10.10.2017
高いインテンシティと正しい判断でボールを奪う/ACミランの哲学に基づく守備の改善トレーニング
イタリアの名門と言えば本田圭佑選手も所属したACミラン。ミランの育成には定評があり、2016年度の下部組織(U-15~U-18)までに所属する選手から合計38名がイタリアの年代別代表に選ばれている。
そして今回、COACH UNITED ACADEMYに登場いただくのは、千葉県で活動する「ACミランアカデミー佐倉」でテクニカルディレクターを務める、ルカ・モネーゼ氏だ。
ACミランアカデミー佐倉では、現地のACミラン下部組織と同じトレーニングメソッドに基づき日々トレーニングを行っている。そこでイタリアと言えば固い守備の「カテナチオ」を想像するが、今回はジュニア年代においてはどのように守備の改善を行っているのか紹介してもらった。(文 鈴木智之)
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■攻撃側優位の状況でDFに高いインテンシティを求める
テーマは「ACミランの哲学に基づく守備の改善トレーニング」。最初は「4対4+2フリーマン(4ゴールゲーム)」から。ルカコーチが狙いを説明する。「ボールポゼッションしているチームは常に2人のフリーマンが味方となります。つまり、数的優位でプレーすることになります。このトレーニングの目的は、2つの内どちらかのゴールを決めること。そのため、選手たちは常に守備のスペースを管理することや、ボールを失った際に、素早くスペースを閉じることが求められます」
やり方は次のとおり。長方形のグリッドの四隅にコーンで作ったゴールを置き、4対4+2フリーマンでプレーする。2人のフリーマンはボールを保持しているチームの味方になるため、攻撃の局面では6対4となり、攻撃側が数的優位となる。
四隅にあるゴールへはシュートを決めるのではなく、ドリブルで通過すると1点となる。そのため選手はボールを失った瞬間に、素早く相手にアプローチし、パスコースを閉じるとともに、ゴールまでの危険なスペースを閉じることが求められる。
また、エンドラインを越えるとコート中央からボールが配球されリスタートとなるため、選手は常に集中し相手選手に対して素早くアプローチをかけ続けなければならない。
■考える力のある選手を育てるミラン・フィロソフィー
そして、面白いのがこのトレーニングでは、サイドラインを越えてもキックインやスローインにはならず、コーチがストップと言うまでプレーは続行する。ACミランが考える「ミラン・フィロソフィー」では、いかにインテンシティと質の高いトレーニングを行うかに重点を置いている。そのため、インテンシティやリズムが下がらないよう基本的にトレーニング中にはフリーズを行わないのだそうだ。
また、フィロソフィーの中で一番大切なことは、選手個人が「自ら考え判断する」ということであり、「考える力のある選手の育成」でもある。
したがって、トレーニング中にルカコーチからの具体的な指示やコーチングはほとんど行われない。提供したトレーニングに対して、選手たちがどのように応えるかを見て、コーチはルールを変更・追加し目的への道のりをサポートする。
詳細はCOACH UNITED ACADEMYの動画でご確認いただければと思うが、このトレーニングも途中に2回のルール変更が行われた。そして、その変更により選手のコンセプトの理解や実行の頻度が高まっていく様子を見て取ることができるだろう。
ルカコーチの通訳を務める長内コーチは指導のポイントとしてはこのように話してくれた。
「選手に考えることを求めるのと同様に、コーチ自身も考える力がなければなりません。提供したトレーニングに対して、選手たちがどのように応えるかを見て、求めるもの(トレーニングの目的)から遠い場合でも、コーチが直接説明したり、手本を見せるのではなく、今回のようにルールを変更したり、質問をしたりすることで、選手が答えにたどり着けるよう背中を押すことに注力します」
■ボールを相手が受ける瞬間に素早くアプローチ
続いては「2対2+GK」。ゴール前という設定で、ゴール側の選手(守備役)が、前方にいる攻撃側の選手に、浮き玉のロングボールを蹴ってプレーがスタート。攻撃側はGKが守るゴールへシュートを打ち、点をとることが目的。守備側はボールを奪ったら、反対側の2つのゴールをドリブルで通過すれば勝ち。シュートが外れた場合は、GKのスローインから始める。浮き球でスタートすることから、ボールの移動時間と相手がコントロールする時間がうまれる。このトレーニングのコンセプトでもある「ボールを相手が受ける瞬間に素早くアプローチしボールを奪う」を選手たちが実行できるよう、ルカコーチはコーチングを行う。
「守備側は常に足を動かし続ける」「素早くプレスとカバーリングに行く」ことを徹底。攻撃側には「ボールを受けられなければ、素早くポジションをとり直すこと」に加えて、「色々なアイデアを出そう。いままでになかった解決策を考えよう」と多彩なアイデアを出してプレーすることを奨励した。
COACH UNITED ACADEMYの動画前編で紹介する内容は、ここまでとなる。シンプルだがインテンシティが高く、攻守ともに選手が頭を使いながらトレーニングできる練習の様子を、ぜひ動画でご覧頂ければと思う。
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【講師】ルカ・モネーゼ/
1981年、イタリア出身。ヴェローナ大学スポーツ運動科学部卒業。ACキエーヴォ・ヴェローナで9年間、エラス・ヴェローナFC(基礎部門責任者)での指導を経て、2012年よりACミランアカデミーで指導を始める。欧州サッカー連盟(UEFA)公認B級ライセンス保持。
取材・文 鈴木智之