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ひとりのミスが失点につながる。スペインサッカーで「守備の個人戦術」が重要視される理由

スペイン・バルセロナを拠点に、世界中のクラブ、選手の指導&コンサルティングを行っているサッカーサービス。
世界中で指導を行ってきた彼らだからこそ語れる、日本サッカーの課題である「守備」の指導法についての連載です。第2回目は「守備の個人戦術」について。サッカーサービスの分析担当であるフランコーチに語ってもらいました。
(この連載は2016年5月に開始したメールマガジン「知のサッカー:守備」の内容を転載したものです)

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守備にはセオリーがある

まずは守備に対する「ベースとなる考え方」から始めましょう。

チームとして守備をするためには、守備の組織がオーガナイズされていることが重要です。これはジュニア年代の指導者であっても、Jリーグの監督であっても「サッカーというスポーツ」を指導する上で、ベースになる考え方です。

監督である指導者は「うちのチームはこういう守備の仕方をする」というプランを提示することが必要です。 ある程度、選手同士のひらめきで成立する攻撃とは違い、守備はセオリーがあります。
「この状況では、こう動く」というコンセプトを選手に提示し、トレーニングで身につけることができれば、守備のクオリティは間違いなく向上します。

守備のコンセプトは、2つに分けることができます。
多くの指導者の方はご存知だと思いますが、「個人の守備」と「グループ(チーム)の守備」です。個人という最小の単位があり、グループ、そしてチームへと発展していきます。

最初に重要になるのが、個人の守備戦術をしっかりと身に付けることです。

なぜならば、ひとりの選手が「個人の守備戦術」を理解していないと、せっかくチームとして守備がオーガナイズされていたとしても、そこから相手に崩されてピンチを招く、あるいは失点してしまうことがあるからです。

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日本の選手におこりがちな「守備のミス」

これは私の印象ですが、日本の選手は「守備の個人戦術」について、向上の余地があると感じています。それはJリーグや日本代表の試合を見ると、明らかになります。

例を挙げましょう。ブラジルW杯コートジボワール戦の森重真人選手のプレーです。

コートジボワール戦で日本が最初に決められたゴールにおいて、チームの守備はしっかりとオーガナイズされていました。しかし、森重選手がコートジボワールのFWと空中戦で競り合う時の対応に、改善の余地がありました。これは個人戦術の部分です。

通常、ゴール前で相手FWと競り合う場合、腕を進行方向のスペースへ出します。そうすることで、相手選手の進入をブロックすることができます。DFとして、13歳までに身につけておくべき基本的なコンセプトですが、森重選手はそのプレーをせず、コートジボワールの選手にヘディングを許してしまいました。

ヨーロッパのトップレベルの選手は、ゴール前で体を張り、何をしてでも相手を止めてやろうと言う気迫に溢れています。そして、気迫だけでなく守備の個人戦術を実行し、テクニックとメンタルを駆使してゴールを守るのです。コートジボワール戦の森重選手の対応は、いささか淡白なものに見えました。

さらにコートジボワール戦では日本のボランチ長谷部誠選手が、不用意にラインを崩して前進し、危険なゾーンであるピッチの中央部にパスを通される場面(前半2:37)や、最終ラインと中盤の間にできる"バイタルエリア"で、コートジボワールの選手を自由にさせるという、守備面で改善すべき点がいくつも見られました。これらは、選手が守備の個人戦術を身につけていれば、防ぐことができた場面です。

ここで指摘した部分は「守備時の認知」の問題と言うことができます。
日本の選手は、攻撃時には首を振り、相手がどこにいるか、スペースがどこにあるかを見ることができます。 しかし守備の時には、攻撃の時と同じような認知ができていないことがあります。

サッカーは一瞬で局面が変わるスポーツです。首を振って確認した1秒後に状況が変わっていることがあります。だからこそ正しく認知し、予測することが重要になってきます。

なぜJリーグは攻守の切り替えが遅いのか?

少し厳しい言い方になるかもしれませんが、一般的なJリーグの選手達の『攻守の切り替え』のスピードは、世界のトップレベルに比べると明らかに遅いです。その理由のひとつに『守備時の認知の欠如』があります。

日本の多くの選手が、「いつプレスに行くべきか」という理論を理解していない、あるいはチームとして共有していないので、選手個々がバラバラにプレスに行き、その結果かわされてしまう。

あるいはボールを奪うことができたとしても、周りの選手が連動していないので、素早く攻撃に移行することができないという現象が起きています。それを改善するためには、まずは守備の個人戦術を身につけ、その後にグループ、チームとして守備の戦術を構築していくことが必要です。

繰り返しになりますが、それは指導者が選手に対して提示する部分であり、指導者が選手に教えることができなければ「選手が自分で判断し、チーム戦術として機能する」ことはありえません。言い換えれば、守備のオーガナイズは指導者がすべき、重要な仕事のひとつなのです。

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"バルサの闘将"が改善した「守備の個人戦術」

ここでもうひとつ、Jリーグの試合でよく見られる、守備のミスをあげましょう。
相手チームのFWの選手が中盤に降りてボールを受けようとした時、センターバックの選手がその選手について行きすぎてしまい、ゴール中央にスペースを空けてしまうミスです。 結果として、相手チームのサイドの選手にゴール中央のスペースを使われてしまいます。

もうひとつが、相手チームのFWが最終ラインの裏へと抜ける動きをするときに、ボールが出てこないにも関わらず、マークを離さずについていってしまうことです。その結果、最終ラインが下がり、相手チームの別の選手がプレーするスペースを与えてしまうことがあります。

この状況では、最初は相手FWについて行き、途中でパスが出てこないと判断したところでマークを止め、最終ラインに戻ることが必要です。かつて、我々が『FCバルセロナの闘将』と言われた選手のコンサルティングをしたときにも、同様のミスが見られました。

そもそも彼は「マークしている相手を絶対に止める」という強い気持ちを持っている選手なので、必要以上に相手選手に近寄ってしまうクセがありました。
そこで「ある程度まではマークするが、ボールが来ない場合はマークを離して最終ラインに戻る」というコンセプトを教えたところ、大幅に改善が見られ、プレーの判断が良くなりました。

このように、選手にとって必要な守備のコンセプト(個人戦術)を身につけるように指導することで、 チームとして守備の精度が向上します。守備時の選手のプレーを分析するときに参考にしてみてください。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
続きは、次回の連載でお伝えします。

グラシアス、アデウ!
(注:カタルーニャ語でありがとう、さようならの意味)

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フランセスク・ルビオ/Francesc Rubio Sedano
サッカーサービス社の分析、コンサルティング部門責任者として、選手やクラブ育成コンサルティング業務を担当。C.Fカン・ビダレットの下部組織(U-18)の監督、コーディネーターと、カタルーニャサッカー協会技術委員を兼任。2014年までJFAアカデミー福島U13の監督も務めた。

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