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陸上競技のトレーニングがサッカーのプレー向上に直結するとは限らない/WFAセミナーレポート【後編】

今年の夏、サッカーの指導者養成を目的に世界最先端の指導理論を提供する『World Football Academy(WFA)』が「サッカーのストレングス(筋力)トレーニング」をテーマに講習会を行った。

前回に続き、選手を向上させるためのストレングストレーニングについて、マンチェスター・シティやアメリカMLSのニューヨーク・シティ、NBAのニューヨーク・ニックスなどでフィジオセラピストを務めたアンディ・バル氏の考えを紹介したい。(取材・文/鈴木智之、協力/World Football Academy)

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■重要なのはスポーツの特性にあったトレーニング

前編では、サッカーのプレーで必要な「サッカーアクション」の観点から「プレス」を向上させるためのポイントを紹介した。サッカーアクションを構成するのが「ベーシックアクション」であり、プレスというプレーはスプリント&ストップがそれにあたる。

アンディは言う。

「ボール保持者にプレスをかける際に、方向を変えることが苦手な選手がいたとします。本人やコーチと話すと、プレーの判断・決断については問題がないことがわかりました。そこで、プレーの実行を行うためのストレングストレーニングの出番です。サッカーは試合中、あらゆる方向に動かなくてはいけません。その動きを安定的にできる身体が必要で、爆発的なプレーをするためにも筋力は不可欠です。そこでまず足首やひざを見て、プレーに耐えうる状態であるかを確認し、問題がなければ内腹斜筋、大殿筋など、方向転換に必要な筋肉のトレーニングをしていきます。たとえば、コーンを並べて、その間をジャンプするといったメニューなど、動きづくりのベースとなる部分に働きかけていきます」

ここで重要なのが、サッカーというスポーツの特性にあったトレーニングをすること。陸上のトレーニングを持ち込んだからといって、それがサッカーのプレー向上に直結するとは限らない。

WFAは「サッカーの視点でトレーニングを捉える」ことをモットーとしているが、まずはサッカーのプレーに必要な身体的要素は何か? を考え、そこからトレーニングを組み立てていく必要がある。アンディは興味深い事例を挙げる。

「以前、C・ロナウドの動きを分析するドキュメンタリー番組を見ました。それはスポーツ科学の観点から、C・ロナウドと陸上のスプリンターのどちらが速いかを調べたものです。一直線の動きの場合、C・ロナウドはスプリンターに勝つことはできませんでした。しかし、コーンを置いた状態でスラロームしていく動きでは、C・ロナウドの方向転換の方が速かったのです。C・ロナウドは体の軸を保ちつつ、方向転換を効率的に行うことができていたので、速く進むことができていました」

言うまでもなく、C・ロナウドはサッカー選手であり、サッカーに方向転換はつきもの。そのトレーニングをしてきたからこそ、スプリンターよりも速くスラロームの動きをすることができたのだ。アンディは言う。

「我々の目的は、選手がすばらしいフットボーラーになるための手助けをすること。選手に足りない部分を補うために、サッカーのプレーの観点から何が必要かを考え、向上させるためのトレーニングプログラムを作り出します」

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■良い指導者になるために重要なのは「コミュニケーション」

日本人指導者が参加した講習会では、プレスの動きを向上させるために、どのように身体をチェックし、どのようなストレングストレーニングをすればいいかというワークショップが行われた。

そこでは、サッカーアクションを評価する際に基準となる、ポジション(姿勢)、タイミング、方向、スピードの観点から鍛えるべきポイントを見出し、なかでもポジション(姿勢)を作る上で重要な、股関節周りの動きを重点的に確認。片足立ちをし、膝を曲げる動きを通じて、股関節の動きや安定性を見るとともに、股関節の内旋、前傾、後傾、左右の動きを確認していった。

参加者からは「屈伸時にひざが内側に入る」「前後に上体が揺れる」などの意見が出たため、「股関節を固定しながら、他の動きができるか」という視点から、サッカーのプレーで求められる動きができるかをチェック。

そこでアンディが繰り返し説いていたのが「練習や試合の中で選手を見て、どの動きに問題があるかを特定すること」の重要性だ。

アンディは選手をチェックする際に、ひとりよがりになるのではなく、周囲の意見を聞き、客観的なデータをもとに最終的な決断をくだすという。

マンチェスター・シティを始め、多くのクラブを渡り歩いてきた彼は、より良い指導者になるために重要なのは「コミュニケーション」だと語る。

「より良い指導者になるために必要なのは、素晴らしいコミュニケーションです。良いコミュニケーションがなければ、伝えたいことを伝えられないし、関係性を築くこともできません。どれだけスキルがあっても、コミュニケーションが取れないと、力を発揮するのはむずかしいでしょう。チームを強化するためには、すべてのスタッフをひとつの方向にもっていくこと。そのために必要なのは質の高いコミュニケーションです」

サッカーはチームプレーであり、トレーニングも同じだ。監督、コーチ、トレーナー、メディカルスタッフなど多くの人が関わり、選手のレベルアップ、チーム力の向上へとつなげていく。

いくら良い腕を持ったコーチ、トレーナーであっても、コミュニケーションのスキルが乏しいと、せっかくの手腕を最大限発揮することができなくなってしまう。

トレーナー、コーチとしてのスキルに加えて、コミュニケーションの重要性に目を向けるあたり、複数のトップレベルのクラブで活躍してきたアンディらしい視点と言えるだろう。

このセミナーに参加した参加者は、テクニックやスキルの情報に加えて、心構えの面でも重要な教えを受けることができたようだった。

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