12.11.2017
ドリブルで重要なのは、いつ、どのように使うかの判断/アーセナルSS市川の戦術的意図を持ったドリブルトレーニング
今回のCOACH UNITED ACADEMYで紹介するのは、アーセナルSS市川のトレーニング。講師は現役時代、アトレティコ・マドリードやマンチェスター・ユナイテッドでGKとして活躍し、引退後は日本代表のGKコーチを務めたリカルド・ロペス氏。そして、アーセナルSS市川 U-13の監督を務める佐枝篤氏だ。
リカルド氏はスペインでの指導者時代にオサスナのU-15、U-18のコーチを歴任し、現在はアーセナルSS市川のテクニカルディレクターとして、ジュニアからU-18まで、すべてのカテゴリーのトレーニングを指揮している。一方の佐枝氏もスペインでU-11からU-18までの選手を指導した経験があり、互いに日本とスペインの両方を知る人物だ。(文:鈴木智之、写真:新井賢一)
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良い攻撃をするためには技術をいつ発揮するのか?
そんな彼らが設定したトレーニングのテーマは「ドリブル」。その狙いを、リカルド氏は次のように明かす。「日本のジュニア年代では、相変わらずボール扱いの向上については興味、関心が高いものがあります。一方でボール扱いの技術を、試合のいつ、どこで、どのように使うのかという戦術的な部分については、あまり指導がされていないと感じています。結果として、自分とボールとの関係でしかプレーできていないのです」
海外の指導者が日本の選手達を見たとき、多くの人が「技術は高いが、判断に向上の余地がある」という評価をする。その意味で、日本の選手達に共通する課題である「技術と判断の融合」に焦点を当てたトレーニングと言えるだろう。リカルド氏が説明する。
「ドリブルと言っても『運ぶ』『突破』『スペースや時間を作る』など、戦術的用途によって技術を使い分ける必要があり、発揮する場面も変わります。重要なのは、相手をよく見て良い攻撃をするために『いつドリブルをするか』という判断をすること。それをどのようにトレーニングに落とし込み、指導するかを紹介したいと思います」
練習前に佐枝コーチから「今日のテーマはドリブル。その中でも、運ぶドリブルについてトレーニングします。いつボールを運んで、いつパスを出すか。普段やっていることと同じだけど、意識しながらやろう」というアドバイスが送られ、スタートした。
顔を上げて周囲の状況をしっかり把握する
最初のドリブルトレーニングでは、ウォーミングアップとして選手が4つの列に分かれ、グリッドの中央に四角を描く形で赤が3つ、青のポールが1つ並んでいる。青のポールの前に並んでいる選手はドリブルで青ポールに到達したところで方向を変え、左右どちらかのポールにドリブルで進んでいく。赤ポールを目指してドリブルをする3人の選手は、青ポールを目指してドリブルをする1人の選手を見て、同じドリブルの動作を真似して進み、左右どちらかのポールにドリブルで進んでいく。(設定詳細はCOACH UNITED ACADEMY動画を参照)ここでのポイントは「青ポールへ進む選手の動きをよく観ること」と「ポールを曲がった瞬間にスピードを上げること」。佐枝コーチが言う。
「実際の試合でも、ボールを運んでいるときに周りを見ていないと、いつパスをしていいかがわからないよね? 周りの状況を見ながらドリブルをしよう。そして、青のポールへ進む選手の動きを最後までしっかり観ること。コーンを曲がってスピードアップしたところで、もう一つフェイントが入るかもしれないよ」
これは「周囲の状況を観ながらボールを運ぶ」という判断と技術の要素が含まれたトレーニングだ。周囲の状況を観るためには、顔を上げてドリブルをする必要がある。これは味方、相手がどこにいるかを確認するために必要なスキルであり、「ポールを曲がったらスピードアップ」というルールにすることで、相手をかわした後に素早くゴールへ迫るための意識付けもされている。
ゴールを奪うためにドリブルを"どのように"使うか
次は「3対2」のトレーニングに移行。これはゴール前の攻防という設定でゴールが1つ(GKあり)、守備側2人はあらかじめゴール前にスタンバイし、攻撃側(3人)ボールでスタートとなる。攻撃側の目的はドリブルとパスを使い、なるべく速くシュートに持ち込むこと。守備側は相手の攻撃を遅らせるとともに、ボールを奪えば勝ちとなる。このトレーニングでは、前の練習で行ったドリブルを、どのようにして実戦の中で生かしていくかにフォーカスされた。
ひとつ前の練習では「ポールを抜けたらスピードアップ」というコーチングをしていたが、相手をドリブルで抜き去った瞬間にスピードを上げて置き去りにする。あるいはドリブルで敵を引きつけておいて、味方にパスをするといった、ドリブルをボールコントロールの技術という側面だけでなく、試合の中での効果的な発揮という観点から逆算して「ゴールを奪う」という目的のために、どう使えば良いかという視点でトレーニングが行われた。
この練習では、ドリブルだけでなく味方との連携もポイントになる。ボールとは反対サイドにいる選手はどこにポジションをとればいいのか。どのような動きでシュートチャンスを作り出すのかなども、リカルド、佐枝コーチからアドバイスが飛んでいた。
動画前編の最後は「3対2」の発展として、「3対2⇒6対4」のトレーニングが行われた。攻撃側・守備側共に人数が増え、より時間をかけずにフィニッシュまで持ち込むという状況が作り出されている。
具体的なポイントはぜひCOACH UNITED ACADEMY動画をご覧いただければと思う。日々の指導のヒントが得られるはずだ。
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【講師】リカルド・ロペス/
スペイン・マドリード出身。現役時代はアトレティコ・マドリード、マンチェスター・ユナイテッドで国内リーグ制覇。日韓W杯のスペイン代表に選ばれる。引退後はオサスナU-15、U-18で指導をし、ベルギーのクラブ・ブリュージュでトップチームのGKコーチを務めた後、2014年に来日。日本代表と五輪代表のGKコーチを務め、17年より現職。
【講師】佐枝 篤/
現役時代はアルビレックス新潟バルセロナのキャプテンを経て、引退後はスペインのU.E.SANT ILDEFONS Juvenil C(U-18) コーチ、 E.F.GAVA Alevin A(U-11)第2監督、C.EJUPITER Infantil B(U-13)第1監督、C.EJUPITER Infantil A(U-13)第1監督、C.EJUPITER トップチーム及びサブチームのスカウティングを担当。2017年よりアーセナルSS市川のU-13監督に。
取材・文 鈴木智之 写真 新井賢一(U-12 ジュニアサッカー ワールドチャレンジ2017)