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試合開始10分で戦い方を変えるスペイン人と、変えられない日本人の違い【連載】The Soccer Analytics:第10回

「あくまで私が活動している欧州の基準で見た感想ですが、日本の子ども達の試合を見ていて『誰と試合をしているのかな?』と思うことはあります。相手の陣形とか、やり方に関係なくプレーしているケースが目につきます。」

オランダ・アヤックスのユースカテゴリーで分析アナリストを担当する白井裕之さんは、日本のチームが同年代の欧州クラブと対戦したときにこうした違いが浮き彫りになると指摘する。

「そこのところは僕も強く感じる部分ですね」

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これに大きくうなずくのは、興國高校(大阪府)サッカー部の内野智章監督。過去3年で4人のプロ選手を輩出し、年代別の日本代表にも選手を送り込むなど、その指導法が評価される注目の若手監督である。

今回は、The Soccer Analyticsの連載特別編として、4回にわたり2人の対談の様子をお届けする。そもそもこの対談は、記事を前提に設定したものではなかった。

それだけに日本とオランダ、国は違えど選手たちの目の前に立つ現場で戦う指導者同士が共鳴し、本音に近い意見交換となった。(構成/COACH UNITED編集部)

【特別対談企画】
試合開始10分で戦い方を変えるスペイン人と、変えられない日本人の違い
「ポゼッション」とは、相手に関係なく試合を優位に進める手段ではない
試合に負けた原因を「選手のメンタル」の問題にすり替えていないか?
子ども達にサッカーの戦術を指導することは「型にはめる」ことではない


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開始10分でも戦い方を変えられるスペインの子ども達

内野:「ウチもそうですが、日本から、たとえばスペインに遠征する様な高校も増えているんですけど、相手が強ければ10点くらい失点してしまうチームもある。スタイルを貫くあまり、選手も監督も試合中に戦い方を変えられないんです。でも、スペインのチームなんかは開始10分くらいで、相手の戦い方を見抜き自分たちで変えてきます。」


白井:「ウチのチームの選手だったら監督に文句を言いますね(笑)欧州の選手は小学生でもコーチに食ってかかります。彼らにとってサッカーの目的は勝つことなので、勝てないのにスタイルがどうの、自分たちのサッカーがどうのという話をされても『勝てるサッカーをやらせてくれ』となりますよ」


内野:「でも、個々の選手たちを見ると、めっちゃうまいんですよ。驚くほど足下の技術はあるし」


白井:「たしかに技術面(ボール扱い)では間違いなく日本の選手はうまいですよ。ただ、相手のチームや状況に応じてその技術を発揮できなかったり、特定した場面でしか発揮できなかったりします。自分の主観だけでプレーしてしまっている印象です」


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小野伸二はイニエスタになれた

内野:「たとえばね。小野伸二選手は間違いなくイニエスタになれたんじゃないかと思うんです。大きなケガとか不運もありましたが、彼は過去の日本人選手を振り返っても本当に類を見ないタレントですよね」


白井:「私もそう思います!ただ、小野伸二選手の素晴らしさが攻撃のビルドアップにしか活かされていなかった」


内野:「あれだけ素晴らしい技術を持った選手がね、守備や攻守の切り替えにおいてもその技術を発揮できれば、それだけでイニエスタなんじゃないかと。走力がどうだフィジカルが運動量がって批判する人も多いですけど、そうじゃなくて、その役割であったり動き方というタスクを指導者が与えてこなかったからだけなんじゃないかなと」


白井:「イニエスタはどのエリアでプレーしているかによって発揮する技術が違いますよね。そのエリアに相応しい、また相手の振る舞いに合わせたサッカーをしています。一方で、日本のテクニシャンと呼ばれる選手たちは、『攻撃のビルドアップ』というごくごく限定的なチームタスクに特化して能力を発揮するケースが多いです。それは育成年代において、そこの部分しか求められなかったからかもしれません。サッカーには4つの局面がありますが、「ビルドアップしかできない選手」というのは欧州では評価しづらい選手となってしまいます。その問題を、選手が守備できない、走れない、フィジカルが弱いという言葉で片付けるのはちょっと違うかなと思いますよね」


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内野:「ええ。たとえ話に出した小野選手だってとても身体は強いんですよ。ボールを奪う能力だって高い。海外でもフィジカルは負けていませんでしたよね。だから、選手だけの問題とかそういうことじゃないと思うんです」


白井:「欧州では選手が担うべきタスクをチーム内ではっきりさせることが指導者の責任です。サッカーという競技を客観的に捉え、サッカーの分析に基づいたトレーニングを行います。ドリブルだけ教える、攻撃のビルドアップだけ教えるということはありません。4つの局面において選手がきちんとタスクを実行できるように子どもの頃から指導します。日本人は技術(ボール扱い)と理解力は世界的に見ても非常に高いですから、アプローチ次第でイニエスタのような選手を生み出すことは十分に可能なのではないかと思います」

第2回対談記事へつづく~


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■内野 智章(うちの・ともあき)
興國高等学校(大阪府)のサッカー部監督を務める。ここ3年で4名ものJリーガーを輩出し、毎年3年生のうち20名以上が関東や関西の大学サッカー部へ推薦入学を決めるなど、選手権をゴールとしない育成方法で全国から注目を集める。また、高い技術力をベースとしたポゼッションサッカーは"関西のバルサ"と異名をとり、スペインではビジャレアルユースと互角に戦うなど海外でも評価が高い。

■白井裕之(しらい・ひろゆき)
2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。


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