09.02.2016
サッカーのアクションに必要なストレングス(筋力)トレーニングとは?/WFAセミナーレポート【前編】
指導者の大きな役割が「選手のプレーを向上させること」であることに、異論を持つ人はいないだろう。では、「なぜあの選手はうまくプレーができないのか?」と聞かれたときに、「サッカーに必要なアクション」「身体の使い方」の観点から説明できる人は、どれだけいるだろうか。
今夏、サッカーの指導者養成を目的に世界最先端の指導理論を提供する『World Football Academy(WFA)』が「サッカーのストレングス(筋力)トレーニング」をテーマに講習会を行った。(取材・文/鈴木智之、協力/World Football Academy)
■サッカーの視点でトレーニングを捉える
ストレングスとは筋力のことを言い、サッカーのプレー、アクション、動作を行うためには、ある程度の筋力が不可欠だ。
相手との接触、シュート時の踏ん張り、ヘディングで競り合う時の跳躍――。プレーするレベルが上がれば上がるほど、比例するように高い筋力レベルが求められる。
プレミアリーグのマンチェスター・シティを始め、アメリカMLSのニューヨーク・シティ、NBAのニューヨーク・ニックスなど、様々なジャンルのクラブで指導をし、パフォーマンスアップと傷害予防のスペシャリストである、WFAのアンディ・バルは「サッカーのストレングストレーニング」について、次のように持論を展開する。
「ストレングストレーニングというと、いわゆる筋力トレーニングをイメージされる方が多いと思います。WFAでは、従来からある筋力トレーニングをサッカー選手用に置き換えるのではなく、サッカーに必要なアクション(Football Action)をする上で必要な動き(Movement)を改善し、向上させるトレーニングを提唱しています」
WFAの特徴のひとつが「サッカーの視点でサッカーを捉える」ことにある。フィジカルもメンタルも、そしてテクニックも、まずは「サッカーの試合で何が必要か」を分析し、それを向上させるためのアプローチをする。フィジカルフィットネスの理論をサッカーに持ち込むのではなく、サッカーの視点でサッカーの理論の元にトレーニングを組み立て、選手を向上させていくのだ。
アンディはサッカーのプレーを「サッカーアクション」と定義し、次のように説明する。
「サッカーアクションのひとつに、ボールを持った選手に対して寄せるプレーがあります。ある選手が、相手に対して素早く寄せることができないとしましょう。ここで指導者は、2つの観点からその選手をチェックします。
1つ目は『この選手はいつ寄せればいいのかがわからないから、素早く寄せることができないのではないか』というもの。つまり状況判断の部分に問題を抱えているケースです。
そしてもう1つは、今回のテーマである『サッカーアクションを実行する上で、必要な動き(Movement)ができるフィジカルが備わっていないのではないか』という視点です」
さらにアンディはこう続ける。
■アクションのベースになるのは「姿勢」と「身体の使い方」
「サッカーアクションの実行は、4つの部分から成り立っています。それが、ポジション、タイミング、方向、スピードです。相手にプレスをかけるというプレーを細分化すると『スプリントをして止まる』という動きです。このように、すべてのプレーのベーシックなアクションは何かを考え、そのために必要な筋力、身体の動かし方に目を向けます」
サッカーアクション(例:プレス、ヘディング、攻守の切り替え、セカンドボールの攻防など)は、基となる身体の動き(ベーシックアクション)に細分化することができる。プレスのベーシックアクションはスプリント&ストップであり、ヘディングはジャンプ&着地。攻守の切り替えはスプリント&ストップの連続といった具合に――。アンディは言う。
「サッカーアクションを実行するためのベースになるもの。それが姿勢です。私は姿勢のことを(身体の)スターティングポジションと呼んでいます。選手を見るときに、サッカーアクションを実行するための、最適な姿勢を作ることができているかをチェックします。トレーニングや日常生活の多くのことが、姿勢に影響を与えています。普段、どのような姿勢でいることが多いか。ジムでどのようなトレーニングをしているか。移動時の姿勢、日々の習慣などが姿勢に関わってきます」
アンディは姿勢を良くするためのトレーニングとして、ヨガやピラティスなどを取り入れている。もし選手が関節の可動域等に問題を抱えているのであれば、PNFやストレッチ、トリガーポイント、筋膜リリースなどをして柔軟性を高め、サッカーアクションの向上につなげていく。
「ある選手がプレスに行ききれないとして、原因が姿勢(スターティングポジション)にあることが判明したのであれば、良い姿勢を保ち続けるためのトレーニングプログラムを作成します。たとえば、お尻の筋力が弱く、左右のバランスが悪いのであれば、そこを向上させるメニューを作ります。そのようにしてトレーニングをすることで、プレスというサッカーアクションの強化になるのです」
なぜプレスがうまくできないのか。その原因を身体の動かし方の観点から分析し、筋力トレーニングで向上させるのは、理にかなったアプローチだ。
ただ漠然と、あの選手は「フィジカルが足りない」「スピードがない」「足が遅い」といった観点で評価をくだすだけでなく、プレーを向上させるためにはどのような身体の使い方が必要で、どの程度の柔軟性、筋力が不可欠なのかをひも解き、その視点から個別にトレーニングをしていくことで向上させる。
これは、指導者であれば知っておきたい方法論と言えるだろう。次回の記事ではさらに具体的な方法を紹介したい。
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取材・文 鈴木智之 写真 World Football Academy