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日本に足りないのはサッカーを論理的に伝える「言葉」/10年後に活躍する選手を育成するために:濱吉正則

COACH UNITED ACADEMY、今回の講師はスロベニアでヨーロッパの最上級指導者ライセンスであるUEFA PRO Coaching Diplomaを取得し、名古屋グランパスや徳島ヴォルティス、ギラヴァンツ北九州でコーチを務め、SVホルン(オーストリア)では、ヨーロッパのプロリーグで日本人初となる監督を務めた濱吉正則氏。

育成年代からトップチームまで、豊富な経験を持つ濱吉氏は、日本とヨーロッパの指導における違いをどう感じているのか。現場の最前線で得た経験を、日本の指導者に還元するセミナーの様子を紹介したい。(文:鈴木智之)

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10年後に活躍する選手を育成するには?

オーストリアのSVホルンで、監督として指揮を執った濱吉氏。オーストリアには南野拓実が所属するレッドブル・ザルツブルクなど、欧州サッカーシーンで存在感を放つクラブがあり、代表選手ではアラバやアルナウトビッチなど、国外で活躍している選手も多い。

オーストリアのサッカーについて、濱吉氏は「160cmから190cmまで、様々な体格差がある中で、早熟の選手も晩生の選手もオーストリアのスタイル、プレーモデルでプレーしています。4部リーグの試合を見ても、技術的にはそれほど高くはありませんが、選手全員に共通理解があり、同じようなスタイルがあります。そのため、選手個々が力をつければ、上のカテゴリーにピックアップされやすい仕組みができています」と印象を語る。

濱吉氏がコーチングライセンスを取得したスロベニアや、監督として指揮を執ったオーストリアはヨーロッパサッカーシーンの中では小国に位置づけられ、近隣のドイツやイタリア、フランスと比べてサッカー人口も多くはない。それゆえに「育成しなければ、選手がいなくなる」(濱吉氏)という状況下、効率的な育成に着手している。

濱吉氏は「選手は発育、発達に違いがあるので、育成モデルを作ってゴールを設定し、いま自分が見ている選手はどの段階にいるかを見極めることが大事」と語り、セミナーでは選手育成の成功要素が伝えられた。

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濱吉氏が言葉に力を込める。

「スロベニアのコーチングスクールで、最初に言われた言葉をいまでも覚えています。C級ライセンス取得の講習会で『時代遅れの選手を作るな。お前が育てた選手が10年後、使い物にならなかったら、お前の責任だ』とはっきり言われました。そこが、私にとっての育成の出発点だったと思います。10年後に活躍できる選手をどう作るか。どのようなスタイルが主流で、どのようなモデルの選手が必要なのか。ゴールがある中で、10年後、プロになれるように導いていきます。そのために大切なのは、指導者がサッカーを理解し、知ることです」

指導の世界には「指導者は学ぶのを止めた時、教えるのを止めなければならない」という言葉があるが、指導者が学び続けることの大切さを、濱吉氏は参加者に説いていく。

「オーストリアは小国ですが、様々なことを吸収できる環境でした。オーストリアでは夏に欧州の名門クラブがキャンプをするのですが、練習は公開していて、指導者と話をすることができます。奥川雅也選手がレッドブル・ザルツブルクの下部組織でプレーしていたとき、私は監督として何度か対戦したことがありました。試合を重ねるごとに、相手チームの監督から『うちのチームをどう分析した?』などの質問をされ、ディスカッションをしていると『今度、ザルツブルクを案内するから、練習を見に来い』と言ってくれました。監督として、日々、競争を強いられる環境にはいますが、情報に関しては非常にオープンなんですよね」

実際にセミナーでは、ブンデスリーガのホッフェンハイムのトレーニング風景が公開された。開幕前のキャンプ時に、実践的なトレーニングをする姿が収録されており、セミナー参加者は貴重な映像に見入っていた。

