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「なぜ?」「なんで?」と選手に"尋問"するのはやめよう/選手の意識・行動を変える!コーチに必要な質問力

COACH UNITED ACADEMY、今回の講師は「しつもんメンタルトレーニング」の藤代圭一氏。ジュニアからトップアスリートまで、多数の選手と関わる藤代氏による「選手の意識、行動を変える! コーチに必要な質問力」動画セミナーの模様をお届けする。(文:鈴木智之)

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大事なのは「答え」ではなく、そこまでのプロセス

藤代氏はかつて、サッカースクールでコーチを務めていた。そこで、最大140名いた会員が40名以下になる苦い経験をしたことで「どうすればいいんだろう?」と悩み、心理学、コーチングを学ぶことになったという。

その経験を経て「しつもんメンタルトレーニング」というメソッドを作成し、現在は一般社団法人スポーツリレーションシップ協会としても活動。「一人でも多くの子どもたちが、その子らしく輝く世の中をつくる」をビジョンに、しつもんというツールを活用して心理面のサポートをしている。

今回のセミナーでは「指導者や保護者が適切なしつもんを投げかけることで、子どもたちや選手の成長をうながす」ことを中心に話を展開。藤代氏は「COACH UNITED ACADEMY動画前編では、質問の使い方を理解する基本理論として、これらをお伝えします」と、参加者に語りかける。

・1つ目が質問の力を知ろう
・2つ目が質問を構造で理解する
・3つ目が質問でわかる選手のステージ
・4つ目が質問には種類と活用方法がある
・5つ目が効果的な質問と尋問の違い

「動画セミナーの進め方として、見て頂いているあなたに質問を投げかけます。かつての学校の授業のように、一方的に伝え続けても学習効果が低いので、質問の際はぜひ動画の一時停止ボタンを押して、ノートなどに答えを書いて頂けたら嬉しいです」

質問に答えるときの3つのルールがある。それが「どんな答えも正解」「わからないも正解」「答えを受け止める」だ。質問による答えは人それぞれ。立場や感性によって異なる意見が出てくるのは当然のことであり、大切なのは正解・不正解をジャッジすることではなく、質問に答えるプロセスを通じて、自分と対話すること、新たな発見や気づきを得ることにほかならない。

そこで藤代氏はひとつの質問を投げかける。

「この動画セミナーが終わった時に、どうなっていたら最高ですか?」

質問をされると、人間の脳は答えを探そうとする。その結果、取り組む姿勢が変わる。なんとなく「この動画を見ようかな」と思っていたところから「動画を見ることでこれが知りたい」「この部分に興味がある」といったように、視聴する姿勢に変化が現れ出す。

「これを、人は"やる気"と表現します。私はこの質問を練習や試合前に活用しています。『この練習が終わったときに、どうなっていたら最高ですか?』と尋ねると、なんとなく参加しようとしていた子の意識が変わり、練習の質を高めることができます」

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質問を変えれば、選手の思考や行動が変わる

続いて藤代氏は「質問が与える5つの特別な力」を紹介する。それが次の5つだ。

1.質問は答えを引き出す
2.質問は思考力を養う
3.質問は貴重な情報を引き寄せる
4.質問は人の心をひらく
5.質問は人をその気にさせる

説明の詳細はぜひCOACH UNITED ACADEMY動画をご覧頂ければと思うが、ここでは3つの名言を通じて、質問の効果を実感してほしい。

「的確な答えを見つけるためには、まず的確な質問をしなければならない」
S・トービン・ウェブスター 英語国語教師

「答えよりも、どんな質問をするかによって、その人を判断せよ」
ヴォルテール(哲学者)

「話しているときは何も学ばなかった。私が学んだのは、質問をしたときだけだ」
ルー・ホルツ 元ノートルダム大学フットボールコーチ

藤代氏は「マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱する『組織の成功循環モデル』というものがあります」と語り、次のように説明する。

「関係性の質が思考の質に影響を与え、思考の質が行動に影響を与え、行動の質が結果の質に影響を与え、そして結果の質がまた関係性の質に影響を与えるという、循環モデルです。指導者や保護者は、子どもに結果を出してほしいと願っています。そのためには川の上流にある行動や思考の関係性の質に目を向ける必要があります。大人が彼らにどんな質問をするのか。それによって思考に影響を与え、行動や結果に変化を起こすことができます」

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選手の思考に影響を与える手段とはなにか? ここまで読んでくれた人ならお気づきだろう。「質問」である。

しかし、サッカーの指導現場において、「なんでできない?」「なぜシュートを打たなかった?」と、「なぜ?」を選手に問いかける場面はよく見られる光景だ。

「プレー中に自分で考えながらプレーするサッカーでは『なぜ?』を突き詰めることが重要なのですが、コーチやの声がけが、なぜ? になることには弊害もある」と藤代氏は言う。

尋問ではなく質問をしよう

「なんでできない?と聞かれた選手は、どう答えたらいいのでしょう? よく見られるのが黙ってうつむいてしまうか、一生懸命にできなかった理由を述べる選手の姿です。一見、成立しているように見えるコミュニケーションですが、この場合はコーチ側に選手に反省させたい意図が見えます。これは状況的にも尋問でしかなく、そこで得られた答えも選手にとって「言いわけ」で終わってしまいます。声がけや質問はできるだけ「Why(なぜ?)」ではなく「How(どうやって、どうしたら?)」で聞いてあげてください」

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質問で重要なのは、指導者のための質問ではなく、選手自身のためであり、選手が答えたいと思える質問である必要があると藤代氏は指摘する。

指導者が納得しそうな答えを導き出すための質問は尋問でしかないのだ。選手の「思考の質」や「行動の質」に影響を与えるような質問をしなければならない。

藤代氏は「私達指導者の質問を変えれば、選手の思考や行動が変わります」と断言する。セミナーでは具体的な質問の方法にも言及。ここでは一言に質問と言っても、

●イエスかノーで答えられる「スピードクエスチョン」
●選択肢の中から選ぶ「セレクトクエスチョン」
●自由な答えを引き出す「アイデアクエスチョン」

などを紹介。具体的な質問の例を通じて、選手の思考に影響を与えるための、多くのヒントを提示している。これらはCOACH UNITED ACADEMY動画で非常にわかりやすく紹介されているので、指導や子どもたちと接するときの参考になるだろう。

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【講師】藤代圭一/
スポーツメンタルコーチ。1984年、名古屋生まれ。東京都町田で育つ。スポーツスクールのコーチとして活動後、教えるのではなく問いかけることで子どものやる気を引き出し、考える力を育む「しつもんメンタルトレーニング」を考案。全国優勝を目指す様々な年代のチームから地域で1勝を目指すチームまでスポーツジャンルを問わずメンタルコーチを務める。全国各地でワークショップを開催し、スポーツ指導者、保護者、教育関係者から「子どもたちが変わった」と高い評価を得ている。2016年からは「1人でも多くの子どもたち・選手が、その子らしく輝く世の中を目指して」というビジョンを掲げ、全国にインストラクターを養成している。著書に「子どものやる気を引き出す7つのしつもん」(旬報社)がある。