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4バックのゾーンディフェンスにおける基本的な戦術行動/ドイツ流『ボールを重視』したゾーンディフェンス

過去にCOACH UNITED ACADEMYでは、ドイツのSVヴェルダー・ブレーメンのアカデミーなどで指導した経験を持つ、坂本健二氏よる「ボールを重視したゾーンディフェンス」について講義の模様を公開した。今回は実践編と題し、日本サッカーに欠けている「ゾーンディフェンス」「複数の選手でボール保持者を囲んで奪う」というプレーをどのようなトレーニングのもとに身につけさせていくのかを、前後編の2回に渡って紹介したい。(文:鈴木智之)

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4人の意識を統一させ「チェーン」を意識する

前編のトレーニングでは、4-4-2システムの基本の動きにフォーカスし「4バックの特徴的な戦術行動」をテーマに行っていく。坂本氏はトレーニングの狙いを、次のように明かす。

「まずは選手たちに、ボールを重視したゾーンディフェンスの全体像をつかんでもらい、4バックの連動した戦術構造に慣れてもらいます。トレーニングの最初は遊びの要素が強いものから入り、次にスティックを使って4人が連動することを意識付けていきます。さらには、ベルトを使って広いピッチで連動することや、4-4-2の陣形から、どのようにボール保持者を囲み、数的優位を作ってボールを奪うのかというイメージを共有していきます」

指導歴が浅い、経験のない指導者には難しく感じるテーマかもしれないが、坂本氏は「これから実施するトレーニングを見てもらえれば、ボールを重視したゾーンディフェンスを導入するのは、それほど難しいことではないとわかってもらえると思います」と語る。

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1つ目のトレーニングは「ハンド・イン・ハンドで守備」。選手たちが4人、4人、2人のグループに分かれて縦に並ぶ。これらの選手たちは守備役となり、前方からドリブルを仕掛けてくる選手をブロックするのが目的だ。ただし、各グループの選手たちは手を繋いでいるので、全員が意思統一して動かなければ進行方向が定まらず、ドリブルを止めることはできない。

攻撃側の選手は次々にドリブルでやって来るので、守備側の選手の右側と左側にそれぞれ別の攻撃側の選手が侵入してくることもある。その時に片方の選手を止めようと右に寄ると、左側を突破される、あるいは中央の選手が左右から引っ張られて動けないという現象が起きる。そこで、繋がれた選手同士が声を掛け合い、コミュニケーションをとって、左右どちらの攻撃側の選手を止めるかを決めるのがポイントだ

坂本氏は選手たちに「いまの練習は何を目的にしたものだと思いますか?」と問いかけ、狙いを次のように説明する。

「ドイツ語で4バックのことをフィアラーケッテと言います。これは『4人組のチェーン』という意味です。選手同士が連動し、第1DFがボール保持者にプレスをかけに行ったら、第2、第3、第4DFと一緒になって、連なりながら動く。これがゾーンディフェンスです」

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キーワードは「三角形」と「バナナ」

2つ目のトレーニングは「4バックの基本動作」。守備側の4人組がスティックを介して横一列に連なり、4人で1つのかたまりになる。攻撃側は守備側の4人に向かい合う形で4人が並び、手にボールを持って、隣の味方にパスをする。守備側の選手は、自分の前の選手にボールが渡ったら、前に出て距離を詰める。その後、攻撃側がパスを回すたびに、守備側はその動作を繰り返していく。

ここでのキーワードは「三角形」と「バナナ」。守備側の第1DF(ボール保持者に向かい合っている選手)が前に出たとき、ボールの位置によって、守備側の残りの3人は三角形かバナナの形を作るように移動する。これは、実際の試合中に第1DFがボールにチャレンジし、第2DF以降がカバーするポジショニングと同じだ。

ここで坂本氏がフォーカスしたのが、守備側の選手の準備のアクション。常に足踏みをしながら移動の準備をし、周囲を見渡して、細かく立ち位置を変える選手に対して「良い動きです」と褒めていた。

発展形としては「攻撃側の選手はハンドパスをする際に、1人飛ばしても良い」「攻撃側が前進し、守備側は後退しながら行う」という設定も実践。徐々に、実際の試合の動きに近づけていく。

3つ目のトレーニングは「4バック2列の連動」。4人のDFと4人のMFの計8人がベルトで繋がれた状態を作り、左右からドリブルで前進する攻撃側の選手に対して、ボールの近くにいる第1DFが寄せていき、その位置に応じて第2、第3DFがポジションをとる動きを繰り返す。

ここでは「守備側の第1DFはボール保持者の利き足の前に立つ」ことを意識させ、練習2で実施した「三角形」「バナナ」の陣形を素早く取ることを、繰り返しトレーニングしていった。選手たちは繋がれたベルトに戸惑いながらも、坂本氏の指示を理解しようとゆっくりと動き始める。

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前編最後の練習では「10対11」(ディフェンスプレッシング)を実施。実際の試合に限りなく近い状況ながら「守備側は歩いてプレスに行く」というルールを作ることで、どこにポジションをとるかを最優先に考えさせるアプローチを通じて、選手たちの意識を変えていく。

トレーニングのモデルを務めた選手たちは、このような守備の仕方、概念に初めて触れるようであり、多少の戸惑いが見え隠れする。それも含めて知識ゼロの選手たちに、どのような段階を踏んで指導していくかという見本にもなる。坂本氏からは「2本ではなく、4本の足で奪おう」「第1DFを中心に、二等辺三角形になるポジションをとろう」など、感覚的な指示ではなく、具体的なコーチングが行なわれているので、そのあたりも参考にして頂ければと思う。

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【講師】坂本健二/
1960年、東京生まれ。1982年~89年山雅SC(現松本山雅FC)にてプレー(85年北信越リーグ優勝)。98年にサッカー留学のため渡独。99年からヴェルダー・ブレーメンのU16、U13、U9などの指導者を歴任、00年にはクラブ史上初のコーディネーションコーチにも抜擢された。2004年、ドイツサッカー協会指導強化ビデオ『「ボールを重視した」守備』を翻訳、同協会認定指導者B級ライセンス取得。06年に日本人初、FCペンツベルクでアカデミー・ダイレクターに就任。15年に指導者資格DFB・エリート・ユース・ライセンスを取得後、日本へ帰国。2018年には、ドイツサッカー協会公認の指導書「『育成強国』ドイツが提案する ジュニアサッカー指導の手順と練習法」(東邦出版)の翻訳を務めた。