01.16.2019
大津高校サッカー部が「100分しか練習しない」5つの理由。それでも50人近いJリーガーがなぜ生まれたのか?
第97回全国高校サッカー選手権では、優勝した青森山田高校に3回戦で敗れるも、九州の強豪校として全国的に知られる「熊本県立大津高校サッカー部」。
現役選手では、サークル・ブルッヘ(ベルギー)の植田直通や、川崎フロンターレの谷口彰悟、車屋紳太郎、過去には巻誠一郎や土肥洋一など50人近いプロサッカー選手を輩出しています。
彼等を指導したのが、サッカー部総監督で熊本県宇城市の教育長を務める平岡和徳氏。
多くのプロサッカー選手を輩出した背景には、「職業は教師 仕事は人づくり」と自認する平岡氏ならではの指導哲学やスタンスがあります。
例えば、日常生活や挨拶など「当たり前のことを当たり前に 人並み以上に一生懸命にやる」という「凡事徹底」の考え方もその1つ。そして大津高校サッカー部の大きな特徴が、部活動での全体練習を「100分間」と区切っていること。なぜ、トレーニング時間を100分間と区切っているのでしょうか。(取材・文・写真:井芹貴志)
※この記事はサカイクからの転載です。
(部活動の全体練習は100分と決められている)
1.終わりを決めることで、途中を頑張る
サッカーは試合時間が決まっていて、試合中もベンチから残り時間を伝えたり、大きなビジョンに表示された経過時間を目にしたりすることで、試合が終わるまでに何をすべきか考えることができます。プレーしている選手達は、リードしていれば「残りの5分、最後まで踏ん張ろう」と思い、逆にリードされていれば「残り10分でどんな攻撃をすれば追いつき、逆転できるか」と考えたりします。大津高校で行われている練習もこれと同じで、スタートしてから100分と終わりの時間が区切られていることで、途中の時間を全力で頑張ることにつなげているのです。
2.集中力を維持する
終わりの時間が決まっているということは、できることが限られる、ということを意味します。練習の最後に15分ハーフのゲームをやろうとすれば、前後半の30分やその準備を除いたそれまでの60~70分で、ウォーミングアップやパスコントロール、対人練習、あるいはゲーム後のクールダウンの時間を組み込まなければいけません。こうして100分間を区切っていくと、テンポよくトレーニングが進み、無駄な時間は削ぎ落とされ、内容が濃くなります。同時に、1つ1つのメニューにかける時間も限られるので、選手達の集中力を維持することになるのです。
(1つ1つのトレーニングに高い集中力で臨める)
3.良い流れや課題を翌日につなぐ
選手の心理を考えると、「今日は調子が良いな」と思えるパフォーマンスができている日は、「もっとやりたい」という気持ちが強くなりがちです。しかし、だからといって長時間やりすぎてしまうと、オーバートレーニングになったり、あるいは翌日のモチベーションが低下したりすることにもなりかねません。「今日、ここまでできたから明日はこのプレーにチャレンジしてみよう」「今日はこのプレーができなかったから、明日はこのポイントを意識しよう」といったテーマや課題を選手達が自ら見つけ、翌日のトレーニングを心身ともに良い状態で迎える。全体練習の時間を区切ることは、そうした効果を狙ったものでもあります。
4.食事や睡眠もしっかり取る
発達段階の子ども達にとって、トレーニングと同様に十分な栄養や休息を取ることも欠かせません。部活動やクラブで一生懸命トレーニングをした後は、きちんとした食事を摂り、成長ホルモンが出るとされる夜間にしっかり眠ることが、健康な身体を作るうえでは大切なこと。また、学校での勉強や宿題をきちんとこなすことや家族との会話も、成長して大人になっていくためには必要です。長時間の練習で食事を取る時間や就寝時間が遅くなれば身体の発育にも影響が出ますし、睡眠不足では学校の授業にも集中できません。
トレーニング時間を区切ることは、そうした選手達の成長にとってもプラスの効果があると言えます。
(巻誠一郎ら多くのJリーガーを指導した平岡和徳さん)
5.24時間を自分でデザインできるようになる
こうしたことが積み重なれば、トレーニングに臨む姿勢や1日の時間の使い方に変化が生まれ、24時間をデザインできるようになっていきます。さらには、それぞれが主体的に中長期の目標を立て、それに向かいどんなプロセスを経ていけばよいのか、ということにも考えが及ぶようになります。全体練習が100分でも、自分の強みを伸ばし、あるいは弱点を克服するための自主練習は、自ら1日をデザインして組み込めば良いのです。これはサッカーにおける目標実現にとどまらず、受験のための学習から、将来どんな大人になりたいかという大きなものまで、自分なりの目標を描き、そこに向かって地道に努力できるようになることにもつながるのです。
大津高校からは、多数のプロ選手だけでなく、教員やコーチとなって次の世代の育成に携わっている人材も多く出ています。その理由は、100分トレーニングの狙いに込められたような平岡氏の指導哲学やスタンスに接した選手達それぞれが、進化のための変化に主体的にチャレンジし、諦めない才能や人間性を磨いてきたからなのです。
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取材・文 井芹貴志 写真 井芹貴志