08.09.2016
子ども達にサッカーの戦術を指導することは「型にはめる」ことではない【連載】The Soccer Analytics:第13回
オランダ・アヤックスのユースカテゴリーで分析アナリストを担当する白井裕之さんと、関西のバルサと異名をとり、その指導法が注目される興國高校(大阪府)サッカー部 内野智章監督による特別対談企画 第4回目(最終回)をお送りする。
2人の話は、前回につづき実践のベースとなる「分析と枠組み」の重要性について、さらに議論を深めていった。(構成/COACH UNITED編集部)
【特別対談企画】
①試合開始10分で戦い方を変えるスペイン人と、変えられない日本人の違い
②「ポゼッション」とは、相手に関係なく試合を優位に進める手段ではない
③試合に負けた原因を「選手のメンタル」の問題にすり替えていないか?
④子ども達にサッカーの戦術を指導することは「型にはめる」ことではない
「考えろ!」は選手にクライフ以上の成果を求めている
白井:「アヤックスのサッカーの根本になるのが、ヨハン・クライフの作った8つの原則(局面ごとの目的を達成するために選手が優先して行うプレー)です。その原則を元に、フィールドごと、相手のやり方を加味したものが加わっています。
アヤックスのサッカーは、この原則によって特徴付けられているわけです。選手に考えろ!考えろ!と言う監督は多いですが、相手と対峙している中で、場当たり的に考えるというのは、EUROに出ているトップ選手でも不可能です。
先日、EUROの決勝を分析しましたが、フランスの選手達はハーフタイムで監督の指示を受けるまで45分間ビルドアップの課題を解決することができませんでした。試合中に考えろ!と言うのは、選手たちに「新しいサッカー」を考えさせているようなものです。
つまり試合中に即興で新しい原則を作れと指示しているんです。これは冗談ではなくクライフよりすごいことを試合中に求めていることになります(笑)」
内野:「それは無茶ですね(笑)」
Photo by Timo Dierckx
白井:「戦略も目的もない中で選手にすべてを委ねている。本来は大きな枠組みを指導者が用意して、選手はその中で要求される優先プレーを選んで選択と実行をしていると考えます。何を選ぶか、どう選ぶか、いつ実行するかによって、選手が成長するんです。
こういう話をするとクリエイティブな選手が育たなくなるという話をする人がいます。そこで私が「クリエイティブ」「クリエイティブな選手」とはどういうものを指しているのですか?何ができればクリエイティブなのですか?と聞くと誰も答えを持っていません。
チームの戦略とそれに基づく目的と原則、そして相手の状況に応じた戦術、これら選手がピッチ上で実践するプレーモデルを指導者が設定しない限り、選手は何をプレーしていいか分かりません」
▼プレーモデルの枠組み
内野:「これは小中学生の指導者の人にぜひ知ってもらいたいことです。戦術を教え込むのは『型にはめている』とか『まだ早い』とか言う声が今でも多いんです。でも、ドリブルやテクニックに偏ることは、ドリブルという型、テクニックという型にはめてませんか? という疑問もあるんです」
ゼロにいろんなものをかけてもゼロ
白井:「結局、サッカーとは何か? サッカーの目的とは何か? を大前提にしないと、サッカーのトレーニングはできません」
内野:「以前、サカイクの取材でも話したのですが九九もできない人に数式は解けません。考えろ!考えろ!って言って方法論を教えなかったら前に進みません。ゼロにいろんなものをかけてもゼロでしょう」
白井:「目的も曖昧、原則も戦略も戦術もなくて、トレーニングをしましょうと言われて困るのは選手たちです。あれこれ指示して一方的に成功する選択と実行のみを強制して型にはめることもオーバーコーチングですが、何も設定せずなんとなくトレーニングすることが一番のオーバーコーチングだということを強く言いたいですね」
Photo by Timo Dierckx
内野:「本当に分析ができないとトレーニングができないです。起こっている現象に対するトレーニングができないと、ボール扱いをうまくして勝つ、それもダメならメンタルで勝つ! だからおまえら死ぬ気で走って戦え!? となるんじゃないでしょうか。もちろんそれも大事なんですけどね。ただ、何が一番大事かを我々指導者はもっと考えていかないといけないと思います」
白井:「分析に基づいた客観的な枠組みの設定、そこにこれまで日本サッカーが積み上げてきた主観が乗ってくれば、もっともっと日本は強くなると思います。これに起きた現象に対処するアウトプット、コンディショニングを意識したアプローチが加わっていけば、日本のサッカーは大きく変わります。興國高校はその可能性を大きく秘めているチームだと思いますよ。内野監督ありがとうございました」
内野:「ぜひ、今度は飲みながら話しましょう(笑)」
白井:「ぜひ!(笑)」
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■内野 智章(うちの・ともあき)
興國高等学校(大阪府)のサッカー部監督を務める。ここ3年で4名ものJリーガーを輩出し、毎年3年生のうち20名以上が関東や関西の大学サッカー部へ推薦入学を決めるなど、選手権をゴールとしない育成方法で全国から注目を集める。また、高い技術力をベースとしたポゼッションサッカーは"関西のバルサ"と異名をとり、スペインではビジャレアルユースと互角に戦うなど海外でも評価が高い。
■白井裕之(しらい・ひろゆき)
2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。
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取材・文 COACH UNITED編集部 写真 Timo Dierckx