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練習の質を高めるには子供の「貢献意識」に目を向けよ!/イングランド流メンタル強化術

COACH UNITED ACADEMY、講師はイングランドのバッシュリーFCという9部(セミプロ)のトップチームコーチと、下部リーグを中心にチェックするノンリーグジェムズというスカウト団体にも所属している塚本修太氏。

実はイングランドでは近年、メンタルを強化するために心理学が重要視されており、既に数年前からイングランドサッカー協会が「サイコロジー(心理学)ライセンス」の講習も始めたほどだ。今回はそのライセンスを5段階中4段階を取得した塚本氏が、サッカー指導の現場におけるメンタル強化について語ったセミナーの様子を、2回に渡って紹介したい。(文:内藤秀明)

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何故、今、心理学の重要性を再認識され始めているのか

今年行われた2018 FIFAワールドカップロシアではイングランド代表に心理学者が帯同しチームの勝利に大きく貢献した。

その話題のきっかけとなったのは、ワールドカップにおけるイングランド代表のPK戦の全敗記録を止めた決勝トーナメントベスト16コロンビア戦の勝利だろうか。ただし心理学者であるピッパ・グレインジ氏のチームへの貢献はPK戦のキック順に関与した点だけではない。

「彼女はチームが一致団結する上で欠かせない存在」とトッテナム所属MFデレ・アリなどが証言しているように、対話や専門性を生かしたアドバイスを通じて様々な側面でチームの勝利に貢献している。

この心理学的なアプローチが効果的なのは何もトップチームだけではない。育成年代でも同様である。

5Cコーチング理論とは

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例えば日々の練習において「子供たちの練習に取り組むが姿勢が十分ではない」、または「最初は真面目に取り組んでいるものの、徐々に集中力が欠如していくと感じる」ことはないだろうか。これらは全て心理、メンタルの問題である。

「メンタルはサッカーに非常に大きな影響を及ぼしますが、様々なメンタル面の課題は練習のコーチングを通じて改善可能であるという実験結果があります。その改善するための手法として5Cコーチング理論というものをイングランドサッカー協会は推奨しています。この理論はサッカーをプレーする上で必要となるメンタルを5つに分解したものであり、その5つの頭文字からとって名付けられています」

その5つのCとは以下の通りだ。

・Commitment(貢献)
・Communication(対話、コミュニケーション)
・Concentration(集中)
・Confidence(自信)
・Control(抑制・制御)

貢献意識が高いとはどのような状況で、どうすれば改善できるのか

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例えば練習に熱心に参加しない子供がいれば、5つのCの中の「貢献」に関するメンタルトレーニングを日々の練習を通じて行う必要がある。

「イングランドでは貢献とは『自分の目標を省みて、努力を惜しまないこと』と定義しています。具体的には『練習と試合どちらでも高いレベルで貢献し、それを継続している』『能動的に練習に参加している』『新しい挑戦を恐れず、常に自分の限界を引き延ばそうとしている』『ミスや失敗に対する忍耐強さがある』状態を貢献意識が高いとしています。そのため、適切な練習メニューとコーチングを通じて上記が起こるような状況を作り出す必要があります。ただし子供たちに貢献意識を植え付けるには、前提として、モチベーションが必要不可欠だと言われています」

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では、モチベーションを高めるにはどのような工夫をすればいいのか。

「そもそもモチベーションには、「外的モチベーション」と「内的モチベーション」があります。外的モチベーションは『練習を頑張ればお菓子をあげる』など、外部からの刺激よって高められるモチベーションのことです。そして内的モチベーションとは「好きだからやる」など自分の中から生まれるものを指します。外的のほうが簡単に上げることができる一方で、持続性に欠き効果も薄いです。そのため内的モチベーションを高めていくために意識すべきなのですが、それを高めるには『自律性』『有能性』『関係性』の3つの欲求を満たす必要があると自己決定理論という動機付けの基本理論では明かされています」

子供のモチベーションを高めるには

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その3要素を満たすには、どのようにすればいいのか。

「『自律性』を満たすには、選択肢を与えることで子供たちが自ら行動できる状態にすべきで、『有能性』を満たすには成功体験を積みやすいトレーニングをデザインする必要があります。最後に『関係性』を満たすには、指導者と子供の関係も深い必要があります。単純にサッカーの能力を知っているだけでなく、子供たちが好きなことなどプレイヤー以外の側面も理解を示してあげることで、関係は深まります」

重要なのは、これらは何か一つ満たしていればよいのではなく、全て満たして初めて子供の内的モチベーションが上がり、貢献意識も高まる点だろう。

COACH UNITED ACADEMY動画では、5Cコーチング理論の各要素の解説だけではなく、日々の練習で各要素が含まれたトレーニングを設定し、適切なコーチングができているかのチェック項目や、具体例を出した解決策の提示なども塚本氏が紹介している。

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一つひとつはシンプルな内容だが、全ての要素を網羅することは難しい。この機会に動画を視聴して自身のトレーニングに足りていない要素がないかを整理してはいかがだろうか。メンタル面における課題を解決するためのヒントが詰まっているはずだ。

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【講師】塚本修太/
前橋育英高校サッカー部でプレーした後、イングランド・サウサンプトンにあるソレント大学でサッカー学を専攻。大学に通いながら、現在はバッシュリーFCという9部(セミプロ)のトップチームコーチと、下部リーグを中心にチェックするノンリーグジェムズというスカウト団体にも所属する。