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ジュニアの指導者必読!5分で分かる「8人制サッカー」のゲーム分析方法【連載】The Soccer Analytics:第9回

4月、オランダのゲーム分析メソッドに基づいた『The Soccer Analytics』をリリースしたアヤックスのアナリスト・白井裕之さんが来日し、各地で指導者講習会を行った。

200名以上の指導者が参加し、93%以上の参加者が使ってみたいと答えた白井さんのゲーム分析メソッドだが、まだ一般的には、「ゲーム分析が必要なのはわかるけど、実際に分析するためにはどうしたらいいのかわからない」「ジュニアは8人制だし、分析方法も違うんじゃないの?」という声も多い。

そこで、昨年の全日本少年サッカー大会にも出場したグランセナ新潟フットボールクラブさんにご協力いただき、「8人制のゲーム分析」を白井さんに実演してもらった。(取材・文/大塚一樹、協力/グランセナ新潟FC)


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まず確認すべき3つのチェックポイント

分析の対象は、ランダムに分けられた2チームによる8人制ルールのトレーニングマッチ。選手として協力してくれたのは、グランセナ新潟フットボールクラブのU13、昨年まで8人制で試合をしていた子どもたちだ。

白井さんが最初に行ったのは、ゲーム分析を行う際の基準となる、チームがとる「戦略」と「目的」「原則」を確認すること。これは、チームが目指すサッカー、いま取り組んでいる課題などによってチームで設定するものだ。

●戦略:ゲームに勝つためのプレースタイル
●目的:ピッチ上の各フィールドにおいてチームが達成したいこと
●原則:目的を達成するためにチームが行う優先プレー

「チーム結成から日が浅く、トレーニングも数回しかしていませんが、できるだけショートパスをつないで、ボールを支配しながら相手ゴールに迫るサッカーを目指しています」

トレーニングマッチのコーチングをしてくれるのは、グランセナ育成強化部長須田敏男コーチ。白井さんは、須田コーチにチームの志向するサッカーを聞き出すことで、目的と原則を確認していく。

「では、分析する方のチームは、ゲームメイク戦略のポジショナルプレーを志向していて、ショートパスを交換しながら前にボールを運ぶプレーモデルでサッカーをするという前提で分析をしますね」

白井さんはそう言うと、須田コーチに分析して欲しいチームを選ぶように促した。

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「両チームに関して全体を分析することもできるのですが、そうなるとゲーム分析というよりは、スカウティングになってしまいます。目的と原則を明確にした上で、一方のチームについて分析した方が、指導者のみなさんが実際に行われていることに近いでしょう」

今回は自チームのゲームを分析する際に役立ててもらいやすいように、仮にAチームを自チーム、Bチームを相手チームに見立てて分析を進めてもらう。

「すべての項目について分析をしても良いのですが、時間も限られているので、もっとも起こりやすいと思われる『攻撃のビルドアップ』について分析をしてみましょう」

ゲーム分析では、チームファンクション、チームタスクで状況を大別するが、白井さんが今回フォーカスしたのは、Aチームの『攻撃』(チームファンクション)の『ビルドアップ』(チームタスク)。チームファンクションとチームタスクについての詳細は、別記事を参照いただきたい。

白井さんが提唱するフィルター分析では、サッカーのフィールドを縦に3等分して認識する。フィールドの認識については、フィルターⅠでは、攻撃と守備の方向という概念だけがあり、フィルターⅡでは自陣と敵陣の二つ、フィルターⅢでフィールドを3等分する考え方が登場するのだが、これは段階を踏んで分析をするための考え方。実際の分析では、フィールドを3等分し、どのフィールドでプレーしているかを常に意識することが重要になる。

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分析のターゲットになるのは、Aチームのフィールド1(自陣ゴール側)での攻撃のビルドアップだ。須田コーチからの聞き取りで白井さんが確認した目的は「ショートパスをつないで、フィールド2に進む」、それを実現するための原則は「相手のビルドアップの妨害の方法を見分ける」ことと、「方法を見分けた上で、フリーマンを探す」そして「フィールドを広く深く使う」の三つだ。

