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相手を誘導してボールを奪うために"敢えて下がる"/ドイツ流『ボールを重視』したゾーンディフェンス

COACH UNITED ACADEMYでは、ドイツで14年間指導者を務め、SVヴェルダー・ブレーメンのアカデミーなどで指導した経験を持つ、坂本健二氏よる「ボールを重視したゾーンディフェンス」についての映像を公開中。後編では、ゾーンディフェンスをする上で欠かすことのできない「個人戦術」にフォーカスした講義の一部を紹介したい。(文:鈴木智之)

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不利な状況を一変させる能動的な守備とは

坂本氏が例に挙げたのが「ピッチ中央部での1対1」の場面。ボール保持者のFWから離れた状態で、守備側はどのように対応すれば良いのだろうか? ここで坂本氏が挙げた例のベースとなる考え方がある。それが「守備側が有利な状況を作ってボールを奪うこと」だ。

「有利な状況を作るためには、相手の出方を待つのは得策ではありません。守備側が受け身ではなく、能動的に動いてボールを奪いに行きます。例えば相手FW(ボール保持者)が右利きの選手であれば、多くの場面で右足の前にボールを置きます。そのため、守備側は右足の前を塞ぐようにポジションをとります。そこで相手が嫌がって左足に持ち変え、左前方にドリブルのコースを変えるため、仮に守備側が抜かれたとしても、相手FWは得意ではない方の足でシュートを打つことになるので、正確性は低くなります」

相手の特徴を知り、得意な足でプレーをさせない。これも能動的な守備のひとつである。さらに、守備時に数的優位を作るためには、味方との協力が不可欠になる。

「利き足と反対の足でボールを持たせるだけでなく、意図的にドリブルの方向を限定することで、その対峙したDFのサイドに近い味方選手と協力して、数的有利な状況を作ります。つまり、1人目の選手が右足を塞ぐことで、相手FWを誘導し、近くにいる味方選手と挟み込んでボールを奪います。ファーストディフェンダーの位置取りに合わせて、セカンドディフェンダーが反応してボールを奪うという形です。現代サッカーでは、1対1の状況になった場合、攻撃側の方が60%から70%ほど有利だと、私は考えます。その前提を踏まえると、数的同数ではボール奪取は叶わず、数的有利な状況を作って奪うべきと言えます」

相手を誘導し、ボールと相手の間に体を滑り込ませて奪う方法を「スライド」と言う。これはCOACH UNITED ACADEMYの中で映像を使って説明しているので、ぜひご覧頂きたい。

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『三種の神器』を用いた有利な状況の作り方

相手を誘導してボールを奪うコンセプトに加えて、プレーを成功させるために必要な『三種の神器』を、坂本氏は次のように紹介する。

(1)ボール保持者との間合い(距離)
(2)ボールとゴールの中心を結んだラインから少し斜めにずれたポジショニング(角度)
(3)守備側は下がりながら対応する(後退)

ここで強調したのが「相手の出方を見ながら動くのではない」ということ。

「相手の動きにあわせて動くのではなく、マグネットの同じ極同士が反発し合うように、守備者のポジション取りでボール保持者を誘導してボールを奪い取る。これが大事なポイントになります。まず攻撃側の選手の利き足の前に立ち、ボールホルダーに寄せに行き、続いて下がり始めます。そうすることで、ボール保持者はゴールへ向かう自分の前のスペースが空いたように見えるので、ドリブルで前進します。そこが狙い所です。守備側が空けたコースに入ってくるので、下がりながらスピードをドリブルと合わせ、攻撃側の足元からボールが離れた瞬間に、体をボールと相手の間に滑り込ませて奪います」

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この守備方法は、多くの試合でよく見られる「攻撃側の進行方向の前を塞ぎ、前進して寄せに行く」というものではない。その方法だと、直接的に足を出して短いタイミングでボールを奪うことになるため、かわされやすくなる。また、かわされたときに守備者の背後のスペースを使われ、ピンチを招くことにもなってしまう。

しかし、坂本氏が紹介する守備の方法では、ボールに対して下がりながらアプローチするため、守備側が奪いに行く時間があり、抜かれたとしても味方選手が近くにいるのでカバーリングもしやすい。攻撃側が進む方向を決めているのは誘導している守備者なので、スピードの中で対応できるとともに、自分の前にボールがある状態を作ることができる。

「この状況で下がるという行為は、あってはならないのではないか。そう思う方も多いでしょう。実際に私もドイツサッカー協会から聞いたときに疑問に思いました。しかし、相手を迎え撃つ形で正面に入ると、ボール保持者にアプローチできる時間は一瞬です。何故なら、ボール保持者は対峙するDFを避けて、左右どちらへもドリブル、あるいはパスが可能な状態だからです。そうではなく、ここで説明したように、まず相手の利き足の前に入るポジションをとる形で寄せ、相手にドリブルをさせると同時に下がりながら、相手の足からボールが離れた瞬間を見計らって体をスライドさせてボールを奪う方法は、相手に抜かれずらくなり、より長い時間自分の前にボールがある状態を(つまり、まだDFは(まだ)抜かれていない)作ることができます」

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COACH UNITED ACADEMYの中では、指導をする上で起きやすい現象についても触れている。実際にこの守備方法を小学生チームにレクチャーし、実践したところ、子供たちが生き生きと守備をし始め、プレーが変わった例もある。守備をどのように指導すればよいのかわからない。あるいは、このままでいいのかと悩んでいる指導者にとっては、大いに参考になる考え方だろう。

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【講師】坂本健二/
1960年、東京生まれ。1982年~89年山雅SC(現松本山雅FC)にてプレー(85年北信越リーグ優勝)。98年にサッカー留学のため渡独。99年からヴェルダー・ブレーメンのU16、U13、U9などの指導者を歴任、00年にはクラブ史上初のコーディネーションコーチにも抜擢された。2004年、ドイツサッカー協会指導強化ビデオ『「ボールを重視した」守備』を翻訳、同協会認定指導者B級ライセンス取得。06年に日本人初、FCペンツベルクでアカデミー・ダイレクターに就任。15年に指導者資格DFB・エリート・ユース・ライセンスを取得後、日本へ帰国。