」

こうした方法論は、一流クラブであるアヤックスでもグラスルーツのクラブ、たとえば日本の少年団でも同じように有益なものと言える。試合の分析に基づいてトレーニングを決めるやり方は、むしろプレー経験や指導経験、知識の十分でないお父さんコーチにこそ最適と言えるかもしれない。

「しっかりと試合の分析ができれば"ドリル"に悩むことはありません。試合で浮かび上がってきた成長した点、これからの問題をそのままトレーニングに落とし込めば良いんです」


COACH UNITED ACADEMYではU-13、U-14、U-15オランダ代表アナリストに就任したばかりの白井裕之氏の最新理論を動画で公開中。トレーニングへのアプローチから立案方法までが体系的に語られている。ヨーロッパ最先端にして、グラスルーツにも通じる普遍性を持つ『The Soccer Analytics』の一端にぜひ触れて欲しい。

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白井 裕之/
オランダの名門アヤックスで育成アカデミーのユース年代専属アナリストとしてゲーム分析やスカウティングなどを担当した後、現在はワールドコーチングスタッフとして海外選手のスカウティングを担当。また、昨年9月からは、ナショナルチームU-13、U-14、U-15の専属アナリストも務めている。

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