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これでゲーム分析をするための準備が整った。白井さんが提示する分析手法は、経験値や価値観ではなく、客観性と普遍性で成り立つ。それだけに、分析の基準となる状況や目的、原則の設定はとても重要な作業になる。


システムの噛み合わせを確認する

グランセナの選手たちがピッチに散らばると、白井さんは早速ゲーム分析を開始する。白井さんがどこから試合を観るかに興味を持つ指導者の方も多いと思うが、今回はグラウンドに常設されたやぐらの上からピッチを俯瞰して分析を行った。

「試合中はベンチに座っていますから、ピッチレベルで試合を観ています。でもビデオ分析用の映像は、必ず高い位置から撮っています」

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白井さんが試合が始まって始めに取り組むのは、チームオーガニゼーションの確認だ。チームオーガニゼーションとは、日本ではシステムやフォーメーションで表される選手の並びのことだ。チームオーガニゼーションを確認する際のポイントは3つのライン。高い位置から俯瞰するのは、この3つのラインが見やすくなるからでもある。

「3つのラインを見て、選手の位置を確認します。ポジションと選手一人ひとりが担っているタスクからポジションを確定して、オーガニゼーションをかみ合わせます」

ポジションの配置と相手との関係性によって、フリーマンができやすい位置は事前に決まっている。チームオーガニゼーションをかみ合わせてみれば、これから起きそうなプレーが事前に把握できるというわけだ。

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チームオーガニゼーションをメモし終えた白井さんは、ボールの動きに合わせて状況を実況し始めた。こうすることで、ピッチ上で起きていることが客観的に整理できるようになるのだと言う。

「つぶやきながら見ると状況が整理できるんですよね。アヤックスでも、試合中はいつもこんな風に実況しながら試合を観ています。気になることがあれば、つぶやいたことをそのまま横にいるコーチングスタッフに伝えたりできますからね」

気になる白井さんのつぶやきの内容は設定した原則や目的を反映させたものだった。

「1番から3番にパスが出ました。フィールド1でボールを回します。相手のFWがプレッシャーに来ます。逆サイドにフリーマンがいます。ボールホルダーがフリーマンを見つけました。GKを経由してパスを試みますが、ディフェンスもついてきてしまいました」

Aチームのオーガニゼーションは1-2-3-2、対するBチームは1-3-3-1。AチームはGKからのビルドアップで、何度かパス交換を試みるが、なかなかボールを前に進めることができない。

白井さんは、Aチームが抱えるこの問題について、分析を深める。

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「GKからのビルドアップで、CB③にボールが入ります。相手はワントップなので、FWが寄せてきた時点で、もう一人のCB②がフリーマンになります。CB③はこれに気がつきますが、GKを経由してパスを出してしまうために、パスが②に渡る頃には、②にはマークがついてしまいます」

この状況では、フィールド1から2にボールを進めるという攻撃のビルドアップの目的が達成されていない。では何が問題で、どう改善すれば良いのが、目的、原則、そして5W診断に照らし合わせることで分析できる。

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目的と原則の達成度でプレーを評価すると、原則1である「相手のビルドアップの妨害の方法を見分ける」は、Aチームの選手たちが、相手がワントップで単独でボールにアプローチしてくる守り方を認識していたので、ある程度達成できていた。では2番目の原則はどうか?

