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サッカーのジュニア年代で大切なことは「普遍的なものを偏りなく多様に学ぶこと」

COACH UNITED ACADEMYにも講師として出演し、現在、九州産業大学サッカー部を率いる濱吉正則氏。 スロベニアでヨーロッパの最上級指導者ライセンスであるUEFA PRO Coaching Diplomaを取得し、名古屋グランパスや徳島ヴォルティス、ギラヴァンツ北九州でコーチを務め、SVホルン(オーストリア)では、ヨーロッパのプロリーグで日本人初となる監督を務めた。

日本とヨーロッパの育成からトップカテゴリーまでをよく知る濱吉氏が10月22日に「UMBROアカデミー2018」にて行った「プレーモデル・プレー原則に従ったトレーニング理論」のセミナーレポート後編をお届けする。(文:木之下潤)

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4種にはプレーモデルだけでなく、基本技術や多様性も大事

セミナーの前半では、濱吉氏はプレーモデルを作り上げていく過程で、指導者に必要な知識と指導理論を自らの体験談を交えながら説いてくれた。後半では、4種の選手たちにどうトレーニングさせたらいいのかを様々な角度から講義してくれた。

最初に、濱吉氏は「4種年代の選手たちにはプレーモデルだけに特化したトレーニングを行うことは難しい」と語った。その理由に基本技術の獲得と動きの多様性を挙げた。

「プレーモデルを学ぶには、プレー原則に基づき複合的なトレーニングを行わなければなりません。でも、4種年代では部分的に切り取って身につける必要もあります。だからといって対面パスを続けるわけではありません。日本の指導はAができたらB、BができたらC、CができたらDというふうに順序立てて行いますが、それだけでは多様性が生まれません。

あるコーディネーションの本を読んだ時に共感した内容でこういうことが書かれていました。『動作の習得の際に10回やったら10回成功しなければならないといった考えに縛られて結果的に動作の多様性が失われている感がある。指導者のコーチングの目標が高すぎるのです。この動きは正解なのだと言いすぎてはいけません。60%位の再現性にとどめて、どの状況にも対応できる柔軟な身体を目指してください。コーディネーションの目的は動作の多様性や柔軟性を養うことにある』(コーチングクリニクック10月号より要約)

よく日本選手は「練習時のプレーはめちゃくちゃうまい」と聞く。濱吉氏もそこは「同感」だといい、「下手すると、九産大の選手たちはJリーガーの選手たちよりもうまいです」と続けた。ただ「ゲームになると、オーストリアの選手たちよりの方がうまいです。そこに大きな違いがありますし、彼らには動きの多様性やアイディアの豊富さなどがあります」と語った。そして、クロアチア代表選手たちを例に挙げて紹介してくれた。

「ワールドカップでクロアチアが準優勝をしましたが、だからとあの国にいって目新しいメソッドがあるかと言えば、それ程目新しい物はないと思います。ただ彼らにとって唯一のメソッドらしいものがあるとすると、ストリートサッカーです。モドリッチやマンジュキッチらはストリートサッカーの中で育っています。彼らが住んでいた地域は団地群で、『二号棟×三号棟』みたいな感じで日が暮れるまで試合をしていたそうです。プレーモデルは存在していませんが、異なる年代や体格の選手たちが集まっているし、対応力や多様性、アイディアは身につきます。

だからといってストリートサッカーだけで全てのインテリジェスが鍛えられるかというと、そうではありません。やはり空間的・時間的な制約をつけたトレーニングを積んでいかないと、そういう部分は養えません。そこは指導者たちに求められる役割です。育成年代において重要なのは、近代サッカーをプレーできる選手を育成することです。自分たちなりのプレーモデルを目指すことは、それが発育発達時に身につけておかなければならないことの指針につながります」

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時間的・空間的な制約があるからインテリジェンスが身につく

では、プレーモデルを一体どうやってデザインしていくのか。濱吉氏は「毎回のトレーニング、それぞれの練習メニューがプレーモデルやプレー原則につながっていることが大事」だと主張した。

