12.18.2017
ドリブルで相手を動かしサイドで数的優位を作る/アーセナルSS市川の戦術的意図を持ったドリブルトレーニング
COACH UNITED ACADEMYでは、アーセナルSS市川のトレーニングを紹介中。講師は現役時代、アトレティコ・マドリードやマンチェスター・ユナイテッドでGKとして活躍し、引退後はオサスナのU-15、U-18のコーチを歴任し、日本代表のGKコーチを務めたリカルド・ロペス氏。そして、スペインの育成年代での指導経験を持ち、アーセナルSS市川 U-13の監督を務める佐枝篤氏だ。「判断を伴ったドリブル」をテーマに行われたトレーニングでは、時間の経過とともに実際の試合に近づけたメニューが行われた。(文:鈴木智之、写真:新井賢一)
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「シンプルに早いプレー」を意識させる
ここでは、動画前編の最後に収録されている「3対2→6対4」の解説から始めたい。ゴール前の攻防を想定し、攻撃側3人と守備側2人+GKがスタンバイし、攻撃側がゴールに向かって攻めていくのだが、プレー開始からおよそ3秒後にコーチが笛を吹くと、両サイドに待機していた攻撃側3名、守備側2名がピッチに入り、プレーに加わる。時間の経過とともに選手が増えるため、攻撃側は素早くシュートに持ち込む意識がポイントになる。COACH UNITED ACADEMYの動画を観て頂ければ一目瞭然だが、この状況は実際の試合に近いものになっている。フィニッシュまでに時間がかかると、敵も味方も数が増えてスペースがなくなり、プレーしにくくなる。一方で、追加される攻撃側の選手をうまく使うことができれば、プレーの選択肢が増えて攻撃に厚みが出る。
ここでは佐枝コーチが「中央で選手がボールを持った時、左右に選択肢が欲しい。真ん中の選手の選択肢がドリブルだけであれば、相手は怖くないよ」とアドバイスをし、リカルド氏は攻撃側に対して、日本語で「もっと早く」という指示を繰り返していた。さらに「シンプルに早くプレーしよう。ドリブルをして相手が動かなければパスをして、すぐに動き直そう」とプレースピードについてのコーチングも行われていた。
ドリブルを使って2対1の状況を作る
続いてのメニューは「8対8」。ハーフコートで横長のグリットを作り、ゴールは1つ(GKあり)。攻撃側(映像では緑)と守備側(水色)に分かれ、攻撃側の目的はGKが守るゴールへシュートを決めること。守備側は攻撃側から奪ったボールを、ゴールとは反対側のラインで待っている選手(映像ではGKが担当)に渡せば1点となる。さらに、守備側がライン上のGKにボールを渡したところで攻守交代。攻撃側となり、ゴールを目指す。ここでは「守備側はボールを奪わずにパスコースを切るだけ」というルールが設けられ、トレーニングの強度を調整するとともに、「ドリブルで相手を引きつけて、サイドで数的優位を作る」という狙いが出やすいように設定されていた。しかし実際にやってみると、狙いとした形があまり見られない。そこでリカルド氏はすぐにオーガナイズを変更。攻撃側は6人(ビブス側)、守備側は中盤アンカーに1人、後方に4人(ビブスなし)と人数を減らした。すると、サイドに早くボールを送り、2対1を作る形ができ始める。このように狙った現象を導き出すため、柔軟にオーガナイズを変更する手腕はぜひ動画でご確認頂きたい。
ここでリカルド氏は「さっきのトレーニングで何をしていたかを思い出して。パスを受けて目の前にスペースがあれば、ドリブルを使って2対1の状況が作れるよね。相手を違う方向に誘い出して、2対1を作ろう」と、プレーの判断についてコーチング。ただドリブルという技術の発揮だけではなく、試合の中でどう活かすかという、判断やサッカーの理解について働きかけていく。
さらに「前にスペースがあればボールを運び、状況が変わったらパスを出す」ことをベースに「サイドに早くボールを運び、サイドの選手は中央に向かってドリブルをする。そうすると外側にスペースができるので、後方の選手がオーバーラップして使う」というプレーに意識的に取り組み、サイドで2対1を作ってから、フィニッシュへ繋げるように指導していた。
ミスを指摘せず選手自身に判断させる
最後はゲームで締めくくり、およそ2時間のトレーニングが終了。リカルド氏はこの日のトレーニングについて「強度の高い素晴らしいトレーニングセッションとなりました。ドリブルを使って相手をリトリートさせたり、相手をドリブルで引き付けてパスを出すなど、良い判断をすることの重要性を見て頂けたと思います」と振り返り、日本の指導者に向けてアドバイスをくれた。「トレーニングにおいて重要なことは、実際の試合と同じスピード、強度で行うことです。トレーニングの内容を、実際の試合へ繋げていくようにしましょう。大切なのは、選手がミスをしたことを指摘することではなく、ミスをする前にコーチングで気づかせてあげることです。もし選手がミスをした場合は、励ましてあげてください。なぜなら指導者がミスを指摘しなくても、選手はミスから学んでいくものだからです。日本人の規律正しさは素晴らしいものがあり、選手には自分のミスを認識する能力があります。だから、ミスを指摘する必要はないのです。指導者は選手をサポートし続けてあげてください。重要なのは、選手自身が判断をすることなのです」
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【講師】リカルド・ロペス/
スペイン・マドリード出身。現役時代はアトレティコ・マドリード、マンチェスター・ユナイテッドで国内リーグ制覇。日韓W杯のスペイン代表に選ばれる。引退後はオサスナU-15、U-18で指導をし、ベルギーのクラブ・ブリュージュでトップチームのGKコーチを務めた後、2014年に来日。日本代表と五輪代表のGKコーチを務め、17年より現職。
【講師】佐枝 篤/
現役時代はアルビレックス新潟バルセロナのキャプテンを経て、引退後はスペインのU.E.SANT ILDEFONS Juvenil C(U-18) コーチ、 E.F.GAVA Alevin A(U-11)第2監督、C.EJUPITER Infantil B(U-13)第1監督、C.EJUPITER Infantil A(U-13)第1監督、C.EJUPITER トップチーム及びサブチームのスカウティングを担当。2017年よりアーセナルSS市川のU-13監督に。
取材・文 鈴木智之 写真 新井賢一(U-12 ジュニアサッカー ワールドチャレンジ2017)