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サッカーの心理学から紐解く。選手が『無意識』に良いプレーを実行できるようになるコーチングとは?

ワールドフットボールアカデミーの責任者として、世界各国で指導者に向けたセミナーを開催しているレイモンド・フェルハイエン氏が、過去日本で開催された「サッカーのピリオダイゼーション」セミナーの最上級コースまで修了し、日本サッカー界の各分野で同理論を活用するスペシャリスト達を対象にエキスパートコースを行った。

テーマは「フットボールブレイニング」。直訳すると「サッカーの脳」である。ここでは7時間に渡って行われたセミナーの一部を紹介したい。(取材・文:鈴木智之)

後編記事:「俺が選手の頃はこうだった」で壊されるタレントたち。客観的なレファレンスを用いた指導の重要性>>

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抽象的な言葉はサッカーの指導に適さない

レイモンド氏はフットボールブレイニングを「サッカーの心理学」だと説明する。サッカーの心理学については、サイコロジーやメンタルという言葉が使われてきたが、抽象的な言葉ではなく「行動を言葉にすることが大切」だと言う。

「たとえば『あの選手はメンタルが弱い』あるいは『メンタルが強い』と、指導者が評したとします。この場合の『メンタル』は何を差しているのでしょうか? 具体的には『0-2で負けていても、自分がすべきプレーに対して、爆発的なアクションを起こし続ける力がある』ということが『メンタルが強い』と言うのなら、それは行動を言葉にしたことになるので、誰でも理解することができますよね」

レイモンド氏はあいまいな、抽象的な言葉を使うのは、サッカーの指導に適していないと考えている。

「多くの指導者は、あいまいな言葉でコーチングをしています。指導者があいまいな言葉を使うと、選手の脳のどの部分が刺激されると思いますか? それは意識的な部分です。選手が『いまのはどういう意味だ?』と考えをめぐらせたとき、脳の意識的な部分にアクセスしているのです」

レイモンド氏は人間の脳の無意識な部分を「膨大な量の経験が詰まった図書館」とたとえる。人生で経験したことが脳の無意識下に入っていて、何か行動を起こす際に、考える事なく無意識で反応をして行動をすることがある。たとえば箸を持つとき。「この箸を持とう」と考える間もなく、無意識的につかんでいる。

これをサッカーに置き換えるとどうなるか。レイモンド氏は集まった指導者に向けて、「選手には意識的にプレーしてほしいですか? それとも無意識でプレーしてほしいですか?」と問いかける。

これまでに身についた良い習慣、経験を無意識のうちにピッチ上で発揮することができれば、良いプレーができるのは想像に難くない。とくにレベルが上がり、プレッシャーが速く、スペースもない環境下でプレーしているときには、意識的に考えてプレーしている時間も余裕もないのだから。

では、選手が無意識にプレーできるようになるには、どうすれば良いのだろうか? そのために必要なことを、レイモンド氏は「指導者が客観的な言葉を使うこと」だと説明する。

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選手の無意識に働きかけるコーチング

「無意識を刺激するのであれば、選手が『これはどういう意味だ?』と考えるような抽象的な言葉を使わないことです。脳の『意識』にアクセスするような言葉がけは避けるべきです。具体的にはプレス、切り替え、パス、コントロールといった、客観的な言葉を使うこと。『パスをする』と言えば、100人が100人、パスをする状況を思い浮かべます。脳の視覚化を刺激しているわけです。それがアクションランゲージ(動作を伴った言葉)です。パス、シュートなど、誰もがイメージできる言葉を使って脳の視覚化を刺激し、無意識に働きかけていきます」

選手へ言葉をかけるのは、指導者だけではない。試合中、選手は多くの情報や刺激を、チームメイトから受け取っている。それがいわゆる『コミュニケーション』と呼ばれるものだ。レイモンド氏はプレーのサイクルを『コミュニケーション』『判断』『判断の実行』と表現し、「決断が良いものだと、良いプレーになる」と言う。

一方で選手の決断が悪い場合、実行の部分で間違ったアクションを起こすことになる。指導者としては、決断の部分を修正して、良い実行へとつなげていくように、導くことが大切になる。

「試合中、パスをすべき状況でドリブルをした選手がいたとします。その選手は直感的にパスではなく、ドリブルを選びました。そこで、選手にパスをしたほうが良いと判断させるために、指導者は無意識的な部分に刺激を送り、パスをするように仕向けていきます。それが選手を成長させることであり、すなわち脳の無意識的な部分を発展させていることになります。刺激をし、正しく反応するパターンを作るのです」

そのために指導者がすべきは、明確な言葉でコーチングをすること。繰り返しになるが、選手の頭の中にたくさんの?(クエスチョンマーク)がつくような疑問が出るコーチングをすると、選手の意識に刺激を送ることになり、いつまで経っても無意識にプレーすることはできない。

「私はこう思う」といった主観的な言葉を使うと、選手は『監督はこう考えているが、自分はどうだろう?』と考え始めます。つまり主観的な言葉を使うと、選手の主観的な部分を刺激し、選手の頭に疑問が残り、意識に刺激を与えてしまうのです。一方で『1+1=2』『芝生は緑だ』といった客観的な言葉を用いると、選手たちは落ち着いた状態でいます。なぜならそれは事実だからです。つまり、指導者が事実に基づいたコーチングをすると、選手の意識的な部分を刺激せずに済み、無意識的な部分だけをコーチングできるようになります」

あいまいさを排除し、客観的かつ行動に基づいた言葉を使う。これがレイモンド氏の考える、選手の無意識に働きかけるコーチングだ。今回の内容はアドバンスコースであり、前段階でレイモンド氏の考えを長期に渡って学んだ指導者に向けた内容だが、考え方は汎用性があるものと言えるだろう。

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レイモンド・フェルハイエン(Raymond Verheijen)
1999年にオランダ代表スタッフに抜擢されて以来、ヒディンクや、ライカールト、アドフォカート、ファン・ハールなどの名監督とともに、オランダ代表、韓国代表、ロシア代表、FCバルセロナなど世界各国さまざまなチームでサッカーのピリオダイゼーションを実践してきた。サッカーに特化したピリオダイゼーションの分野における先駆者である。
取材協力:ワールドフットボールアカデミー・ジャパン