「例えば、1日のトレーニングでABCという練習メニューがあるとします。それぞれにあまり脈絡がなければ、プロのサッカー選手でも『何がテーマなのか』『どうプレーモデルにつながるのか』はわかりません。でも、どうやってプレーモデルへと落とし込んでいくのかは、方法がたくさんあります。

大切なことは技術を試合形式に近い練習の中で学んでいくことです。もちろん年齢に応じてドリル的なトレーニングが必要な時もあり、それをゲームインテリジェンスに発展させるためには運動記憶、要はいろんな動きを掛け合わせてプレーできることを体に組み込んでいかなければならないことです。それにはストリートサッカーのような主観的なトレーニングだけをやっていては習得できません。プレーの原則を段階的に学んでいくことで同時に運動記憶も養われます」

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育成年代で大切なことは「普遍的なものを偏りなく多様に学ぶ」

濱吉氏は「サッカーは動きの中でプレーするもの」だといい、運動学的な考え方でフィジカルの部分も重要視している。それをダイナミックトレーニングとして落とし込んでいる。さらにトレーニングには「メンタルへのアプローチが不可欠だ」と口にする。

「確かにプレーモデルに従ったトレーニングをする上では言語化や可視化は大事なことです。でも、それ以上に選手たちの集中力を持続させられないと、試合の状況に近い練習ができないから意味がありません。その中では、認知力や判断力は上げられませんから。日本の選手たちはミスをしないようにプレーします。その時点で、プレー原則に伴う判断基準とは違う方向に進んでしまっています。だから、私は九産大の選手たちにも『ミスしてもいいから思い切りプレーしよう』と口酸っぱく伝えています。そうしなければ本当にインテンシティの高いトレーニング環境へとつながらないからです」

個人のインテリジェンスを磨くにはインテンシティの高いトレーニングが必要だし、その環境には時間的・空間的な制約があるからプレーの先を読み解く力が磨かれていく。濱吉氏は「決してダラダラしたトレーニングでは、先読みは身につかない」という。そして、日本の指導の大きな課題の一つに「やらせ方」を挙げた。情報化社会の発展で、今は誰もが世界中の情報を手に入れることができるので練習メニュー自体にそれほど違いはない。

しかし、単に指導理論やメソッドを表面的に勉強しているため、各トレーニングを自分なりの解釈を持ったやらせ方にまで発展させていない。参考にした情報は文化的な背景も含まれるので、そこまでを認識しながら学ばなければならないが、そうは解釈できていない。

「育成年代で大切なことは、普遍的なものを偏りなく多様に学ぶことです。何かに特化したものばかりに集中してしまうと土台となるものが欠けてしまいますから。そして、最後に、ラグビーの平尾誠二さんの本に書かれてあったものを紹介します。『原理原則さえしっかりしていたら、あとは自分のやり方がある。いろいろな形で「トライ・アンド・エラー」をしながら経験する事によって、初めてノウハウは蓄積されるのだ(引用元:人を奮い立たせるリーダーの力 平尾誠二著)』。日本的教育の減点法の指導ではなく、選手たちがチャレンジをするリスクを怖がらない、加点して積み上げていく指導を行うためにも、一度プレーモデルについて考えてみてください」

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濱吉正則(はまよし・まさのり)
九州産業大学サッカー部監督、HAMAサッカー塾インターナショナル代表。UEFA PRO Coaching Diploma(ヨーロッパサッカー連盟公認プロコーチライセンス)。スロベニアサッカー協会公認 プロコーチライセンス。中学・高等学校1種 保健体育教諭免許。スロベニアでコーチングライセンスを取得し、柏レイソルU18監督、名古屋グランパスコーチ、徳島ヴォルティスユース監督、トップチームコーチ、ギラヴァンツ北九州コーチ、大宮アルディージャテクニカルアシスタント、監督通訳などを経て、2016年にSVホルンの監督に就任。その後、ホルンの育成センター、アカデミーアドバイザーを経て、2018年より現職。