01.30.2017
いまやるべきトレーニングを導き出す「公式」とは? / ゲーム分析からトレーニング作成までのプロセス
現在公開中のCOACH UNITED ACADEMYでは、昨年オランダ代表U-13、U-14、U-15の専属アナリストに就任した白井裕之氏が、サッカーの分析とトレーニング、オランダと日本のトレーニングの違いなどについて語っている。コラムの後編は、白井氏独自の理論『The Soccer Analytics』に基づき、ゲーム分析からトレーニングを立案する方法をご紹介しよう。
(取材・文 大塚一樹)
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■The Soccer Analytics methodology(メソドロジー)とは?
「チーム内で統一された基準でゲーム分析をして、そこからサッカーの成長と問題を発見します。これさえできればあれこれ頭を悩ませなくても『いまやるべきトレーニング』が導き出せるんです」
前編でご紹介した『M-"A"-T-M』の概念に基づいて、試合から分析、分析結果をもとにしたトレーニング作成をしていくのが、白井氏の『The Soccer Analytics methodology』の根幹だ。メソドロジーとは、直訳すると「方法論」となり、分析に基づいたトレーニングの方法論と思ってもらうとわかりやすいかもしれない。
「分析結果をクラブ内で共有するというのは何度も伝えてきたことですが、それを日々の練習にダイレクトに生かすためにはどうしたらいいかということをずっと考えていました。オランダでやっていることを自分の中で体系的にまとめたのが『The Soccer Analytics methodology(メソドロジー)』です」
白井氏は、分析とトレーニング、つまりはチームや選手個々の成長と改善の橋渡しをするのが、このメソドロジーだと語る。
「トレーニングの重要性は言うまでもありませんよね。世界のどのクラブでも、どんなチームでもトレーニングは重要視されていますし、ものすごいスピードで進化しています。タイトルを獲るようなクラブ、育成で結果を出しているクラブであればあるほど、『何を根拠に、どんなトレーニングをするのか?』が明確でなければいけないんです」
近年、欧州のビッグクラブがこぞって"メソッド部門"を強化しているが、白井氏は欧州では「トレーニング方法そのものももちろん重要だが、それよりもどんな戦略に基づいてトレーニングをするのか?の方が重要視されてきているのではないか」と分析する。
最新のトレーニング、結果を出したクラブや監督のドリルを取り入れることが"進んだ"トレーニングと誤解しがちだが、トレーニング方法やメニューは「自分の目の前で起きていることから組み立てるしかない」(白井氏)。ゲーム分析の結果をどのようにしてトレーニングに反映させるのか? そのプロセスを見ていこう。
■「公式」を用いた今日やるべきトレーニングの作成
ゲーム分析を行うためには、自チームの戦略とそれに基づいた目的、目的を実行するための原則が設定されていることが重要なことは、これまでも白井氏が繰り返し語ってきたことだ。目的が設定されていれば、ゲーム分析を行うことで「自チームの目的の達成度」がわかる。達成度が低ければそれが現時点で取り組むべき "サッカーの問題"になるし、達成度が高い目的があれば、それは試合の勝敗にかかわらず "成長"として評価されるべき項目になる。目的を達成する手段である原則からは、問題の解決策が導き出せる。達成度が低い目的に対しては、原則の実行度を上げるために設定した原則ができるだけ多く再現されるトレーニングを行えばいいということになる。
「もちろん、指導者が設定した原則が適切ではない場合もありますから、そこは目的本位で考えた方がいいですね」
トレーニング作成のプロセスの次のステップは、どのフィールドのトレーニングを行うか?だ。『The Soccer Analytics』では、フィールドの特徴を踏まえ自陣ゴールからフィールド1、2、3と縦に三分割し分析を行う。トレーニングも漫然と「ビルドアップのトレーニング」ではなく、どのフィールドで行われているのか?を想定する必要がある。
「分析に基づいて目的の達成度、原則、フィールドを設定したらあとはトレーニング形式を選択するだけです。簡単ですよね」
白井氏はこう言って笑うが、たしかに多くのグラスルーツの指導者は「今日のトレーニングで何をしよう?何をしたらいいんだろう?」という問題に直面している。この方法なら、選手経験や指導歴、サッカーに触れたこともあまりない、"引き出しの少ない"指導者でも、スムーズに効果的なトレーニングが立案できる。
「経験や主観ではなく、事実に基づいた客観的な方法でトレーニングをオーガナイズできる方がいいですよね」
白井氏が示すのは、トレーニング作成の公式のようなものだろう。目的と原則、フィールド、トレーニング形式を全部足せば、あなたのチームが今日やるべきトレーニングが導かれる。ドリルのストックをたくさん持つことや、強豪クラブの練習法を取り入れるよりもはるかに「自チーム、選手に合った」トレーニングが行えるようになるわけだ。
■指導者が理解しておくべき5つのトレーニング形式
選択すべきトレーニング形式についても少し紹介しておこう。白井氏によれば、トレーニング形式は大きくわけて2つ、個別に見ても5つに分けられるという。多種多様、複雑にいろいろな要素が入り交じるサッカーのトレーニングは、分類するのが難しいが、白井氏が示した基準は明快だ。
「まず大きく違うのが、アクション形式のトレーニングと、サッカーのアクション形式のトレーニングです。サッカーのアクション形式とは、ボールがあって、二つのゴール、二つのチームがあって、フィールドが制限されていて、攻撃の方向があってルールが適応されている。つまり、サッカーの特徴が反映されたトレーニングのことです。一方でアクション形式のトレーニングは、ドリブルやパス、シュートなど、一部分だけを取り出したトレーニングのことです」
コーンドリブルなどはアクション形式、ゴールや方向が設定されているのがサッカーのアクション形式という分け方になるが、白井氏は「どちらが良くて、どちらが悪いという話ではありません」と説明を続ける。
「コーンドリブルがサッカーの試合で起きるシチュエーションを再現できているかというとそうではありません。アクション形式のトレーニングをやるべきタイミング、必要な状況は限られるかもしれません。しかし、だからサッカーのトレーニングとして不適だと言っているわけではなく、指導者がアクション形式のトレーニングの目的は、何度も繰り返してそのアクションを習得することだと理解していればいいのです」
アクション形式とサッカーのアクション形式のトレーニングについては、トレーニングの特性を知る上で重要なので詳しく紹介したが、その他の3項目について、詳細はCOACH UNITED ACADEMY本編で学んで欲しい。
COACH UNITED ACADEMYではU-13、U-14、U-15オランダ代表アナリストに就任したばかりの白井裕之氏の最新理論を動画で公開中。トレーニングへのアプローチからメニューの立案方法までが体系的に語られている。ヨーロッパ最先端にして、グラスルーツにも通じる普遍性を持つ『The Soccer Analytics』の一端にぜひ触れて欲しい。
白井 裕之/
オランダの名門アヤックスで育成アカデミーのユース年代専属アナリストとしてゲーム分析やスカウティングなどを担当した後、現在はワールドコーチングスタッフとして海外選手のスカウティングを担当。また、昨年9月からは、ナショナルチームU-13、U-14、U-15の専属アナリストも務めている。
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取材・文 大塚一樹