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複雑な状況の中でもパスを繋いで攻める方法/サッカーの基本技術を正確に習得するトレーニング

COACH UNITED ACADEMYでは、筑波大学大学院でサッカーコーチング論を研究する傍ら、選手育成や普及活動を行う内藤清志のトレーニングを公開中。後編のテーマは「前編で行ったパス&コントロールを実践するための応用練習」。前編からの流れを継続し、「相手を速くさせないことで、相対的にスピードで上回る」(内藤氏)という狙いのもと、「パス&コントロール→シュート」という練習からスタートした。

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正確にボールを扱うことで、受け手にパスの出るタイミングを示せる

設定としては、ゴール前で相手DFと入れ替わるようにパスを受け、シュートまで持ち込むというシチュエーション。ここでは「出し手の状況を考えながら、相手の背中側に侵入しようとすることでオフサイドにならないようにすること」を考えながら、パスの受け手はどの状況でボールを呼び込むのか。パスの出し手は、正確にボールを扱うことで受け手にタイミングを示すことが大切であり、また、どのコースにパスを出すのかといったところにもフォーカスしていく。

内藤氏は選手のプレーを観察した後、パスの出し手に次のようにアドバイスを送った。

「受け手がパスの来るタイミングより先に動き出すと、実戦では相手に気づかれてついて来られてしまう。受け手は(守備役として設置した)マーカーの脇でボールを受けることが最終ラインを突破すると考えたら理想的だが、出し手のパスが出せるタイミングが共有できていれば、受け手はスピードを落とさずそのポジションに侵入できるよね」

考え方としては、パスの受け手がボールを追いかけるのではなく、受け手が走るコースに対して、ボールの方が追いかけてくるイメージだ。そして、ボールを前にコントロールするのではなく、身体とボールが離れないように考えたときに、身体が動いているからボールも一緒に付いていっているというイメージで、一連の動作の中でシュートに持ち込んでいく。

続いてのトレーニングは「3対2」。グリッドの中に攻撃側3人と守備側2人が入り、ボールをポゼッションする。ここでは、前編で紹介したキーワード「未来へのパス」「過去へのパス」という言葉が飛び出した。

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攻撃側の選手に対して「パスを受けるラインを引きながら、未来のパスのラインも考えよう。そうすると相手がパスコースを切ってくることがあると思うので、ドリブルで局面を打開するアイデアも忘れないこと。パスだけを考えていると身体が力んでしまい、ドリブルが出来ない態勢になっていることがあるので、力まずにドリブルもあることを相手に意識させよう」とアドバイスし、考え続けながら、判断の変更に対し、身体が反応することを要求していく。

複雑な場面では、「認知」、「判断」、「実行」の正確性が求められる

この日のトレーニングの締めくくりは「2vs0+1vs2+1vs1」。ペナルティエリアを4つのエリアに区切り、手前のエリア1で2人の選手がパスを交換し、エリア2の状況で1対2の数的不利になっている味方にパスを出す。エリア2にボールが入れば、エリア1にいた2人の選手も攻撃に参加し、前進してOK。最終的にエリア4のゾーンへの進入を目指す。

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ここでポイントになるのが、パスの出し手と受け手のコミュニケーションだ。どこでボールを受けるか。そのためにいつ・どう動けばいいか。さらには受け手の動きに合わせて、どのタイミングでパスを出せばいいかといった、状況把握とタイミングを逃さない決断が重要になる。

トレーニングの中で内藤コーチが指摘していたのが、パスを受ける選手の動きについて。エリア2には、攻撃側1人に対して守備側2人の数的不利なので、相手と駆け引きをしてマークを外し、エリア1の味方からパスを引き出さなければいけない。攻撃側の選手(パスの受け手)は、守備側の選手のお腹側でパスを受けたい場合は、一度背中側に動いて釣り出しておいて、ボール保持者側でパスを受け、攻撃を始める。

守備側の選手の背中側で受けたいなら、お腹側に落ちてきて、相手が出てきたところで、背中側に入るといった動きの工夫が必要になる。もちろん、相手の動きを事前に決定することはできないので、相手の動きの中から受けることができるポイント・タイミングを見極めていくことが必要となってくる。

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さらに、パスの出し手はアクションを起こす味方に合わせて、タイミングよくパスを出さなければいけないので、認知、判断、実行のスピードと正確性も求められる。選手たちのプレーぶりは、ぜひ動画で確認してほしいのだが、内藤コーチは、

「エリア1でボールが動いている瞬間はパスが来ないので、そのタイミングで相手から離れてもボールは出てこない。パスをもらうのもテクニックのひとつだよ。もらうテクニックが身についていて、パスが出るタイミングで相手からフリーになれる選手は、止め方はいつも通りで大丈夫だよね。その局面には相手がいないと同じなのだから。しかし、パスの受け方を考えない選手は、空いている場所にボールを動かしてコントロールするなど、止め方を工夫しなければいけない。そうなると、ボールコントロールが難しくなる」

など、判断と技術に働きかけるコーチングをし、選手たちの意識を変えていく。

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「トレーニングで意識したいのは、正確にボールを扱うことで、プレーの実行が速くなるのを理解すること。そして、ボールが来る前に考えておくという頭の準備。サッカーは相手がいるスポーツなので、相手に速くプレーさせないようにすることも考えたい。選択肢が複数あると、相手の狙いに迷いが生じ、動きは遅くなる。大事なのは動くタイミング、そして状況を見ること。集団に共通認識が生まれると、サッカーは速く、正確になる」と話し、「今日のトレーニングで学んだパス&コントロールは目的ではありません。あくまで手段です。目的はそれを使って相手を攻略し、ゴールを奪うこと。これらの技術を身につけて、相手と勝負できる選手になってほしい」とアドバイスを送り、トレーニングを締めくくった。

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【講師】内藤清志/
筑波大学を卒業後、同大学大学院に進学。それと同時に指導者を志し、長く筑波大学蹴球部の指導にあたる。
その後、サッカースクール・ジュニアユース年代の指導を経験した後、現在は筑波大学大学院に戻り自身が所属するサッカーコーチング論研究室の研究活動の傍ら、サッカーの強化・育成・普及活動を行う。