03.05.2018
サイドにおけるポジショニングの新しい定義/ドイツ国際コーチ会議で示された新しい指導指針
今回のCOACH UNITED ACADEMYでは、毎年ドイツで開催される国際コーチ会議で示された新たな指導指針について、ドイツサッカー協会の公認A級ライセンスを持ち、現地で育成年代の指導にあたる中野吉之伴氏に解説していただいた。
前編ではドイツがいまも歩みを止めることなく、さらなる成長・発展に向けてチャレンジしている様子について紹介したが、後編では現場に対し具体的にどのような指導指針が提示されたのか中野氏に解説していただいた。
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可能な限り深く、必要なだけの幅を取る
正確なパスと適切なポジショニングはサッカーの試合に欠かせない大事な要素だ。日本でもドイツでも、「パスは正確に」「適当に蹴らない」「スペースを使え」と、指導者が指摘するシーンを多くみる。だが、それはどこまで選手に届いているだろうか。そう言われてできる選手はいい。でも、パスを正確に蹴れといわれたから、正確に蹴ろうとした。でも思ったように味方選手にパスが届かなかった。この場合はどうしたらいいだろうか。
どんなパスやどんなポジショニングが求められているかをよりイメージしやすい表現を見出す必要があり、ドイツサッカー協会はここに力を入れようとしている。(文 中野 吉之伴)
イメージしやすい表現とは何だろうか?
「幅を使え」「ワイドにポジションをとれ」「サイドからしかけろ」
サッカーをやったことがある人なら一度は言った・聞いたことがある表現ではないだろうか。テレビの解説でも度々耳に飛び込んでくる。言われたとおりに選手がサイドから展開する。ボールをワイドに動かしている。なのに攻撃がうまくいかない。指導者が叫びだす。
「そうじゃない!」
そうじゃないと言われても選手はどうしていいかわからないし、微調整のしようもない。本人たちは「幅を使って」「ワイドにポジションを取って」「サイドからしかけている」つもりなのだから。
そこでドイツサッカー協会はサイドにおけるポジショニングの新しい定義として、「可能な限り深く、必要なだけの幅を取る」というものを掲げている。
「可能な限り深く」
つまり、相手守備ラインの位置に応じて目一杯高いポジションを取るということだ。この定義の中では、状況に応じてオフサイドの位置を利用することも含まれている。例えばバルセロナのウルグアイ代表FWスアレス。彼はポジショニングにおける駆け引きが非常に巧みだ。
味方がボールを回しているときはしれっとオフサイドの位置でふらふらしている。だが味方選手から縦パスやダイアゴナルのパスが出てきそうな瞬間に、スッと戻り、パスコースを作り出す。あるいはそこから方向転換をしてスペースに抜け出していく。相手守備の死角から動き出し、かく乱する。このタイミングとポジショニングの取り方が絶妙なのだ。
選手にイメージしやすい表現で定義する
「可能な限り」という言葉をつけたことで選手への問いかけが変わってくるのがわかるだろうか。「深くポジションをとれ」が問だったら、答えは「取ったか、取らなかったか」の2択であり、選手と指導者側の主観と解釈でいくらでもずれが生じてしまう。でも「可能な限り」と聞けば、「その位置取りは本当に可能な限りだったのか」と問うことができる。選手からすれば、「こうした可能性もあったかもしれない」とイメージしやすくなるのではないだろうか。
「必要なだけ幅を取る」についてはどうだろうか。かつてサイドプレーヤーはタッチラインいっぱいまで開くことが厳命とされていた。ただ「幅を取って」いても、そこに効果がなければ意味をなさない。
タッチラインいっぱいに開けばそれだけボールを収める余裕は持てる。でもそこからゴールへの距離はまだ遠い。そして相手にスライドして対処する時間も与えてしまう。そうしたこともあり、最近ではタッチラインから中に5-10m入った位置でボールを受けるプレーがよく見られる。
仮にペナルティエリア角あたりで相手選手を振り切りボールをもらうことができれば、そこから一気にゴールを狙うことも可能だし、ペナルティエリアの相手守備を混乱させることができる。もしそのまま突破できなくても、そこからタッチライン際までスペースがあるので味方選手がオーバーラップしてきたり、自分が外に開きながら持ち運ぶことで、新しいスペースを作ることもできる。
そうしたプレーイメージがある中でタッチラインいっぱいに広がることで、味方選手が中のスペースを使うというアイディアも生きてくる。
「必要なだけ」の言葉一つで、自分たちの攻撃に必要な幅はどれくらいだろう?その使い方はどうすればいいだろう?の問いが浮かんでくる。そこからチーム内でのイメージ共有にも働きかけることができるはずだ。
COACH UNITED ACADEMYのオンラインセミナーの中では、ほかの表現や、パスとポジショニングの新しい定義についても触れている。興味ある方は、ぜひご覧いただきたい。
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【講師】中野 吉之伴/
武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年にドイツサッカー協会公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-16監督、翌年にはU-16/U-18総監督を務める。2013-14シーズンは、ドイツU-19の3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、16-17シーズンから同チームのU-15で監督を務めた。
取材・文 中野 吉之伴