10.15.2014
AFC U-19選手権・ポイント分析 「プッシュアップ」(韓国戦)
勝たなければ決勝トーナメントへの道が途絶えてしまう韓国戦。U-19日本代表は、積極的な"守り"で勝利をものにした。(取材・文・写真/安藤隆人)
この試合のポイントは2つあった。ともにベトナム戦で浮き彫りとなった課題で、1つ目は全体をコンパクトにすることができるか、否か。韓国相手に最終ラインを下げてしまうと、確実に押し込まれてしまう。攻撃でも後方からの押し上げがなければ厚みが生れず、パスをつなぎ崩していく日本のスタイルを出せない。
2つ目は、局面でのマッチアップに勝てるかどうか。初戦中国戦、第2戦ベトナム戦でも見られたように、これまでの日本は相手のドリブル突破を容易に許してしまい、そこから得点につなげられる場面が多々あった。過去の韓国戦においてもマッチアップで競り負け、後手に回る傾向が強かった。
結論から言うと未だ修正点はあるものの、課題を大きく是正することができたと言えるだろう。1つ目のポイントだが、ベトナム戦後にCB中谷進之介が「ラインの上げ下げは、みんなのタイミングが合っていないとリスクをともない、怖い部分がある」と語ったように、最終ライン全体の連係がとれていない状況でのラインのアップダウンは危険であり、選手たちの不安材料となる。それに加え失点へのプレッシャーも足かせとなり、韓国戦序盤は思い切ったラインコントロールができなかった。ただ、決勝トーナメント進出には絶対に勝ち点3が必要な状況。勝利への思いが選手たちの背中を後押ししたのか、時間とともに勇気あるラインコントロールを見せ始めた。
ボランチと最終ラインとがうまく連係。最終ラインもCBと両サイドバックが連動し、高い質の守備を見せた。なかでもCB中谷進之介と左サイドバック宮原和也の両選手は、対人プレーで抜群の強さを発揮するとともに、互いのケア、他選手のカバーにも尽力。彼らのプレーが秀逸だったことも勝因の一つだろう。
中谷と宮原は所属チームこそ違うが、年代別代表で何度も一緒にプレーをしてきた。2012年のAFCU-16選手権でもチームメイトとして最終ラインを守り、プライベートでも親友だ。コミュニケーションも問題なく、この2人がいる左サイドは安定した守りを披露。中谷がディフェンスリーダーとして守備陣を統率し、センターの位置で堅守を見せれば、ボランチやCBもこなし守備力に長けた宮原が、同サイドのマッチアップを制するとともにCBの後方もカバー。穴のないディフェンスを見せた。
「ボランチとの距離感は最終ラインを押し上げることで良くなるので、ラインの押し上げを徹底しました」(中谷)。
「マッチアップで負けないことが大事。ラインコントロールに関しては、中谷が中心となってラインを整えた」(宮原)。
日本は29分に失点を喫するものの、その後は相手の攻撃をしっかりと封じ、守備陣はラインを押し上げることで攻撃を後方支援。守りの安定化は最終ラインの思い切ったプッシュアップにつながり、ラインはこれまでの2戦と比べても格段に高くなった。中谷の言葉どおり、最終ラインが押し上げられると必然的にボランチとの距離も縮まり、攻撃に厚みが増したことでボランチ井手口陽介は、より多くバイタルエリアまで顔を出せるようになった。この変化で攻勢に出た日本は、65分に得点のときを迎えた。
中谷が相手FWに競り勝ってボールをはね返すと、カバーに入っていた宮原が素早く拾って、縦に走り出した井手口へパス。井手口は左サイドの金子翔太に一度預けてから、そのままバイタルエリアのスペースに走り込み、金子からのリターンパスを受ける。そしてペナルティーエリア手前でクロスオーバーの動きを見せたFW北川航也と南野拓実の動きを見逃さずに、前方の南野へくさびのパスを送る。同選手は一度スルーをし、北川がダイレクトヒールで落としたボールを受けて豪快にゴール左隅に突き刺した。このときエリア付近には5人の日本選手。最終ラインの積極的なプッシュアップが攻撃の人数を増やし、多彩なパスワークを生んだ。この得点はプッシュアップの賜物と言えるゴールだった。
課題を是正して導き出した韓国戦の勝利。大きな収穫は、最終ラインの思い切った押し上げが得点につながることを、選手たちが身をもって知ったことだろう。
取材・文 安藤隆人 写真 安藤隆人