12.25.2018
スピーディーな動きの中での技術と判断力を身に付けるには? /濵吉正則氏が考案する「ダイナミックテクニック」
ボール扱いは上手だが、試合の中で発揮できない選手に対して、どのようなトレーニングをすべきだろうか? また、ボールコントロールやドリブル、パスなどの技術レベルが成長過程にある選手に対して、どのようなトレーニングが効果的なのだろうか? このような、多くの指導者が疑問を持つ事柄に対して、UEFA PRO Coaching Diploma(ヨーロッパの最上級指導者ライセンス)を保持する、濵吉正則氏がひとつの提案をする。それが「ダイナミックテクニック習得のトレーニング」だ。(文・鈴木智之)
ダイナミックテクニックとは、サッカーのゲームの中で、動きながら頻繁に繰り返される、動的(ダイナミック)な技術のことで、濵吉氏は次のような例をあげる。
ダイナミックテクニックに含まれる技術要素
・パス
・ボールコントロール
・ドリブル・フェイント
・ボールを運ぶ・突破
・ターン・スクリーンターン
・ワンタッチ・パス
・背後へのパス
・壁パス
・リターンパスからの楔へのパス
・3人目のパス
これらの、サッカーの試合で頻出する動作の習得において、どのようなトレーニングの組み立てが良いのだろうか? 濵吉氏は次のように提示する。
ダイナミックテクニック習得に必要な要素
・2つ以上のアクションの組み合わせ
・動きのタイミング
・ポジショニング
・スプリント
・動きながらのプレー
濵吉氏は「これらを数多く、繰り返し、テンポよく、集中が途切れないためのトレーニング設定(人数、動きの範囲)をしながら、プレースピードを要求していきます。また、指導者の視点からも、プレーのチェックをしやすい設定がポイントです」と説明する。
基礎的なトレーニングからすばやく足を動かし、流れるようなプレーを意識する
動画では実際にダイナミックテクニック、シチュエーションテクニック、ゲーム形式のトレーニングを紹介してもらった。ここでは、数あるトレーニングメニューの一部にフォーカスして解説したい。
1)ドリブル→キックフェイント→パス
やり方:選手は向かい合った2つに分かれた状態でスタンバイし、コーチの合図で同時にスタート。グリッドの中央にマーカーが横に3つ並んでおり、選手はマーカーをキックフェイントでかわして、前方にいる選手にパスをする。受け手は逆の動きを入れて、パスを受けた逆方向からドリブルを開始していく。
ポイント:キックフェイントをするときは、左腕を上げて、立ち足を行きたい方向とは逆に向ける。ドリブルから右前方へ、右足のアウトサイドでボールを持ち出す瞬間に、スピードを上げて、一歩前に押し出す。
「左右両足を使って、両方の足で練習をしましょう。キックフェイントの次はシザーズです。左足でボールをまたいだら、右足でボールを斜め前に持ち出します。ここでもポイントは、相手の足が届かないところでシザーズをすること。大きく、外に一歩を踏み出し、重心移動をしっかりとしましょう」
2)ドリブル→スクリーンターン→ワンツー
やり方:設定は練習1と同様。選手は右前方にドリブルをし、コーンの手前で右足のアウトサイドを使って、ボールをコントロールしてターンをする。次にボールを左足に持ち替えてドリブルし、コーンの手前で左足のアウトサイドを使い、ボールをコントロールしてターンをする。そして右足のインサイドでボールを前に大きく持ち出し、右足で前方の選手にパスを出す。
ポイント:ターンをするときに、腕をしっかりと上げること。相手を抑えるために必要な腕の使い方なので、意識的に腕を振り上げる。相手がいない状況だが、実戦をイメージしてプレーする。
「ターンのときに腕を使って、相手をブロックする意識を持ちましょう。そしてターンしたあとに速くボールを持ち替えて一歩目を大きく前に踏み出し、その瞬間のボールコントロールで相手を抜き去るイメージを持ちましょう」
3)四角形でのパス交換
やり方:選手が四角形の角の位置にスタンバイし、パスの出し手と受け手に分かれてスタート。受け手はまず後方に数歩動いてから、パスの出し手に寄っていく。そのタイミングにあわせてパスを出す。受け手はワンタッチで落としてステップバックし、リターンパスを受けて方向を変え、次の選手にパスをする。
ポイント:パスの受け手は、次はどこに動くかを考え、ボールを預ける選手と目を合わせる。ボールをリターンした瞬間、ボールだけを追わず、次にパスを出す相手を見る。
「ボールを味方にワンタッチで折り返した後に、すばやく足を動かしましょう。ボールの受け手はスプリントでボールに寄り、動きを止めないで、流れるようにプレーすることを心がけましょう」
この動画の全編はCOACH UNITED ACADEMYで配信中!詳しくはこちら>>
動画ではここで紹介した以外に「チェックの動き→スクリーンターン→パス交換」「ドリブル→キックフェイント→ワンツー→逆サイドへ移動」「パス→ターン→ワンツー→逆サイドへ移動」「3人が連動するワンツー」「チェックの動き→ターン→ワンツー」など、トレーニングの実演が続く。
濵吉氏はCOACH UNITED ACADEMY読者に向けて、「動きながらボールをコントロールする。パスをする、突破をする。味方からのボールを受ける、ターンする。スクリーンをしながら前を向くなどのプレーをスピーディに行うことが大切です。選手のミスを止めすぎず、タイミングよく助言してみてください」とアドバイスをくれた。
これらは、実戦に近い状況を作ることで、試合で使える「生きた技術」や「技術を発揮するための判断」にも、アプローチすることのできるトレーニングだ。ぜひ動画を参考に、日々のトレーニングに取り入れていただければと思う。
【講師】濵吉正則/
九州産業大学サッカー部監督、HAMAサッカー塾インターナショナル代表。UEFA PRO Coaching Diploma(ヨーロッパサッカー連盟公認プロコーチライセンス)。スロベニアサッカー協会公認 プロコーチライセンス。中学・高等学校1種 保健体育教諭免許。スロベニアでコーチングライセンスを取得し、柏レイソルU18監督、名古屋グランパスコーチ、U15監督、徳島ヴォルティスユース監督、トップチームコーチ、ギラヴァンツ北九州コーチ、大宮アルディージャテクニカルアシスタント、監督通訳などを経て、2016年にSVホルン(オーストリア2部リーグ)の監督に就任。その後、ホルンの育成センター、アカデミーアドバイザーを経て、2018年より現職。
取材・文 鈴木智之