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歩みを止めないドイツサッカーが新たに取り組む改革とは/ドイツ国際コーチ会議で示された新しい指導指針

およそ15年にわたる育成改革を経て2014FIFAワールドカップで優勝を果たしたドイツ。現在も世界のサッカーシーンを牽引する強豪国ドイツだが、ワールドカップの優勝はあくまで育成改革の過程と捉え、継続的に指導者養成のブラッシュアップを行っている。

今回のCOACH UNITED ACADEMYでは、毎年ドイツで開催される国際コーチ会議で示された新たな指導指針について、ドイツサッカー協会の公認A級ライセンスを持ち、現地で育成年代の指導にあたる中野吉之伴氏に解説していただいた。

国際コーチ会議はドイツサッカー協会公認A級、プロコーチライセンス(UEFA-S級相当)を持つ指導者を対象に行われる会議。ぜひCOACH UNITED読者の皆様にも参考にしていただきたい。

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Photo by Marco Verch

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ワールドカップ優勝はゴールでなく過程


どんな国やクラブであっても、常に高みで安定し続けるということはできず、かならずどこかで衰退期というものが訪れるものだ。そして真価を問われるのはいつでもそうした苦しい時代でのあり方だ。

そこからまた立ち上がってくるのか。あるいは転がり落ちていくのか。そうした意味でも98年フランスワールドカップでのベスト8敗退、そして00年欧州選手権でのグループリーグ敗退は、新生ドイツのためのスタート地点だった。

砕け散ったプライドを拾い集めてもしょうがない。もう一度世界の頂点に立つためにあらゆる問題点と向き合い、自分たちが目指すサッカーを明確化し、そのための育成哲学を整理していった。それから14年、ブラジルワールドカップで見事な優勝を果たし、物語には一つのピリオドが打たれた。 

だが、ドイツの人にとってここがゴールではなかった。むしろここからが本当のスタートだといわんばかりに、いまも真剣に強化と育成に取り組んでいるのだ。(文 中野 吉之伴)

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ドイツサッカー協会が掲げた新たな改革ポイント

毎年7月に3日間、ドイツサッカー協会公認A級、プロコーチライセンス(UEFA-S級相当)指導者を対象に国際コーチ会議が開かれる。14年ワールドカップ後の開会あいさつのときだった。ドイツプロコーチ連盟会長のルッツ・ハンガルトナーが静かな声ではっきりとこう語った。

「歩もうとすることをやめたら、そこにいることをやめることにもなる」

優勝したから終わりではなく、さらなる成長を求め、目指そうと呼びかけたのだ。そして16年、ドイツサッカー協会は新しく分析・検証・整理された新しい指導指針を発表した。

掲げた改革ポイントは主に以下の4点。

1.より良いものを追求・先鋭化
2.自分たちの立ち位置を再分析・再認知
3.様々なエクスパートとのコミニュケーション強化
4.さらなる指導者の育成

どれも興味深いポイントであるが、ここでは特に「4.さらなる指導者の育成」を取り上げてみたいと思う。世界的にはドイツのタレント育成プロジェクトは大成功を収めており、若い指導者がたくさん出てきていると思われている。

実際に現在のブンデスリーガでもホッフェンハイムのユリアン・ナーゲルスマン(29歳)、シャルケのドミニコ・テデスコ(32歳)を筆頭に若い世代の監督がどんどん台頭してきているのは周知の事実だろう。

だが、若い世代の指導者が増えるためにと、ただ若手を積極的に採用するだけでうまくいくはずがない。例えば20代で指導者になるということは、成人選手としての経験が乏しいということにもなる。選手時代の経験も重要だ。それも学生時代の選手経験ではなく、成人サッカーにおける年間スケジュールを経験しているかどうか、というところでだ。うまくなければならないということではない。

ただ成人サッカーで求められるものがわからないと、育成時に何が大切かの大事なところを見落としてしまうことになってしまうかもしれない。若いころから指導者を目指す人が増えてきた今だからこそ、これからの指導者育成においてはこうした点も考慮に入れる必要もあるのだ。

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指導者は「育てる」という言葉に逃げてはいけない

スイス代表歴代得点王でドルトムントやバーゼルで活躍したアレックス・フライをご存じだろうか。彼は今バーゼルU18で監督を務めている。先日話をする機会があった。ふと、こんなことを尋ねてみた。

「選手時代の素晴らしい経験は指導者としてのあなたにとってどんな意味があるのだろうか?」

フライは真剣な顔でこう答えた。

「自分の経験を選手に話したりすることはないよ。彼らには彼らの人生があり、キャリアがある。どうやって道を作り、切り開き、歩いていくのかを考えてあげないといけない。指導者である自分がそのために何ができるのか。毎日の戦いだ。最近の選手はみな素晴らしく育成されている。でもすべてがそろっている環境がデメリットに働くこともある。何をすべきか。それは自分から目的を見つけて、自分から向上しようと取り組めるようにならないといけないんだ。試合中、チャンスでシュートを外して、次のチャンスに決めればいいと考える。でも次にチャンスが来るなんて保証はどこにもない。プロの世界では特にね。そこにどれだけこだわれるようになるのか。これは指導者になった私にとって非常に大きな挑戦だよ」

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この言葉が意味するところは何だろうか。大事に育てること。時間をかけてじっくりと取り組むこと。これは育成における大原則だ。だが、手塩に掛けることばかりに気持ちがいってしまうと、目的が置き去りになってしまう。だからこそ、指導者に求められるものもバージョンアップされていかなければならない。戦術理解だけでも、人間性だけでもダメなのだ。勝つことにハングリーなだけでも、「育てる」という言葉に逃げてしまってもダメなのだ。

元プロ選手が自身の感覚だけで指導者をやれる時代はとうに過ぎている。だからといってプロ選手としての経験から学ぶことなく、若手指導者が理想論を並べるだけでうまくいくはずもないのだ。ナーゲルスマンやテデスコが成功しているのは、何かが優れているからではない。そのことを忘れてはいけないのだ。我々は互いに学び、インプット/アウトプットをし、常にハイブリット化していく作業が求められている。

COACH UNITED ACADEMYのオンラインセミナーでは、先に挙げた4つの改革ポイントの内容などドイツサッカー協会における新しい指導指針について、より詳しく説明している。興味ある方にはぜひご覧いただきたい。

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【講師】中野 吉之伴/
武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年にドイツサッカー協会公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-16監督、翌年にはU-16/U-18総監督を務める。2013-14シーズンは、ドイツU-19の3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、16-17シーズンから同チームのU-15で監督を務めた。