09.18.2018
ラインを下げずに"ボールへアタック"して奪う守備とは?/ドイツ流『ボールを重視』したゾーンディフェンス
COACH UNITED ACADEMYでは、ドイツのSVヴェルダー・ブレーメンのアカデミーなどで指導した経験を持つ、坂本健二氏よる「ボールを重視したゾーンディフェンス実践編」の映像を公開中。「ロシアW杯ベルギー戦の3失点目を観てもわかるとおり、日本サッカーには守備のベースが不足している」と語る坂本氏は、どのようなトレーニングでゾーンディフェンスを選手に指導していくのか? 指導実践の後編をお届けしたい。(文:鈴木智之)
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コンパクトな陣形を保ったまま滑らかに連動
後編のトレーニング、1つ目は「2ゴールを使った3対4+GK」。ペナルティエリアを2つ合わせたサイズのグリッドを作り、ゴールを2つ置く。攻撃側は3人、守備側は4人(それぞれのゴールにはGK役のフィールドプレイヤーが入る)でゴール前の攻防を実施。前編のトレーニングでは、ゾーンディフェンスの考え方や動き方を、様々な練習で段階を経て理解させていった。後編では実戦さながらのスピード感で行い、状況がめまぐるしく変わる中で、素早い状況判断、ポジショニング、プレスの動きが求められていく。
「トレーニングの狙いとしては、4バックの特徴的な戦術行動を実際のプレースピードの中で試し、なめらかに連動しているのか、コンパクトな陣形を保ちながら守備ができるかを検証します」(坂本氏)
「3対4+GK」では、守備側の方が1人多い。4人のDFはボールを基点に、一番近くにいる人(ファーストDF)がボールホルダーに寄せ、セカンドDFがカバーする位置に入る。ファーストDFが相手に寄せて、バランスを崩させているところに、セカンドDFが寄っていき、ボールを奪うのが理想の形だ。
ここで重要なのが、ファーストDFがボールホルダーに素早く寄せること。そして、セカンドDFがカバーできる位置に入ること。坂本氏は「三角形!」「バナナ!」と前編の練習で意識させた形を作るように、選手たちの動きにあわせてコーチングしていく。
また、この守備方式はマンツーマンではなくゾーンなので、4人が横一列に並び、自分のゾーンにボール保持者が入ってきたら寄せる(ボールにアタックする)。別のゾーンに移動したら、そのゾーンを担当する選手がファーストDFになるという動きを、三角形やバナナの形を意識しながら繰り返していく。
マークする相手ではなく、ボールの位置を重視する
選手同士がベルトで繋がっているように、ファーストDFとセカンドDFが連動することで、ボールホルダーに対して4本の足でプレッシャーをかけることができる。数的優位な状況を作って、ボールを奪いに行く。そしてボールを奪ったら、左右の選手は素早くサイドに広がり、数的優位を作ってボールを動かし、ゴールを目指す。坂本氏はプレーを止め、問いかけを通じてゾーンディフェンスに対する理解を深めていく。その中で強調したのが「ボールの位置を基点に、守備のポジションを決める」こと。
「ディフェンスラインを決めるのは、ディフェンスの選手です。相手フォワードの位置に左右されずに、あくまでボールの位置をメインにポジションを決めます。 ボールを中心にトライアングルを作り、ボールから最も遠い位置にいる選手は自分のゾーンにいる相手選手を見ながら、ラインを揃えてください。考え方としては、1:ボールの近くにいる選手が、ボール保持者にアタックする。2:その選手を頂点に三角形をつくる。3:ボールに対して前進して圧力をかけることによって、ディフェンスラインより背後にいる攻撃の選手をオフサイドにする。この順番でグループでの守備を実行していきます」
ゾーンディフェンスに慣れていないと、ボール保持者の近くにいる攻撃側の選手に気を取られ、ついて行ってしまいがちだ。その結果、ディフェンスラインがズルズルと下がり、攻撃側にゴール前へ侵入を許してしまうことになる。
坂本氏は「ボールにアタックする」という表現を使うことで、「前に出て、アグレッシブにボールを奪う」という意識付けを徹底。それによって、攻撃側の選手をオフサイドポジションに追いやることができるだけでなく、前に出て守備をすることで、奪ったボールをすぐに攻撃につなげることができるようになる。
「そのためには、自分のゾーンに相手が入ってきたら、100%の力でスプリントして、ボール保持者に寄せていかなくてはいけません。それを基準に、セカンドDFが立ち位置を決めます」
トレーニングでは「バナナと三角形を区別して! 今の状況はバナナだよ」とシンクロしながらコーチングすることで、選手達の意識がただボール保持者を見るのではなく、自分の立ち位置はここでいいのかと、少しずつではあるが、意識する姿を見ることができる。
最初は意識的に観ざるを得ないが、この練習を繰り返すことによって、無意識のうちに状況を判断し、素早くポジションを取ることができるようになるのが理想の形だ。
最後に、坂本氏が選手たち、そして指導者にメッセージをくれた。
「守備をする際に一番大事なのはボールです。マークする相手ではありません。ボールに対して自分たちがどうチャレンジするか。それがゾーンディフェンスのポイントです。守備は基本的には受け身ですが、やろうとしているのはボールに対してアタックすること。ファーストDFが寄せていい仕事をすると、セカンドDFがボールを奪うことができます。ゾーンディフェンスは常に状況を判断して、選手間でイメージを共有させる必要があるので、とても頭が疲れます。でも、これができるとサッカーが面白くなるし、攻撃的なサッカーができるようになります。選手間のイメージがバッチリ合って、ボールを奪うことができれば、ゴールを決めたときと同じぐらいの喜びを味わうことができます。戦術的な動きも出てきますが、日本の指導者の方は、ぜひ躊躇なくゾーンディフェンスを指導するようにしてほしいと思います。それが、日本サッカーの将来に繋がると思っています」
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【講師】坂本健二/
1960年、東京生まれ。1982年~89年山雅SC(現松本山雅FC)にてプレー(85年北信越リーグ優勝)。98年にサッカー留学のため渡独。99年からヴェルダー・ブレーメンのU16、U13、U9などの指導者を歴任、00年にはクラブ史上初のコーディネーションコーチにも抜擢された。2004年、ドイツサッカー協会指導強化ビデオ『「ボールを重視した」守備』を翻訳、同協会認定指導者B級ライセンス取得。06年に日本人初、FCペンツベルクでアカデミー・ダイレクターに就任。15年に指導者資格DFB・エリート・ユース・ライセンスを取得後、日本へ帰国。2018年には、ドイツサッカー協会公認の指導書「『育成強国』ドイツが提案する ジュニアサッカー指導の手順と練習法」(東邦出版)の翻訳を務めた。
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6歳から10歳までの子どもたちがサッカーを楽しみ、自らチャレンジして上手くなる指導法とは?詳しくはこちら>>ドイツサッカー協会が編集し、坂本健二氏が翻訳したU-10年代を指導するコーチに向けた指導書と、 ドイツの指導者養成機関であるケルン体育大学で講師を務め、1.FCケルンで育成部長などを務めたクラウス・パブスト氏によるトレーニングDVD「モダンフットボール」をセットにしました。
取材・文 鈴木智之