TOP > コラム > 「日本人とドイツ人の身体の使い方の違いとは? 中田英寿選手は日本人が目指す理想の形」山下喬(FC BASARA MAINZ代表)×里大輔(常葉大学陸上部監督)特別対談(前編)

「日本人とドイツ人の身体の使い方の違いとは? 中田英寿選手は日本人が目指す理想の形」山下喬(FC BASARA MAINZ代表)×里大輔(常葉大学陸上部監督)特別対談(前編)

ドイツのマインツを拠点に日本人留学生を受け入れ、プロチームとの契約をサポートする山下喬氏。岡崎慎司選手がアドバイザーを務める、FC BASARA MAINZの代表でもある。里大輔氏は、中学時代に100mで日本一に輝いたスプリンター。現在は常葉大学陸上部監督として、未来のオリンピック選手の指導にあたっている。また陸上だけでなく、サッカーやラグビーなど球技のフィジカルコーチとしても活躍し、選手の動きづくりをサポートしてきた。「世界で通用する選手になるために必要なこと」をテーマに、日々、グラウンドに立ち続ける両氏。旧知の中である二人が、コーチユナイテッドのために語ってくれた。

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取材・文/鈴木智之

■体重を「骨で支える」ドイツ人

山下 (里)大輔がドイツに来て、僕がサポートをしている日本人留学生のトレーニングを見てもらったよね。そこでは主にスピードアップや身体の動きづくりのトレーニングをしてもらったんだけど、3週間のトレーニング中で「動きが変わった」と言ってくれる選手もいて、すごく良かったと思っています。

 ありがとうございます。いまでも継続してトレーニングしてくれているみたいですね。

山下 ドイツでは選手のトレーニング以外に、育成年代のチームを見て回ったそうだけど、何か発見はあった?

 ドイツと日本の子どもたちが、どのタイミングで、なにがきっかけで、身体の動かし方について違いが出るのかを探しに行ったのですが、いくつか発見はありましたね。

山下 具体的には、ドイツ人と日本人のどこが違っていた?

 大きな違いとして、ドイツを始めとするヨーロッパの選手たちは、圧倒的に姿勢が良いです。そのため、自分の体重を支える際に、筋肉だけに頼らず『骨の角度』で支えています。骨の角度というのは少し大げさな表現ですが、地面や力に対して足をつっかえ棒のように使って軸を作り、身体を支えています。そうすることで、筋肉に過度な負担がかからずにスムーズに止まることができますし、素早く動くこともできるようになります。日本人は足首や膝を使い、力んで体重を支えているケースが多いのですが、ドイツを始めとするヨーロッパの人たちは、頭から足先までをバランスよく使い、全身で軸を作って身体を支えています。

■中田英寿が日本人の理想形!?

山下 なるほどね。なぜ、日本人とドイツ人で身体の使い方に差が出るんだろう?

 ドイツの子どもたちが、幼い時から芝のグラウンドでプレーをしていることは、少なからず影響しているのではないかと思います。日本の場合、多くの子どもたちが土の固いグラウンドでプレーをしています。その状況で、ドイツ人のように足をつっかえ棒のように、体重を骨で支えて急に止まろうとすると、スリップしてしまいますよね。

山下 学校の校庭とか、地面は固いもんね。

 そうなんです。ただ、ジュニア年代から身体の使い方をトレーニングすれば、軸をとって骨で体重を支えることができるようになると思います。そうすれば、グラウンドが固い土であろうと濡れた芝であろうと、スリップすることなく止まることができるようになります。

山下 それで思い出したのが、中田英寿選手のプレー。彼はセリエAの屈強な相手にぶつかられても、倒れることなく抜きにかかり、相手はファウルでしか止められないといった感じだったよね。僕はドイツでたくさんの日本人選手のサポートをしているけど、ドイツ人の監督は「プレーを貫き通す力」を重要視している。相手に当たられても、持ちこたえて進んでいくとか。日本人のプレースタイル的にはあまりないので、留学生が苦労している部分でもある。

 中田選手の動きは、日本人が目指すべき身体の使い方だと思います。彼の動きはヨーロッパの人とも違っていて、現段階での日本人プレーヤーの究極の形だと思います。

山下 中田選手の特徴は、どういうところにあると思う?

 まず、身体を支える力がとにかく高い。常に上半身が起きていて、下半身を上半身より前で動かしています。つまり、脚が後方に流れないんです。そして、脚が地面に着くと同時に、上半身も必ずついてきています。重心を確実に移動させているので、相手と接触してもスピードが落ちにくいんです。陸上のハードルを例に挙げると、上半身が安定していれば、ハードルに引っかかり続けてもタイムは落ちないんですね。その理屈と同じで、サッカー選手も上半身の安定がものすごく大切です。上半身が安定すると骨盤が立つので、脚が身体の軸より前で動きやすくなります。

山下 たしかに、ハードルの一流選手は上半身がほとんどブレていない。中田選手も上半身の安定性というか、体軸の安定はすごいよね。

 多くのヨーロッパの選手は、中田選手のように身体を支える能力はあるので、それを崩す、つまり身体を前に倒すだけで脚が出るんですね。でも、多くの日本人選手は身体を支える能力が低いので、そもそも行きたい方向に重心を崩しにくいんです。中田選手は身体を支える能力が飛び抜けて高いので、自分が進みたい方向に、イメージ通りに動くことができるんだと思います。

山下 プレーの映像を見ていると、相手と競り合って、腕でブロックしながら進んでいく印象がある。

 中田選手のようなプレーをするためにはどうすればいいかというと、まずは体幹部を鍛えること。そして『重心を拾って軸を作る』動きを身につけることです。相撲の動きをイメージするといいかもしれません。相撲で相手とぶつかる時、相手に体重をかけながら、ひざを伸ばして身体を支えますよね。その態勢で自分の身体を支えられないと、崩れて負けてしまいます。自分の身体をうまく支えるためには、身体の軸が一直線になっている必要があります。足先から頭まで、一本のラインが通っているイメージです。身体を貫く直線がなくなった瞬間、スリップするか失速してしまいます。スリップすると、それをカバーするために筋力を使って回復しようとするので、疲労が起きます。日本のサッカー選手のプレーを見ていると、骨や身体の安定した軸で止まるのではなく、筋力で止まろうとしているので、試合が進むにつれて疲労が溜まっていくのではないかと推測しています。

後編>>


山下喬(やました・たかし)
ユーロプラス・インターナショナル所属。滝川第二高校を卒業後、プロ選手を目指してドイツへ渡る。マインツ等でプレーした後、現役を引退。引退後はドイツでの会社員生活を経て、留学事業会社のドイツ担当コーディネーターを務めるかたわら、マインツU12のコーチを担当している。FC BASARA MAINZ代表

里大輔(さと・だいすけ)
常葉大学陸上競技部監督/浜松開誠館中・高等学校 サッカー部フィジカルコーチ/静岡聖光学院中・高等学校 ラグビー部 ランニングコーチ。現役時代は陸上競技(100メートル)の選手として、ジュニアオリンピック優勝、全日本中学生大会優勝など、輝かしい成績を残す。独自のトレーニング理論に定評があり、ジュニアからプロまで、競技を問わず様々な選手を指導している。