08.21.2017
正確なファーストタッチと判断を磨くドリブルトレーニング / 状況によって使い分けるドリブルと瞬時の判断力
海外で指導の勉強をしていたり、実際に育成年代の指導をしたりしている方の話を聞いた際、良く耳にするのが「日本人の技術は高い」ということだ。パスやシュートの精度などは欧州の選手と比べても引けをとらないという。
では、なぜ世界の舞台(例えばW杯の結果1つとってもそうだろう)で目に見える大きな結果がでないのか。その理由の1つに1人1人の選手の戦術面の知識や状況に応じた判断力、相手の戦術に対する応対力などの"個人戦術"が挙げられるだろう。
今回、COACH UNITED ACADEMYではケルン体育大学で教鞭をとり、ケルンのユースサッカースクールのオーナーを務めるクラウス・パブスト氏のトレーニングを紹介している。同大学は湘南ベルマーレの曺貴裁監督や、浦和レッズのペトロヴィッチ監督の通訳である杉浦大輔氏も通っていた、ドイツにおける指導者育成の名門校である。(取材・文 竹中玲央奈)
■「少ないタッチ」で正確なボールコントロールを促す
日本人の可能性を感じているクラウス氏だが、今回の映像の前編ではコーンを使ったドリブルとシュートの練習を実施した。ドリブルで前進し、設置されたコーンをターンして戻ってきたり、スラロームドリブルをしたり...と、この年代ではよく取り組まれている練習なのだが、その中でクラウス氏が頻繁に言っていたことが印象的だ。
それは、「少ないタッチで進める」ということ。その中で5mほど前方のコーンをターンして戻ってくるまでに「3タッチ」という制限をつけていたのだが、「タッチ数に制限を付けることで正確なファーストタッチが選手には求められる」というのが狙いだと言う。最初のタッチでコーンまで到達し、2タッチ目でターン。そして3つ目のタッチで戻ってくるという流れの中、スピードも加えてプレーするためにはタッチの正確さが必要だ。その細かい技術をタッチ数の制限で突き詰めていた。
そして、クラウス氏はさらにトレーニングの難易度を上げていく。
画像のように選手同士がクロスする状況を作りだすことで、選手たちは、少ないタッチで正確にボールコントロールしながら、状況を判断して空いたスペースを見つけながらドリブルしなければならない。さらにターンの方向など条件の設定を複雑化していくことで選手に正確で素早い判断を求めていく。
■「考えさせる」ためには、混乱する状況を作り出す
続いて、ドリブル練習の後には2種類のコーンを使用したドリブルからシュートの練習をおこなったのだが、ここでは「体は疲れなかったけど頭はたくさん疲れたと思います」とクラウス氏が最後に語ったように、"判断"の部分で頭をフルに使うメニューを中心に展開された。最初におこなったのは目の前に赤と黄色のコーンを2つ並べ、クラウス氏が口にした色のコーンを交わして、正面のゴールにシュートを入れるというもの。これは簡単だが、次から徐々に難易度が上がっていく。次はクラウス氏が口にした色とは逆のコーンを交わしてシュート。そして次は黄色と赤、それぞれのコーンの呼称を"青"と"緑"として実施をする。クラウス氏が「青」といったら黄色のコーンを交わす、という形だ。
映像を見ていると、メニューが進む度に選手たちはプレーに移るスピード感が遅くなっていくのがわかる。しかし、逆に言うとこういった混乱する中で正確に判断を下すトレーニングを重ねることで、実践にも役立っていくのだろう。また、このトレーニングではシュートという要素が加わることで、正確な判断とボールの置き所が要求される。そこで冒頭で行ったファーストタッチやドリブルのトレーニングが生きてくることになる。
COACH UNITED ACADEMYの映像では、さらに複雑な判断を選手に要求するドリブル練習やシュート練習が解説されている。ぜひ、映像を見てチームで実施するメニューに取り入れて欲しい。
そんなクラウス氏は「今回来日してユース年代の試合を見る機会があり、その際にピッチコンディションが悪い中でも高い技術、テクニックを発揮し常に100%でプレーしていた選手たちにすごく好感を持ちましたし、技術、テクニック、コーディネーションなどサッカー選手の土台となる要素のレベルがすごく高いと感じました。しかし物足りなく感じた部分としてはピッチ上での戦術的要素です」
と、日本人の若年層における課題を語る。しかし、こうも続けて言う。「改善できる点は多くあると思います。総合的には素晴らしいユース年代の試合をいくつか見ることができて非常に満足しています」
【講師】クラウス・パブスト/
かつてブンデスリーガの名門1.FCケルンで育成部長を務め、ケルン体育大学で指導者養成、ドイツサッカー協会のU9、U10、U11、U15の育成プログラムを作成。ポドルスキなど、多数のブンデスリーガを輩出。親日家としても知られており、毎年日本でトレーニングキャンプ等を実施している。
取材・文 竹中玲央奈