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言葉で論理的に伝えないと理解されない

ヨーロッパは陸続きで、人の移動も容易だ。そのため、情報が行き渡るスピードも早い。濱吉氏は日本帰国後、欧州にいるときと日本とで情報格差を感じたという。

「UEFAライセンス(UEFA PROGRAM)のおかげで、いろいろな国の良い指導を知ることができます。セミナーやライセンス講習で情報が共有されたことで、ヨーロッパのトレンドがさらに加速したと感じています。毎週、試合の中で戦術が変化していき、そのスピードが速いんですよね。私がJリーグにいたときに感じたものとは、まったく違うスピード感でした。たとえば、グアルディオラ監督がある戦術を用いたとすると、翌週にはオーストリアのチームが真似をしていたりと、監督も常に進化しています。以前、ベンゲルのところに勉強に行ったときに『監督はトレンドに従って、1歩、2歩前に出ないと生き残っていけない』と言っていました。競争が激しいので、学ばないと生き残れないんです」

国籍、年令問わず、優秀な監督にチャンスが与えられるのが、ヨーロッパのスタイル。結果として競争が加速し、優秀な指導者が次々に輩出される土壌がある。地理的なハンデゆえにガラパゴス化しかねない日本にとっては、参考になる部分だろう。

「日本は世界一、お金をかけてヨーロッパに勉強に行っている国だと思います。ですが、日本のスタイルはまだできていません。たとえばドイツは2000年の欧州選手権で敗れた後、スペインやオランダから良いところを学び、それをドイツに当てはめました。スペインもオランダやフランスから学び、スペインのサッカーが形作られました。日本も世界のトレンドに従いながら、日本人化したサッカーを作り上げていくことが重要になると思います」

日本サッカーを日本人化するためには、どこに重点を置くべきか。濱吉氏は「日本人は俊敏性、アジリティがあり、技術も悪くはありません。規律に優れていて、雰囲気を読み取ることにも長けています」と前置きをした上で、「空気を読むことが重視されるため、言葉にして論理的に伝える部分が苦手なのではないか。ヨーロッパに行って、そう感じました」と述べる。

濱吉氏が指揮を執ったSVホルンは多国籍なチームで、ヨーロッパ、アジアなど、様々な文化的背景を持つ選手が所属していた。そのため「言葉で論理的に伝えないと、理解してもらえない」と感じることが多々あったという。

「物事を論理的に伝える、論理的にサッカーを理解することが大切で、欧州の指導者に『日本の選手はテクニックはあるが、戦術面が足りない』と言われるのは、論理的にサッカーを理解していないことに一因があるのではないかと思います。『自分たちのサッカー』といった感覚的なものではなく、相手に対してどう戦うか。味方とどうサッカーをしていくかという、論理的な面を向上させることが必要だと思います」

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今回のセミナーのテーマは「10年後に活躍する選手を育成するために」である。セミナーでは、近代サッカーのモデル、近代モデルの選手。近代サッカーモデルに即した、青少年育成サイクルとトレーニングモデルといったトピックで、話は多岐に渡った。興味がある方は、ぜひCOACH UNITED ACADEMY動画をご覧頂ければと思う。ヨーロッパでの指導のエッセンスを感じることができるはずだ。

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【講師】濵吉正則/
九州産業大学サッカー部監督、HAMAサッカー塾インターナショナル代表。UEFA PRO Coaching Diploma(ヨーロッパサッカー連盟公認プロコーチライセンス)。スロベニアサッカー協会公認 プロコーチライセンス。中学・高等学校1種 保健体育教諭免許。スロベニアでコーチングライセンスを取得し、柏レイソルU18監督、名古屋グランパスコーチ、徳島ヴォルティスユース監督、トップチームコーチ、ギラヴァンツ北九州コーチ、大宮アルディージャテクニカルアシスタント、監督通訳などを経て、2016年にSVホルンの監督に就任。その後、ホルンの育成センター、アカデミーアドバイザーを経て、2018年より現職。