「フリーマンを探す」という原則も、一人でボールを追いかけるFWに対して、フリーマンになった逆サイドのCBにパスを送ろうという意識は見えている。一方で、三つ目の原則に設定した「フィールドを広く深く使う」は、十分とは言えなかった。

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「CBの二人がボールサイドに寄ってきてしまっていたので、相手のワントップはマークする相手を切り替えてボールを追いかけることができていました」

こうして原則を観ていくと、それぞれの達成度と目的が達成されなかった理由が明らかになってくる。

「ここからさらに問題をはっきりさせるために5Wを明らかにしていきます」

白井さんは、何が、どこで、誰が、いつ、どのように を分析していく。

●What:
CBの二人がドリブルをして進むか、パスを送るかの手段で、フィールド2にボールを進めることができない。
●Where:
フィールド1の中央
●Who:
GK①と、2人のCB②、③と中央のMF⑤
●When:
相手のFWがCB②or③にプレッシャーをかけたとき
●Which:
※今回の分析では省略

ボールホルダーであるCBに相手のFWが身体を寄せていったときに、中盤中央に構えるMF⑤は、どこにポジションをとっているか? キック力やコースの問題で、直接逆サイドのフリーマンにパスができないとしたら、GKを経由する以外の選択肢はなかったのか? また逆サイドのフリーマンのポジショニングは適切か? など細かい問題点が見えてくる。


個人の分析はどのように行うのか?

「さらに個人のサッカーのアクションが適切かどうかも分析対象です」

この場合、CBがパスを受ける際のポジショニングは適切だったか? パスの方向はどうか? タイミングは適切だったか、スピードはどうだったか? これらを分析すると、選手個人のプレーの問題点も見えてくる。

「AチームのCBについて言えば、パスの方向は合っていても、パススピードが遅いために相手のカバーリングが間に合ってしまう。サッカーのアクションを分析した結果はそのまま具体的な改善の指示になります。選手には『タイミングや方向は合っているから、パススピードを上げよう』と伝えればいいわけです」

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限定的な状況でのゲーム分析にはなったが、Aチームの分析をまとめると次のような結果になる。

●目的 「ショートパスをつないで、フィールド2に進む」
→なかなかうまくいかない状況が続いた
●原則1 「相手のビルドアップの妨害の方法を見分ける」
→達成度・高。ワントップがボールホルダーである2人のCBにプレッシャーをかける妨害をしてくると見分けた。
●原則2「方法を見分けた上で、フリーマンを探す」
→達成度・中。フリーマンを探すことはできたが、サッカーのアクションが適切でない場面も多く、結果としてフリーでボールを受ける状況を作れなかった。
●目的3「フィールドを広く深く使う」
→達成度・低。ディフェンスラインと中盤のポジショニングや連携で広さや深さを出せず、フリーマンを作って数的優位になる状況を作り出せなかった。

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チームの問題点を改善するためには、まず問題点を見つけることが重要だ。しかし、問題を見つけるための明確な基準を持ってゲームを観ている指導者は意外に少ない。仮に目的を設定していたとしても、なぜ目的が達成できないのか、その原因を探るための方法がなければ、できなかったことだけを選手に伝えることになる。

今回行ったトレーニングマッチも分析ができなければ、「ショートパスをつないでフィールド2に進む」という目的が達成できなかったという事実だけを伝えて終わりということになりかねない。

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「原則を設定して、その達成度を見ることで、選手たちになにができて、何ができていないのか、どれくらいできているのかが具体的にわかるようになります」

ゲーム分析が正しくできていれば、項目ごとに達成度が測れる。指導者は、選手たちに良かった点と改善すべき点の両方を同時に伝えることができるわけだ。

また、今回行った分析方法はどの年代、レベル、国においても全く同じ方法を用いることができる。8人制、11人制、グラスルーツ、プロであってもサッカーの観方に変わりはない。

白井さんが提唱するゲーム分析に必要なのは、ペンとノートのみ。サッカーの構造や、自チームの戦略、プレーモデルや戦術をしっかりと把握した上で、目的と原則を設定できれば、あとはピッチで起きる事実を客観的に捉えるだけだ。


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白井裕之(しらい・ひろゆき)

1977年愛知県生まれ。18歳から指導者を始める。24歳のときにオランダに渡り複数のアマチュアクラブのU-15、U-17、U-19の監督を経験。2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。オランダサッカー協会指導者ライセンスTrainer/coach 3,2 (UEFA C,B)を取得。

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