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Jクラブのアカデミーを世界基準で査定すると? 育成評価システム「フットパス」が指摘した"日本的"組織の問題

2015年からスタートした日本サッカーの育成面についての改善を進めるためにJFA/Jリーグ協働プログラム(JJP)が開始された。その一環として設けられたのが、『フットパス』だ。「格付け機関がJリーグの育成を査定」といった文言で何度かニュースになっているので言葉だけでも聞いたことがある方は多いかもしれない。

1つのクラブの「育成」を多角的に評価、数値化していく仕組みで、ドイツ・ブンデスリーガにて広く採用されたことから有名になった育成評価システムである。

今シーズンにおけるJリーグの育成の主要事業の1つとされており、今月10日、Jリーグはメディア向けに説明会を開き、40のJクラブで実施した進捗の報告を行った。まずこの記事の前編では、そもそもフットパスとは何か?について詳しく解説したい。(文・川端 暁彦)

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■Jリーグではなく第3者機関が評価する意味

フットパスの評価の流れは、まず300以上の項目にも及ぶという資料の提出から始まる。各クラブのアカデミーダイレクターの中から「泣きそうになった」という声も聞かれるほどに膨大なデータをまずは集める。

この中には人事面などのデリケートな資料もあり、Jリーグ関係者ですらアクセスできない。ここがJリーグ本体が評価を行うのではなく、ベルギー・ダブルパス社という第3者機関に委ねる意味にもなってくる。

その上で実際にダブルパス社のスタッフが各クラブを視察して現場でのヒアリングも行い、評価をしていく。現場の指導者はもちろん、選手やフロント(GMや社長)にも話を聞いていく。内容はまさに"根掘り葉掘り"だそうで、クラブの社長などはそんなことを聞かれるのかと驚く方も多かったようだ。

この過程を総称して「オーディット」と言う。日本語に訳せば「監査」なのだが、ニュアンスが強すぎるのでカタカナ語にしたようであるが、これは正解だったかもしれない。その上でオーディットの結果を各クラブにフィードバック(ポストオーディットトーク)していく。

■クラブの格付けが目的ではない

点数が付くオーディット項目は「戦略」「構造」「HRM(人事管理)」「運営管理」「チーム強化」「個の育成」「タレント発掘(リクルート)」「スタッフ」「施設」「生産性」などがあり、トータル5000点満点となる。配点は各項目で均分ではなく、たとえば「チーム強化」の項目は最も配点が大きくなっている。

ただ、このオーディットの主目的は各クラブを格付けするということではなく、課題・問題点を抽出・共有して、それを改善していくことにある。アカデミーダイレクターの中にはデータを入力しながら、「そういえばこういう資料が作られていないのは問題だな」という気付きを得て早々に改善を図った人もいたそうなので、"外からの視線"にさらされることそのものによる効果もあったようだ。

もちろん、これで話は終わりではないというか、ここからがむしろ本番だ。Jクラブは突き付けられた課題に対する解決策を探るのだが、ここからはJリーグも積極的に関与、サジェッションを行っていく。たとえば、「施設」に課題があるとすれば、どうやって施設を更新したり新設したり、あるいは新たに借り受けるのか。そのための作戦を一緒に練っていくわけだ。

実際、Jクラブといえども、各カテゴリーすべてが常にフルコートで練習可能というクラブは限られるのが現状でもある。長期的な経営計画とワンセットにしながら、術策を練っていく必要がある。

■指摘された"日本的"組織の問題

もう一つ、フットパスを通じてしばしば指摘を受けたのは「Jクラブのアカデミーは属人的である」という部分である。そもそも指導者の採用やどの選手を上のカテゴリーに昇格させるのかといった点からして、明確なルールや方針がなかったり、しばしば「誰」(あるいはどういった会議)が最終的な権限を持つのか曖昧だったりする点に、フットパスを通じて疑問視されることになっていった。

非常に"日本的"な組織の問題とも言える。

後編では、この属人的とされる部分と「指導者はどうあるべきか」。Jクラブの指導者や現場での指導が欧州的な視点にさらされたときにどう見えたのかを掘り下げてみたい。


Jクラブの課題は「個の育成」だけにあらず。フットパスが問題視した「属人的な指導」と「指導者の育成計画」とは?>>